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25 とある公爵令嬢の呟き その1
25 とある公爵令嬢の呟き その1
「――――、バカ女ぁぁあ!!」
ゴミ捨てに行くと、校舎裏から絶叫が聞こえた。覗いてみると、男子生徒がいて、何か怒っているみたい。あんまり関わり合いになりたくないので、さっさとゴミ捨てに向かおう。
「あ、つくねっちからだ」
掃除が終わった頃に、オタ友達からラインが来た。
――やほやほポテ吉。明日のカラオケ、コスする事になったから、白兄ヨロ。
――何がどうした、つくねっち。
――いやさ、果林が『地雷ヒメ』の餌食になったから、みんなで慰めようぜ、ってことに。
――『地雷ヒメ』?
――レイヤーでセミプロいるじゃん。そーゆーのやってるヤツで、ヒメ扱いしねーと怒るのよ、そいつ。コスで合わせしたいーなんて言って、周りに全部させるヤツでさ、人数集めとか、連絡とか、スタジオ押さえとか。勝手に日取り決めて、それ迄にやってないと他人のせいにすんの。
――何それ、ひどー。:(;゛゜'ω゜'):
――で、果林はレイヤー素人じゃん。ダンパやコスイベぐらいしか行った事ないし、スタジオなんて知ってるわけないのに、強制的に合わせしようとか寄って来て勝手に決めてできてないって怒って、果林のことネットでない事ない事拡散しやがって、果林泣いてんのよ。なので、慰めようぜ会。( T_T)\(^-^ )
――了解~。(`_´)ゞ
――まぁ、そいつ『地雷ヒメ』なんてあだ名ついているくらい、コス界では有名だから、相手にされて無いんだけどね。果林はほら、弱いじゃん。
――おけおけ。『聖六』で果林姫に尽くしまくって癒してあげよう。つくねっちは黒?
――おうよ。でさ、今度のイベ用に白総受け本作ろうと思うんだけど、白兄×白どうよ。
――だいじょぶ、いける。そっちは黒×白?
――おう。じゃ、それの相談も明日しようぜ。みんな乗り気だし。
――りょーかい。(*゜▽゜)ノ
明日の予定が決まったので、帰りに百均に行くことが決まった。
シャツのフリル襟用の白い布――葬儀用ハンカチ何枚か重ねればいいかな――と、安全ピン。買ってこなきゃ。この前無くしちゃったからなぁ。
そうして交差点で待っていると、悲鳴が聞こえて、ウチの男子生徒が車に跳ねられた。
――へ?
車はそのままわたしにも突っ込んで来て――
◇
気づいたら、転生してました。
鏡に、可愛い紫銀髪の赤ちゃんが手を振ってます。
そして、カトリーナと呼ばれました。
…………。
これって、『聖六』こと、『聖女伝説~六騎神の末裔~』という乙女ゲームの世界じゃないの!
カトリーナ・ライラック公爵令嬢。
例に漏れず、公爵令嬢に転生って、このゲーム、大変なんですけど!?
これ、ざまぁできないヤツじゃん!
ヒロインちゃんが聖女になってくんないと、魔王に世界が滅ぼされるんだけど!?
バッドエンドでは、魔王に骨抜きにされた堕落した聖女がスチルであって、これはこれでとても美味しかったんだけど、世界滅んでるんだよね。ヒロインちゃん生きてても、魔王の奴隷で、他全滅なんだよね。
でもって、わたし公爵令嬢だから、世界崩壊前に終わってるんですけど!
何コレ。このミッション、ハイレベルすぎ。
普通のゲームの流れは、セレンディア学園に入学したヒロインちゃんは、攻略対象者達とライバル令嬢達と切磋琢磨して、能力を上げ、攻略対象者達と仲良くなり、彼らの抱えている問題を一緒に解決し、彼らが持っている『聖女の装飾品』を集め、『真実の愛』を手に入れる。
そして、最後は魔王を倒すムービーが自動的に流れる。学園でどれだけ頑張ったかによってムービー――つまり結果が変わるのだ。
能力が一定値以上で、攻略対象者の『聖女の装飾品』と『真実の愛』があれば、最後に告白されたキャラが助けてくれて、そのままハッピーエンドとなる。
装飾品がひとつでも無かったら、バッドエンドだし、全部集めても『真実の愛』が無ければ、バッドエンド。
そして、わたし、公爵令嬢はヒロインちゃんを虐める役だ。
公爵令嬢という障害を乗り越えて、ヒロインちゃんは攻略対象者との愛を育むのだ。
どうしよう。
とにかく、婚約破棄までは行かないとダメだよね。でもって、処刑回避も必須。それと同時にヒロインちゃんが聖女になるよう応援しなきゃ。聖女の素質を持ってるのはヒロインちゃんしかいないんだし。
ざまぁしないように気をつけて、ヒロインちゃんを頑張って邪魔して、でも処刑回避で、円満破棄? に持ち込まないと。
ああもう、頭こんがらがって来ちゃったよ。
問題は、ヒロインちゃんが例の如く最悪の性格だったりしたら、大変なんだけど……。
だ、大丈夫だよね? ヒロインちゃんが性格いい話だっていっぱいあるし。
どうか、どうか、ヒロインちゃんが原作通りの性格の良い子でありますように。
もし、転生者でも、この世界のバッドエンド知ってたら、普通に攻略してくれるよね、きっと。だって、世界滅んじゃうし、奴隷だし。
