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米入国禁止訴訟 大統領の暴走を止めた

 米国の司法がトランプ大統領の暴走を止めた格好である。

     イスラム圏7カ国からの入国を一時禁止する米大統領令に対し、カリフォルニア州の連邦控訴裁判所が連邦地裁による差し止めを支持した。

     判事3人による全員一致の判断であり、トランプ政権の完敗といえよう。大統領は「米国の安全が危機にひんしている」として連邦最高裁などに訴える構えだが、上訴は断念してはどうか。大統領令自体がいかにも拙速で乱暴だったからだ。

     特定の国々を対象に突然、ビザを無効にすれば世界が混乱するのは当然である。留学生が米国の学校に戻れず、米国の病院で手術を受けるためにビザを取っても入国できない。そんな状況が目に見えているのに大統領令は強行された。

     それも米国の安全のためだとトランプ大統領は主張する。だが、控訴裁での審理でトランプ政権(司法省)の代理人が、名指しされた7カ国とテロの関係を説明できなかったのはお粗末と言うしかない。

     3日にワシントン州の連邦地裁が大統領令の即時停止を命じる仮処分を決めたことについて、「大統領令を地裁が覆すのはおかしい」としたトランプ政権の主張も退けられた。裁判所が行政命令の適法性を判断するのは当然だという控訴裁の見解は、きわめて常識的である。

     どうやらトランプ大統領は司法より大統領の意思が優先すると考えているらしい。地裁の仮処分について大統領が「いわゆる裁判官の意見はばかげている」と語ったことも司法軽視を物語る。三権分立に対する根本的な誤解がありそうだ。

     トランプ大統領から連邦最高裁の判事に指名されたゴーサッチ氏も大統領の司法攻撃に遺憾の意を表明した。連邦最高裁は現在、保守派とリベラル派が4人ずつ。同氏が承認されるとしても時間がかかりそうで、4対4のまま控訴裁の見解を支持することになるとの見方もある。

     とはいえ世論調査で大統領令を支持する米国民も少なくなかったことは、移民や難民とテロをめぐる問題の難しさを物語る。2001年の米同時多発テロ以来、米国民は自分たちの安全を真剣に考え続け、今なお揺れているのだろう。

     だが、米国内のテロ予備軍も多いとされる中、やみくもにイスラム世界に門戸を閉ざすのは正しい道とは思えない。トランプ氏は大統領選で「イスラム教徒の全面入国禁止」を訴えたが、差別と排除の発想を変えない限り、真のテロ対策は難しい。

     多様な意見に基づいて出直すべきである。拙速な大統領令にこだわって法廷闘争を続けても、米国の孤立と国内外の分断が進むばかりだ。

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