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2017.02.05.Sun. 

[][] “虐殺器官



“虐殺器官 Genocidal Organ
 監督 : 村瀬修功
 原作 : 伊藤計劃
 2017


  • 映像良かったと思う。キャラデも作画もわりと気に入っている。演出でのディテールが豊潤。
    展開としては途中に冗長なところもけっこうあったものの(「月光」とか観戦シーンとか)、軍事作戦描写はなかなか良かった。
  • 「死後の世界」とか家族関連の部分が削除されてた点には反発も多そう。原作でもたるいと思える個所ではあるのだが、あれが物語の意味合いを決定的に左右する重要なものであったのは事実。
  • 思想披露や感情提示みたいなところはもうどうでもいいやって感じで脳を通り過ぎていった。原作通りだから仕方ないとしても、こういった思想自体へ興味なくなってることに加えて、現実の世の中の方がはるかに滑稽に進んでるからな…っていうのが否めず。(後述)
    内容はともかく、映像作品で思弁性をどう語るかっていうのは一般的に難しいことではある。この映画のように、どうしても登場人物の静的対峙みたいになりがち。並行して何らかの緊迫した動的な軸を展開するというのがよくある手法だったりするけれど、そういう工夫は少なかったかも。
  • 最後のところは、原作読んでないとちょっとわかりづらそう。「文法」を追った形跡も描かれてるので原作と同じ顛末が控えていることはわかるのだが……。
    まああの台詞で終わるのはひとつのやり方だと思う。一応あれで映画全体が視聴者に「文法」を仕掛けてるという構図も果たせているので。
  • 作品外状況の話で言うと、当初の制作会社が倒産してそれを新会社が引き継いで完成させたという経緯自体もおもしろいところ。
    紆余曲折のわりには充分なクオリティで仕上がっている。さまざまなガジェット、兵器。あるいはプラハの街並みだとかが映像として示されるのは視覚的愉楽があった。
    (ただ、「優先割込み」は priority interruption じゃなく原作の元ネタ通りの表現 override にしてほしかったところ)





  • 以下は時評的な話。

 第45代大統領に翻弄される現在のアメリカと『虐殺器官』の内容がつながるのか否かという問いについては、この作品は見事に現在を予見していると見る意見と、そのように結びつけるべきではないとする意見が対立していきそうな気配が漂っている。
 自分としては、現実世界のこの状況が到来したことで『虐殺器官』は(ようやく)古くなることができた、ということを上映中しばしば考えながら見ていた。

 『虐殺器官』の最後で描かれるイメージは、あたかも現大統領およびその周辺がおこなう言動によって巻き起こされている騒動と今後起こるだろう更なる混乱の予言であるかのように見えなくもないんだけど、でもやはり『虐殺器官』の未来像は「脱-事実」なる時代の危機状況と似ているようで差異がある。作中の虐殺文法というのは人間が本性として持つ可能性の一部が人為的に解放され抗えずに連鎖していく図式。一方、今現実に起こっていることのポイントは、一挙に放出された欺瞞と不寛容を今まで押しとどめることができていたのはいかなるメカニズムによるものだったのか、というところの方にこそある。この差を無視して後者を前者に包含させて語ることは、問題がどこにあるのかをずらしてしまう。(もちろん問題はアメリカだけにかぎるものではないし2017年に始まったわけでもないという点が重要。)

 悪夢と喜劇が表裏一体のように日々更新される現況がいかなる意味であたらしいのか、誰がどう見抜いて言い当てることができていたかは今後整理されていくことだろう。アメリカでオーウェルが読み直されているというのもその流れにある。
 伊藤計劃を同様の予言者に列席させるべきかについては自分としては否定的。現状の問題に直結できる個所がテクスト内にないことはないんだけど、少なくとも「Amazonで買い物しビッグマックを廃棄するような生活を守り残りの世界を惨状に追いやる」という構図は、そうした生活の自明性が喪失したことが広く意識されてしまったラストベルト的な状況下ではもう有効ではないと思っている。
 伊藤計劃作品の価値は同時代に対する観察眼とそこからの表現にあったのだから、時が経つにつれて古く映るようになるのは必然。何しろ10年が過ぎているし。存命であればその後の時代を踏まえて、より先を行く作品をつくっていたのだろうけれど、それはもう叶わないこと。
 今のこの事態の先に何が来るのかというのは、むしろこれからのSFの課題。状況的にそれは相当困難な試みになり始めていると見ているのだが(さしさわりのない一例としては、2015年のヒューゴー賞をめぐる諸々)、だからこそ予想を覆すような作品が出てくればそれは傑作になるだろうと思わなくもない。




 

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―Angela Mitchell