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「映像に表情をつける」音響効果の仕事を大解剖! プロが選ぶお気に入り曲も教えちゃいます

“読売テレビの社内で働くプロのスゴ技”を取材していくシリーズ第二弾、今回のテーマは「音響効果(音効)」のお仕事です。お笑い番組の賑やかなオープニング曲から、時代劇の殺陣シーンで耳にする「ブシュッ」という刀で切りつける斬撃音まで、さまざまな“音”で映像に表情を与えていくのが「音響効果」のお仕事。果たしてスタッフの皆さんは、どんな場所で、どんな作業をしているのでしょうか!? 知られざる現場を潜入レポートしてきました。

壁を埋め尽くす膨大なCD! 音響効果スタッフの戦場へ

やって来たのは、読売テレビの番組の企画制作から映像編集音響効果まで数多く手がける制作会社Nextry (ネクストライ)。いくつものスタジオブースが並ぶ社内を、音響効果スタッフの皆さんが使う「SE(サウンド・エフェクト)ルーム」目指して進んでいくと……こ、これはいったい!?


目の前に広がるは、通路両側を埋め尽くす膨大な量のCD! 棚は突き当たりを曲がってさらに奧まで続いており、見ているだけで気が遠くなってきました……。「はっきりとした枚数は把握できていませんが、万は軽く超えていると思いますよ」と、棚からCDをピックアップしていた男性がひと言。この方が今回、取材を受けてくれた入社5年目の音効部スタッフ・鏑木太郎さんです。


数万枚のCDは「邦楽」「洋楽」「サントラ」など大きなジャンルに分けられ、五十音順や発売順など探しやすさ重視で並べられています。新人スタッフは先輩たちの使用済みCDを棚に戻すという雑用を担当しますが、これも収納場所や並びを体で覚える大切な修業になっているのだとか。

ひとしきりCDに見入った後はSEルームに移動して、仕事のプロセスについて説明してもらうことに。SEルームは3畳ほどの完全防音空間に、映像を映すモニターと、音楽を録音・編集・ミックスするための「Pro Tools」と呼ばれるシステムやマルチプレーヤー、PCなどがコンパクトに設置されていました。なんだか戦闘ロボのコックピットみたいにも見えるこの部屋が、音響効果スタッフの仕事場になります。「鏑木行きま〜す!」な~んて仕事を始めるのでしょうか。

1番組に100曲近くを使用することも! 生放送対応もお手の物


鏑木さんがレギュラーで担当しているのは、『大阪ほんわかテレビ』と『ブラックマヨネーズのハテナの缶詰』。編集済みのVTRが手元に届くと、まずはじっくり“見る”ことから始めます。「映像を見ながら、ざっくりした構成をノートにメモしていくんです。いわば下絵みたいなものですね」。このメモを見ながら、次はどの場面にどんな曲や音を乗せていくか、アイデアを書き込んでいきます。初めて見たときの感覚を大切にしているそうで、「最初の印象や思いついたことを細かく、たくさん書くようにしています」と鏑木さん。

“下絵”をもとに選んだ音源を、冒頭で紹介した巨大な棚から探し出したら、いよいよ編集作業開始です。正面に設置されたモニターで音を乗せる映像を決め、同時にマルチプレーヤーで曲を聴きながら使うフレーズを選択、シーンの長さに合わせてまるで“切り張り”するように乗せていきます。写真のPCモニターに表示されている地層のような画像は、映像に乗っている音を可視化したもの。上から順に音楽、効果音、人間の声……といった具合に、複数の音がそれぞれ独立して表示され、長さなどがひと目でわかるようになっています! これぞ職人技と、プロのための道具……。

目をモニターに向けたまま、CDが再生されているマルチプレーヤーをちょいちょいといじる鏑木さん。次々と作業が終了していきますが、何が行われているのかサッパリです。試しに編集途中の映像を再生してもらうと、ある場面に楽しげな音楽が乗り、しかも登場人物のセリフの頭に合わせてキレイにフェイドアウトされています! 映像の尺(長さ)に合わせ、曲を短く編集するのもお手の物。しかもほぼ初見の映像と音楽を組み合わせながらの出来事なのですから、脱帽です。


この作業を、番組内の流れに沿って繰り返すというわけ。たとえば『大阪ほんわかテレビ』なら、1回の放送で使う音楽はなんと100曲近く! 木曜の夕方にVTRを受け取ってから、金曜の朝まで15、6時間、集中して仕上げるそうです。「間隔を空けると、最初の印象や感覚を忘れてしまうので、なるべく一気に終わらせるようにしています」と、サラリと言ってのける鏑木さんですが、ブースにこもりきりの孤独な作業はかなり過酷なはず。

