日本の大学や学会などに、米軍から少なくとも9年間で8億円を超す研究資金が提供されていたことがわかった。

 軍事研究への対応をめぐっては、防衛省が大学などを対象にした研究費制度を15年度に導入したことを受け、日本学術会議が審議を続けている。

 しかし、外国の軍事組織からの資金提供や、内外の企業・組織が軍事利用目的で研究者に接近するケースについては、全体像が不明なこともあって、十分に検討されてこなかった。

 米軍の広範な関与が明らかになったのを機に、議論の一層の深まりを期待したい。

 学術会議が設けた検討委員会が1月に公表した中間とりまとめでは、同会議が過去2回出している「軍事研究はしない」旨の声明を堅持する意見が大勢を占めた。防衛省の研究費制度についても、政府による研究への介入懸念などを理由に慎重な姿勢を打ち出している。

 研究者の倫理や学問の自由の重要性を踏まえ、おおむね妥当な方向と評価できる。

 審議の過程で、米科学アカデミーから学術会議に対し、災害救助ロボットの共同研究の打診があったが、断ったことが紹介された。資金源が北大西洋条約機構(NATO)であるのを考慮した対応だという。

 この例にならい、内外を問わず、軍事組織からの資金で研究はしないという基本方針を明確に打ち立ててはどうか。

 問われているのは学術会議だけではない。

 大学は政府からの運営資金が絞られ、それ以外の方法で資金を獲得する必要に迫られている。研究者には様々な誘いがあり、個人の判断に委ねるのは危うく、また酷な面がある。

 防衛省の制度が始まってから琉球大や新潟大、関西大、法政大などが「軍事研究はしない」「この制度には応募しない」といった方針を決めた。学術会議の議論も参考にしながら、より多くの大学や研究機関が自らの問題と受けとめ、考え、同様の原則を確認してほしい。

 学術会議任せにして、示される方針に従っていれば済む性質の話ではない。出資者や研究成果の使われ方などを見きわめ、研究に参加することの当否を主体的に判断する。そんな仕組みづくりも考えるべきだ。

 核兵器開発に象徴されるように、学術と人類の幸福との間には一種の緊張関係がある。

 大切なのは、そのことを歴史に学んで、先人の後悔を繰り返さぬ研究者と研究組織を育て続けることである。