アニメ化するはずがなかった? 原作者カルロ・ゼンが語る「幼女戦記」(後編)
アニメの制作過程で「有限のリソースの中、より良いものを作ろう」という引き算を実感したとのこと
(C)カルロ・ゼン・KADOKAWA刊/幼女戦記製作委員会「幼女戦記」原作者であるカルロ・ゼンさんのインタビュー後編は、アニメ化の話が来てからの話。カルロさんがアニメの制作現場にどれだけ思いを注いでいるのか、信頼を寄せているのか、じっくりとお読みください。
――本作がアニメ化されるという話を聞いた時は、どう思いましたか?
カルロ・ゼン(以下、カルロ):ないと思っていましたからね(笑)。かわいい子は出てきませんし、とてもアニメ化できる内容じゃないという話も聞いていましたから。けど、気がついたらアニメ化が決まっていて、あれよという間にスタッフも決まっていって。聞いた時はポカンでした。周りの同業の先生にも「ないと思います」と散々言っていたんですよ。おかげでアニメ化が発表になってから「よくも騙したな!」と言われるんですが、ホントに知らなかった(笑)。
――アニメ化に対して不安や期待といった気持ちはありましたか?
カルロ:さっきの話に戻りますが、アニメは小説と違って更に不特定多数の人に触れるので、調理方法も違うんですね。食べ物ばかりに例えて恐縮なんですが、もともと身内向けの料理だったものをレストラン向けに直さなきゃいけないんで大変ですよ。なにしろ味付けや食材を変えながらも、自分の料理らしさは大切にしなくてはいけない。加えて他人に出す以上、消化不良を起こしたり食中毒にならないか、というのも僕の心配事項でした。ただ、アニメに関しては完全に門外漢なので、変えられては困るところだけを監督やプロデューサーさん、脚本家さんに伝えて、後は任せようと腹をくくりました。任せる以上は任せた僕の責任です。なので、納得できるまでじっくりやりとりさせていただいていますし、すべて説明して作っていただいています。
――まったく知らない世界にいきなり参加するというのは大変だと思います。それにアニメだからとは言え、何でもできるわけではありません。その、何ができて何ができないのかという判断基準も、当初はわからない状態だったということですね。
カルロ:そうですね。まさしく、カルチャーギャップだらけでした。一例として、これはミリタリー界隈からの指摘でよくいただくことでもあるんですが、アニメでは半自動小銃が頻繁に出てきます。実は時代的にあまり普及していないので盛大に使うのはおかしいので、僕も「それはおかしいのでは?」と。ただ、そうでなければ一発ごとにガチャンとボルトアクションを入れなくてはいけないんですよね。ここが作画では非常に労力がかかる。だからセミオートにしていると説明されて、納得しました。兵器などの考証からすると、もちろん気になる部分ではありますが、アニメを作っている以上はどこにウエイトを置くのかが大事になってくるんですね。家電とかと同じで、引き算を覚える必要があった。有限のリソースの中、より良いものを作ろう、といった考え方なのかなと実感しました。
――上村泰監督とはそういったやりとりも多いと思いますが、監督の印象はいかがですか?
カルロ:最初にお会いしたのは顔合わせの時だったんですが、その時はですね、本当に申し訳ないのですが、いろんな監督さんが次々と挨拶をしてくださって、その中のおひとりという状態でした。アニメっていろんな監督さんがいるじゃないですか。だから「誰が本当の監督なんだろう…」と思っていました。
――作画監督や音響監督、美術監督などセクション毎にいますからね。
カルロ ええ…、でも話していくと、何も知らない僕にとても丁寧に説明してくださるんです。だから、この方に任せておけば変なことにはならないだろうと、安心できる監督さんだなと思うようになりました。
――シリーズ構成・脚本の猪原健太さんとは、どのようなやりとりをされましたか?
カルロ:脚本と構成という作業がどういうものかもわかっていなかったので、最初はかなり不安でした。どこまで口を挟んでいいのかわからず、変な遠慮をしてしまったり。でも、猪原さんには忍耐強く付き合っていただきました。プロットの作成にも何か月も費やし、第1話も何度も書き直していただきましたし、変更点や削った箇所の理由・意図は聞いたりしました。「お客さんが混乱しないように」とか「アニメは1話20数分なので」と。脚本に落とし込む時にエッセンスを抽出しつつ、コミカルに、あるいはシリアスに見せるには変更もカットも必要なんですね。今となってはある程度ミリタリーが好きな人の要点も押さえつつわかりやすさに配慮し、構成していくということを大変丁寧にやっていただいている、ということがわかっているので、先日お好きだとうかがっていたお酒を持っていきました。感謝というか、ご迷惑かけた口止め料です(笑)。
――実際に放送をご覧になっていかがですか?
