藤井満
2017年2月9日15時28分
クエのまち、和歌山県日高町では、アオリイカを岩礁に沈めると30キロの大物が釣れることがある。1キロ1万円の高級魚。かつては大阪市や和歌山市の料亭に送られ、地元ではほとんど食べられなかったという。
海辺育ちの湯川泰嗣さん(75)も、クエとは無縁だった。子どものころ、家族は夏ミカンや米、野菜をつくり、2キロ離れた由良のまちに伝馬船で運んで物々交換をした。網でとったイワシは浜で干して肥料にした。この肥やしがあったから、甘い有田みかんができたと言われている。
日高町は原子力発電所の建設計画に翻弄(ほんろう)されてきた。町企画室長補佐だった湯川さんは、誘致で得られる500億円の使途を検討するため、旅館の社長とともに大阪へ出かけ、旧知の新聞記者と会食した。「原発が来ると思うか? 来なかったらなんで食べていくんや!」と説教された。
帰途、天王寺発の夜行列車で、「クエ鍋はどうよ?」と社長が言った。町内の神社には、身や内臓を取りだしたクエをみこしにする奇祭「クエ祭」が伝わっている。「クエでいこう」と決めた。1981年のことだった。
だが、原発誘致一色の役場は「…
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朝日新聞社会部