さらに生放送番組では、その場で曲や音を選択して乗せていく作業も。鏑木さんは夕方のニュース番組『ten.』の月曜日を担当。本番数時間前に、番組で扱うテーマや項目をディレクターと打ち合わせたうえで、すぐさまVTRに音をつけていく事前作業のほか、オープニング曲やフリップを出す時の効果音などはリアルタイムで乗せていきます。やり直しがきかない一発勝負は、練りに練って仕上げる録画放送とはまた違う緊張感があるのだそうです。

新たな音源を耳に“ストック”することも、欠かせない仕事のひとつ


もうひとつの重要な仕事が、音のストック作業。毎日のように入荷する新しい音源を、必ず一度は耳に入れ、使いこなせるようにしておきます。驚くなかれ、前出の実作業を含めると、1週間に1000曲近くを聴くことになるのだとか! 「(ストック作業については)空いた時間にSEルームで聴くんですが、さすがにじっくりは無理なので(笑)、イントロだけとか早送りしながらとか……」と鏑木さん。それでもポイントはしっかり押さえ、メモを取ることもなく「これぞ!」という曲は自然と頭に入っているそうです。これだけ音楽漬けの毎日となると、時にはイヤになることもありそうですが、「学生時代から音楽好きだったこともあり、『聴かなければならない』ではなく『ずっと聴いていられる』と思っちゃう。苦にはならないんですよね」と、ニッコリ。好きこそもののなんとやら、ですね。

なお、音楽を放送に使用する際、著作権をクリアにしておかなければならないのはご存じの通り。放送局と日本音楽著作権協会(JASRAC)が包括契約を結んでいるので、基本的には同協会管理の曲から選べば、使用した際に報告するだけでOKとのこと。それ以外の会社が権利を持っている曲については、事前に許可をもらうプロセスが必要になるそうです。

シーン別、プロが選んだお気に入り曲、教えます!


最後に、数々の映像に音を乗せてきた鏑木さんに、思い出に残っている曲や定番の“使える曲”、最近のマイ・フェイバリットまで選んでもらいました。どの曲も、聴けば「なるほど!」と思わず膝を打っちゃうことウケアイですよ!どんな曲か雰囲気を掴んでもらえればと、YouTubeかAmazonの試聴ページへのリンクも貼っていますので、興味が湧いたらぜひ聴いてみてくださいね。

☆視聴者反響No.1
『Blah Blah Blah』SiM(アルバム『PANDORA』収録)

3月に放送した『もんくもん』という特番の番宣CMに使用したところ、テレビでの露出が少ないコアなバンドの曲だったこともあり、「たくさんのファンの方がTwitter上でつぶやいてくださってビックリしました」。SNSでの反響はちょくちょくチェックして参考にするそう。

☆スタッフ評価No.1
『無条件』CRAZY KEN BAND(アルバム『MINT CONDITION』収録)※試聴
こちらは『もんくもん』本編のオープニングに使用。思わず口ずさんでしまうキャッチーなイントロが番組の雰囲気にマッチし、「『あの曲よかったよ』とスタッフから声をかけられてうれしかったですね」

☆秘蔵曲No.1
『RUN FREE』AI + 加藤ミリヤ + VERBAL(加藤ミリヤ アルバム『LOVELAND』 収録)

近々どこかで使おうと狙ってストックしている一曲。ビートの効いた曲調はインパクトがあり、「イントロ部分を『はたして結果は?』みたいな場面に使いたい」とのこと。いつどの番組で聴けるか、今から要注目です!

☆ヘビーローテーションNo.1(クライマックス編)
『アスティもびっくり』(オリジナル・サウンドトラック『ヒックとドラゴン』 収録) ※試聴
ズバリ、困った時の一曲。「モノを大げさに見せたい時にぴったりな、勇ましい曲調。『世界の果てまでイッテQ!』などでも使われているのを耳にしました」

☆ヘビーローテーションNo.1(グルメ編)
『インビテーション』シークレット・ガーデン(アルバム『レッド・ムーン』収録)  ※試聴
食事シーンや料理紹介でよく使われる曲。「どんなものでも、不思議とおいしそうに見せてくれる」というスグレモノ。華やかなメロディが、特に高級感のあるグルメに合うそう。


 


ドラマにバラエティ、報道まで、BGMや効果音がない番組はありません。あまりの溶け込み具合に普段から意識することはなかなかありませんが、その裏ではこれほどまでのたゆまぬ努力があったのです。制作現場を知ってしまうと、本編はもちろんBGMや効果音にも気を配りながら放送を見てみたくなるところですが、当の鏑木さんからは「番組を見終わって、音楽のことは記憶に残らず、ただただ『面白かったな〜』って思ってもらえるのが一番」とのメッセージが。たしかに……音響効果はなくてはならない演出ですが、曲や効果音の印象が本編を上回ってしまっては本末転倒です。

番組がない日もひたすら音楽を聴き、準備をし、いざ編集や生放送の際には主役を引き立てることに専念する。今回は、音響効果という名バイプレイヤーの存在にスポットライトを当ててみました。

文:乾野 由佳  写真:岡部 守郎

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