「虫ラーメン」を販売した今年1月のイベントには長蛇の列ができ、昆虫食への関心の高さをうかがわせた=篠原祐太さん提供
世界的な食料不足問題の解決に一役買うと期待される「昆虫食」を広めようと、慶応大の学生が「伝道師」として活動を始めた。コオロギをスープのだしに使った「虫ラーメン」を東京・新宿のラーメン店と共同開発して店舗で出したところ、予想以上においしいと好評に。また、バレンタインデーを前に、昆虫食の初心者や女性も楽しめるようにと企画した「虫スイーツ」「虫カクテル」を楽しむパーティーも12日に開催する予定だ。【錦織祐一/デジタル報道センター】
おいしくて高栄養、しかもエコ
「実はおいしくて栄養価が高い、虫の食材としての魅力を知ってほしい」と意気込むのは、慶大3年の篠原祐太さん(22)。篠原さんが大学1年だった2013年5月。国連食糧農業機関(FAO)が、人口増加や地球温暖化対策として「昆虫食」を推奨する報告書を発表したことが活動のきっかけ。昆虫はたんぱく質、ビタミンなどを多く含んで栄養価が高く、牛や豚などの家畜に比べて飼育効率が良いので環境に優しいと指摘していた。
篠原さんは翌14年1月、昆虫食が大好きだとフェイスブック上で告白した。それからは「地球上のすべての生き物を愛し、自然と一体となって昆虫食を味わおう」とSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で積極的に呼び掛けて、「地球少年」を名乗るようになった。昆虫食に共感してくれる人たちが次第に集まり始め、野山に入って昆虫を採取し、一緒に調理して食べる体験型ワークショップを開催。さまざまな昆虫を食す闇鍋パーティーも開いた。関心を持ってくれる飲食店も徐々に現れ、昆虫を食材にしたフランス料理や和定食も提供した。
コオロギ使った「虫ラーメン」完売
そして、新宿区を中心にラーメン店を展開する「凪(なぎ)」の生田智志社長と意気投合。半年間の試作期間を経て、15年9月に1食当たりコオロギ100匹相当を使ってだしを取り、麺の上にも素揚げしたコオロギをぱらりとトッピングした虫ラーメンが出来上がった。1日限定で店のお客に出してみると、「コオロギの持つ甲殻類のようなうまみが生かしきれた」という自信作は80食が完売に。その後もイベントなどで提供して虫ラーメンの名は広まり、テレビのバラエティー番組でも取り上げられ、今年1月に再び店に出すと1日に170食が飛ぶように売れた。
東京都八王子市出身の篠原さんは高尾山のふもとで生まれ育ち、子供の頃から生き物が大好きだった。公式サイトのプロフィルに昆虫食を始めたのは「4歳から」とあるが、「物心がついた時から虫を捕まえて食べる楽しさに魅了されました。バッタ、トンボ、アリ……。ありとあらゆる虫を試しましたが、同じ種でも1匹1匹味が違い、同じ虫はいない。毎回が発見の連続で、自然との一体感、命の大切さを感じました」と話す。ただ、そのことは「気持ち悪がられるんじゃないか」と友人や両親には長い間内緒にしていたという。
スイーツやカクテルも…夢は起業家
FAOの報告書を読み「自分を偽ったままでは嫌でしたし、昆虫食にこれだけメリットがある以上、趣味のままで隠しておくのはもったいないんじゃないか」と考えて、告白した。周囲の反応は予想以上に厳しく、中学校や高校時代の友人が「気持ち悪い」「やめてほしい」と離れていった。その一方で「実は俺も食べていた」と言ってくれた友人がいたり、「興味がある」「詳しく教えてほしい」という知人も。「うれしかった。これは広めないと」
現在は世田谷区のシェアハウスで、コオロギなど数千匹の虫を飼育しながら、大学卒業後に昆虫食をテーマに起業することを目指して準備を進めている。「『見た目が面白い』だけでは虫の命に失礼。思い込みや偏見を打破し、食文化を転換できるだけの味のポテンシャルがある。日本人のライフスタイルまで落とし込みたいですね」
12日の「虫カクテル」パーティーは、午後6時から世田谷区池尻3の「デュランバー」で開く。パティシエが開発した、虫をトッピングしたチョコケーキやパンナコッタなどの「虫スイーツ」や、タガメを漬けた酒を使った「虫カクテル」などが1品500円から楽しめる。問い合わせは、フェイスブックページまで。