■今回の一冊■
ALL THE GALLANT MEN
筆者 Donald Stratton
出版社 William Morrow
安倍晋三首相が昨年暮れ、真珠湾(パール・ハーバー)を訪問した。ちょうどそのころアメリカでベストセラーリストに顔を出していたのが本書だ。日本軍による真珠湾攻撃で最も多くの犠牲者が出た戦艦アリゾナの乗組員のうち、現在でも存命する数少ない元アメリカ兵の一人による回想録だ。ニューヨーク・タイムズ紙の週間ベストセラーリスト(ノンフィクション単行本部門)に昨年12月11日付で16位で初登場した後、12月25日付、今年1月1日付と連続して8位にランクインした。
日本軍による奇襲で撃沈した戦艦アリゾナは今でも真珠湾の海底に沈んでいる。犠牲者を追悼するため、その真上に設けたのがアリゾナ記念館だ。安倍首相はアリゾナ記念館を訪れ献花もした。本書によると、1941年12月の真珠湾攻撃で亡くなった米兵は合わせて2403人で、そのうち戦艦アリゾナの乗員だけで1177人が命を落とした。戦艦アリゾナの乗員で真珠湾攻撃を生き延びたのは335人で、今でも存命はわずか5人だけだという。当時、19歳だった筆者がその5人のうちの一人というわけだ。
筆者はからだ中に火傷をおったものの一命をとりとめ、苦しいリハビリを経て、なんと再び1944年に海軍に入隊し、太平洋戦争の終結間近の沖縄戦にも従軍した。まさに、不幸な日米戦の始まりと、実質的な最終局面に居合わせたことになる。古い世代のアメリカ人がいったい、真珠湾攻撃をどう受け止め、日本に対してどのような感情を持っているのかを知るうえで、本書はとても参考になるはずだ。安倍首相が真珠湾を訪問した際の演説で強調した「和解の力」が、どこまでアメリカ人の心に響くのか見極める助けにもなりそうだ。
真珠湾攻撃を生き延びた筆者は当然ながら、真珠湾攻撃は宣戦布告をせずに強行された卑劣な奇襲と批判的に評価する。
The Japanese had violated every code of honor that had been ingrained in us since childhood. Since my childhood, anyway. You didn’t sneak up on someone and hit him in the back of the head, without warning. We called that a sucker punch, and no self-respecting kid did it.
「われわれが子どもの頃から教え込まれてきた喧嘩のルールを、日本人はすべて破った。わたしだって子どものころから身に染みていた作法だ。こっそり忍び寄って何の前触れもなく、後ろから頭を殴るなんてことはしなかった。そんなやり方は不意打ちと呼び、プライドのある子どもはだれもそんなことはしなかったものだ」
こどもの喧嘩になぞらえるあたり、だまし討ちに対する屈辱感が表れている。筆者は日本軍のゼロ戦が爆撃してくるなか、戦艦アリゾナから命からがら脱出した。逃げ遅れる仲間たちが全身焼けただれたり、ちぎれた人体の一部が爆風で飛び散る悲惨な情景も記す。戦艦アリゾナは搭載していた燃料や爆薬などがゼロ戦による爆撃で引火し炎上する。甲板に投げ出された筆者は、戦艦アリゾナの隣に停泊していた修理船の水兵が投げてよこしたロープにぶら下がり、文字通り火の海の上を綱渡りして隣の船に逃げ延びたという。
体の3分の2にやけどを負った筆者はまずハワイの病院に収容された後、アメリカ本土西海岸のリハビリセンターに移される。前述したように、3年後に再び海軍に入る。真珠湾で日本軍から奇襲された時の自身の体験談はまさに、歴史の証言として読み応えがある。しかも、九死に一生を得た若者が国のために再び自らの意思で戦場に戻ったというあたり、アメリカ人読者の愛国心を鼓舞するに違いなく、本書がベストセラーになるのも不思議ではない。
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