カルロ:初日は怖くてブルブル震えていました。だいぶ挙動不審になっていましたね。放送時間帯はお酒も飲めないのにバーに行ってコーヒー頼んでパウンドケーキを食べて、「お客さんそろそろ」と言われるまでいました。
――キャストも見事なバランスですね。
カルロ:オーディションにも参加させてもらったのですが、ターニャ役の悠木碧さんは素晴らしいと思いました。また、ベテラン勢にも目が行きますね。外画っぽいし、実家のような安心感があります。
――アニメは12話で区切りが付くわけですが、カルロさんの視点から今回の決着点はどのように感じられましたか?
カルロ:あるべきところに落ち着いているのではないかな、と思います。まだ最終話までアフレコ収録が終わってはいませんが、流れとしては要点を押さえつつ、アニメで初めて知る方にも伝えつつとなると、今以外の形にするのは難しいのかなと。時間とメンツ、投入された労力の中で一番いいものができたと思っています。
――とても力強い言葉ですね。
カルロ:アニメとして、30分の枠の中に収めるために、さまざまな工夫が込められています。第1話が原作ノベルとは違いライン戦線から始まったのも、原作ノベルを未読の方が見て、一番掴みのいいところをまず持ってきている。エンターテイメントとして毎回30分の中に起承転結を付けている上で、わかりやすく、原作を読んでいる人にはさらに楽しめるような含みももたせつつ作ってあります。僕自身「そうなんだ!」と納得することばかりで、非常に勉強させていただきながら参加しています。
――カルロさんからの全面的なバックアップがあっての本作ということが実によくわかりました。それでは、作品を楽しんでいるファンに向けてメッセージをいただけますか。
カルロ:原作をアルカディア掲載時から読んでいただいている方には、ここまで来ちゃったんだけどどうしよう、アニメ化するはずがないと僕も思っていました!とお付き合いに改めてお礼を。書籍やコミックからの方には、ご縁に感謝を、と言いたいですね。
――(笑)
カルロ:書籍からの方には、楽しんでいただいたものがこうしてアニメになったのも皆さまのおかげかなと思います。また、コミックから興味を持っていただいた方も結構いらっしゃるみたいで、コミカライズを担当いただいている東條チカ先生には頭が上がらないです。東條先生はコミックで多くの人が楽しめるような工夫をふんだんにされていて、僕はそこも学ばせていただいています。コミックでは遊びのシーンの評判もよくて、ここまでコメディー側に振っても大丈夫なんだということがわかって、だいぶ楽になりました。
――確かに原作、コミック、アニメそれぞれにそれぞれの魅力がありますね。
カルロ:アニメから入ってきていただいた方には、コミックも原作ノベルもありますから、どちらも一緒に楽しんでいただければいいなと思います。そして、感想があればどんどん言っていただいた方がありがたいです。アルカディア連載時は読者の皆さんから反応を得ながら書いていたので進む方向を間違わずに来られました。でも今は書いてから出版までの間、反応がなくてものすごくドキドキしています。ですから、ぜひ正直に言ってほしいですし、これからもお付き合いいただければと思います。それから最後に、ひとつお願いを。皆様のお力添えのおかげで、ここまで来られました。夢というのは言っておくと実現するらしいので…ぜひ2期をやらせてくださいとお願いのほどを!【取材・文=細川洋平】
■テレビアニメ「幼女戦記」
放送 :AT-X…毎週金曜22:00~ ※リピート放送あり
TOKYO MX…毎週金曜25:05~
サンテレビ…毎週日曜25:00~
KBS京都…毎週日曜23:30~
テレビ愛知…毎週日曜26:05~
BS11…毎週月曜24:30~
先行配信:AbemaTV…毎週金曜25:35~
一般配信:ニコニコ動画・GYAO!ストア・Rakuten SHOWTIME・ひかりTV・バンダイチャンネル・U-NEXT・J:COM オン デマンド・PlayStation®Store・DMM.com・ビデオマーケット・HAPPY!動画・ムービーフルPlus
スタッフ:原作…カルロ・ゼン(「幼女戦記」/KADOKAWA刊)/キャラクター原案…篠月しのぶ/監督…上村泰/キャラクターデザイン・総作画監督…細越裕治/シリーズ構成・脚本…猪原健太/アニメーション制作…NUT
キャスト:ターニャ・デグレチャフ…悠木碧/ヴィーシャ…早見沙織/レルゲン…三木眞一郎/ゼートゥーア…大塚芳忠/ルーデルドルフ…玄田哲章
リンク:アニメ「幼女戦記」公式サイト