でも、逆ハー狙いされたらどうしよう。
できない事はないだろうけど……攻略レベルが格段に上がっちゃう。
なにせ、隠れキャラの二人、第一王子のフレドリックと魔王デュークを攻略しないとダメだ。フレドリックはともかく、デュークは難しい。下手したらすぐにバッドエンドに向かってしまう。ヒロインちゃんが魔王に下り、堕ちた事になって。
一人に絞ってくれたら有り難いんだけど。
できれば黄狙いで、無難にお願いしたい。
ああ、でも、テオドールって、『いいひと。』だからあんまり人気無いんだよ。
ほら、乙女ゲームの攻略対象者って、何か病んでたり、繊細だったり、わかりにくい性格でないと人気出ないんだよね。
話が進むにつれて、何でそういう厄介な性格なのか、とか、優しさが見えて来たりするのが良いのだ。
その中で、彼は占いの能力で、ヒロインちゃんが聖女だって初めからわかっているからすごく協力的なんだよね。
いつも穏やかで、神秘的で、柔らかな物腰で、口調も丁寧で、微笑みを絶やさない、ヒロインちゃんの相談に優しく乗ってくれる良い人。
でもそれは、小さい頃、お母さんが占い師に騙されてしまったせい。
そのせいで、両親の仲が冷え切った状態になってしまい、母親の相談に乗ってあげなかった父親のせいだと思ってるのだ。だから、自分は人の相談に乗ってあげようと実践してる。
そして元凶である占い師に対抗する為、嫌いな占いを勉強し、元々あった才能もあって、王国随一の占い師に。でも秘密だけど。
そしてとある事件にヒロインちゃんと巻き込まれ、騙した占い師に再開。ヒロインちゃんの行動と、テオドールの占いの力で、占い師を捕まえ、ティアラを取り戻す。
この占い師と魔族、そしてウチの家、ライラック公爵が繋がっているのがわかる。
そしてその時、嫌っていた占いの力を、ヒロインちゃんが『この力はみんなを、世界を救う力だよ。嫌ってあげたら可哀想だよ』と、肯定してくれたおかげで、父親と和解、両親もお互いの非を認め、家庭円満になり、ヒロインちゃんへ感謝と愛を捧げ、聖女だからとティアラを渡してくれる。
最初の攻略対象者として比較的楽なんだよね。イベントもすぐに始まるし。
だから、発売当初はファンがいっぱいついていたけど、時間が経つにつれて、他の攻略対象者に目が行って、忘れられて行くという、不憫なキャラだ。
チュートリアル攻略対象者なんて言われてる。
しかも滅多に好感度が下がらないから、卒業間際なんて、全く会いに行ったりせずに放置プレイされてしまうという。本当に可哀想なキャラなのですよ。
他は好感度を上げないと、イベントが始まってくれなかったりするから、仕方ないんだけどね。
とにかく、自分の都合ばかり考えちゃダメだよね。
ヒロインちゃんだって、好みのキャラと結ばれたいだろうし。
でも、できれば、白兄はやめて頂きたいなぁ。
あー、でも、わたしがフレドリックと結ばれる事はないのか。悲しい。
もし、万が一くらいのチャンスが……。
ないよねー。
無理な事は期待しない。よし。
ともあれ、目標は、生きる事。
高校生で死んだのに、同じ年頃でまた死にたくない。
おばあちゃんまで生きよう。
それが一つ目。
その為には、処刑を回避しなければ。
カトリーナの父親が『聖女復活』を掲げてカトリーナを聖女にしようと目論むのを止めさせる。確か、魔族の口車に乗せられてしまって、悪事に手を染めて行くのよね。
それが処刑の理由。
これだけはシナリオ変わってしまっても、絶対に阻止しないと。
今、見ていても、すごくいい父親なんだよ。悪い事させたくないよ。
二つ目は、ヒロインちゃんと、協力できたらする。
だって、父親を止めたら黒幕は魔族だけになるしね。
できるだけ、協力関係を築きたい。
まずはこの二つだ。
よし、方針は決まった。
動けるようになったら、早速動こう。まだ赤ちゃんだから無理だけど。
頑張るぞー!
この時のわたしは、本当の本当に、何も知らなかった。
すでにシナリオが崩壊しているなんて、本当に知らなかったんだ。
しかも、最悪の方向に。
読んでくださってありがとうございます。
ブクマありがとうございます。
用語補足
コス:コスプレ
レイヤー:コスプレイヤー
合わせ:
一つの作品で、キャラが被らないように、一人ずつ違うキャラのコスプレをする事。
コスプレする人は、自分が仮装したいキャラをするので、誰がどれをするのか、話し合いが必要不可欠。
人気のないキャラは押し付けあったりする事もある。
自分が似合うor好き以外しない人が多いので、人数が多くなればなるほど、だいたい物別れに終わり、合わせにならない事が多い。
ダンパ:ダンスパーティー。アニソンをBGMに、コスプレして踊るイベント。申し込みと登録料が必要。
コスイベ:コスプレイベント。コスプレするイベント。申し込みと登録料が必要。
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