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ぼくらのリアル相続

相続した空き家 売れば節税になるってホント? 税理士 内藤 克

 

2017/2/10

「内藤先生。相続の件も一段落ついたのでこの際、空き家になっている実家を売却しようと思っているんです」
「“空き家税制”も創設されて、去年の4月からは売って利益が出ても3000万円までは特別控除で税金がかからないようになりましたからね。ただこの税制には『一定期間に売らないとダメ』という期限があるんですよ」
「わかりました、さっそく動きます。思い出もいっぱい詰まっていて手放すのは辛いのですが、節税になるのであれば……」
「うーん。節税というか、資産の流動化ですね」
「え? 節税ではないんですか?」
(お客さんの言うことはわかるけど、税理士のいう節税とギャップがあるなあ……)

 世の中には「節税」という言葉に弱い方がたくさんいらっしゃいます。相続の話ではありませんが、例えば会社の決算で利益が出そうになると「よし、銀座へ行こう!」と言い出す社長さんが多いのです。この社長さんの節税が「税金を払うくらいなら銀座へ行って飲んだ方がマシ」というレベルだとすると、残念ながら目的と手段を取り違えていると言わざるを得ません。

 仮に銀座で100万円飲んだら法人税が100万円減るのなら、社長さんの気持ちもわかります(ふるさと納税は一定の上限内ならいくら出しても実質的にはほとんど返ってくるので、これはふるさと納税的な考え方といえます)。しかし、100万円の支払いをして35万円の法人税が減ったのであれば、65万円の無駄遣いをしたことになります。税理士に限らず、これを節税とは呼べないでしょう。

 話を戻して、空き家税制についてはどうでしょう。「いずれは売るけど面倒くさいからまだいいか?」と先延ばしにしてきた人にとっては、譲渡所得にそのまま課税されるよりは特別控除を使った方が手取り額が増えるので、朗報ではあります。不動産の譲渡所得の税率は20.315%なので、3000万円の特別控除を使えれば最大で約600万円の“節税”にはなります。ただ、それは新設された空き家税制の効果で前より税金がかかりにくくなったという話であり、相続した実家を売れば、それだけで資産全体にかかる相続税の評価を下げられるわけではありません。空き家の売却はあくまで資産の流動化ですので、節税とは別物だと思うのです。

■「危険な空き家」に認定されると税金は数倍に

 空き家と税金についてはもう一つ、固定資産税のことも知っておかなければなりません。

 2015年5月から「空き家対策特別措置法」が施行され、固定資産税の扱いが変わりました。これは、著しく劣化が進んでいて、放置しておくと保安上危険となる恐れのある空き家や衛生上有害となる空き家は、自治体から「特定空き家」と認定され、認定された場合には現在与えている税の優遇措置を取り上げる、というものです。優遇措置とは、200平方メートルまでの住宅用宅地の固定資産税の評価額が6分の1に軽減されるという特例です(住宅用地の特例措置)。

 早い話がこれまでは「仮に空き家でも、住宅が建っている土地は固定資産税が6分の1になる」ということだったので、この特例の適用を受けるために廃屋でも取り壊さず、放置されていたケースも多かったのです。それが空き家対策特別措置法により、空き家のまま放置しておくと固定資産税が何倍にも増えてしまうことになったため、今後は空き家の減少が期待されています。

 ただ、空き家であれば即それだけで固定資産税の負担が増えてしまうわけではないので、慌てる必要はありません。優遇措置がなくなるのは、あくまで特定空き家に該当する場合のみです。特定空き家とは(1)建物が傾いていて倒壊しそうなものや、屋根がはがれ落ちていて落下の危険があるもの (2)汚物の異臭があるか、ゴミの放置により害獣の繁殖が進んで衛生上問題があるもの (3)敷地内にゴミが散乱していたり、建物が落書きだらけで景観上問題があるもの――などを指します。相続した実家がこれに該当しないよう、最低限のメンテナンスは必要になってきます。

■空き家を売った場合の税金は安くなる

 政府は譲渡所得税の面からも空き家対策を講じています。それが前述の空き家税制(空き家の発生を抑制するための特例措置)です。

 空き家が発生するタイミングとしては、実家で一人暮らしをしている親が亡くなって相続が発生した場合が一番多いと言われています。そのため相続により取得した空き家を、一定の要件のもとで譲渡した場合には、譲渡益から3000万円を控除できるようにしたのです。これについては16年4月以降の譲渡が対象となり、「特定空き家」かどうかは関係なく、下の表のような独自の要件が設けられているので確認が必要です。

・耐震リフォームしてから、もしくは取り壊してからの譲渡であること
・1981年5月31日以前に建築された一戸建てであること
・相続開始直前まで被相続人が居住していたこと
・相続開始日から3年後の12月31日までの譲渡であること
・譲渡代金が1億円以下であること
・相続発生以降、住んだり貸したり事業したりしていないこと

 また、相続した不動産を3年10カ月以内に売却し、かつその不動産について相続税を負担している場合には、譲渡にかかる税額を軽減する制度(取得費加算)があります。こちらは空き家税制と異なり、建築時期や売却額の制限などはありませんので、併せて検討してみるといいでしょう。

内藤 克(ないとう・かつみ) 税理士法人アーク&パートナーズ 代表・税理士。1962年生まれ、新潟県長岡市出身。90年に税理士登録、95年に東京・虎ノ門で個人税理士事務所を開業。97年に銀座で税理士・司法書士・社会保険労務士による共同事務所を開業。2010年に税理士法人アーク&パートナーズを設立。弁護士ら専門家と同族会社の事業承継を中心にコンサルティングを行っている。事例中心のわかりやすい講演にも定評あり。「士業はサービス業である」ことを強く意識し、顧客満足度を追求。日本とハワイの税法に精通し、ハワイ税務のコンサルティングも行っている。趣味はロックギター演奏。

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