離脱通告の権限をメイ首相に与える法案
【ロンドン矢野純一】英下院(定数650)は8日夜(日本時間9日早朝)、欧州連合(EU)からの離脱通告の権限をメイ首相に与える法案の採決を行い、賛成494、反対122の賛成多数で可決した。20日から審議が行われる上院でも承認されれば、EU側に正式に離脱を通告し、離脱交渉が始まる。
最高裁は今年1月、「離脱通告は議会の承認が必要」と判断しており、法案はこれを受けたもの。EU離脱交渉開始に向け、メイ氏はハードルの一つを越えたことになる。
離脱の是非を問う昨年6月の国民投票で、最大野党・労働党(229人)は残留を支持したが、コービン党首はその後、「国民の意思を尊重すべきだ」として離脱を受け入れることを表明。法案にも賛成する方針を示していた。ただ、党議拘束がかけられたにもかかわらず52人が反対に回っており、離脱を巡るしこりが残っていることも浮き彫りになった。残留派のスコットランド民族党(SNP)も反対に回った。
法案は上院でも通過するとの見方が強い一方、超党派で法案の修正を求める声もあり、審議が難航する事態もあり得る。メイ氏は既に、上下両院で承認された後の3月下旬を通告時期とすると表明。一方で、EUの基本条約の一つであるローマ条約調印60周年の記念日を3月25日に控えていることから、3月下旬ではなく、上旬の通告を目指しているとの見方もある。上院の審議が難航すれば、こうしたもくろみが外れる可能性がある。
7日の下院審議ではジョーンズ離脱担当閣外相が、EUとの最終交渉案を上下両院に諮ることを改めて明言。「(交渉案が)否決された場合は、EUとは再交渉は行わずに離脱する」と述べた。最終交渉案が議会で否決されれば、英国がEUと新たに貿易協定を結び直すための暫定期間を設けず、世界貿易機関(WTO)のルールに基づいて、現在よりも高い関税率がかけられることになる。