(cache) 「子どもと情報メディア」第4章 子どもとインターネット 抜粋

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子どもと情報メディア

著者 村田育也

「第4章 子どもとインターネット」 から抜粋を立ち読み


子どもに匿名性を理解させる必要があるのか

 2005年のほぼ同じ時期に,全く別の小学校2校で実践された小学5年生に対する情報モラル教育の授業を見学したことがあります.どちらの授業も,子どもたちにチャットを実際に使わせて,コミュニケーションに必要なマナーを考えさせるものでした.一方の授業では,子どもたちにハンドル名(ネット上のニックネーム)を使わせて,誰がどのハンドル名を使っているかをわからないようにして,つまり匿名でチャットさせていました.もう一方の授業では,子どもたちに本名を使わせてチャットさせていました.
 匿名でチャットさせた授業では,教員2名が子どもの振りをしてチャットに加わり,子どもたちのやりとりに合わせて,適度に悪いマナーで書き込みをしました.チャットをした後,チャットのマナーについて話し合い,子どもたちは,教員が仕込んだ悪い書き込みにもふれて,教員が計画していた結論に至ることができました.しかし,授業の最後で,悪い書き込みをしていた者が教員であったことを明かされたとき,子どもの中には本気で同級生だと思っていたともらした者がおり,授業中に「このハンドル名は○○君ではないか?」という疑心暗鬼を生んでいたことが伺えました.この授業実践は,このクラスとこの教員だからこそ上手くいったのであって,他のクラスで同じことをしたらどうなるかわからないという危なっかしさを感じました.
 本名でチャットさせた授業では,まず子どもたちに自由にチャットをさせ,そのログを取りました.次に,そのログの中から,マナーや思いやりに問題がある部分を抜き出して,子どもたちにそれを見せて考えさせ,再度チャットをさせました.その後,最初のチャットと2度目のチャットで,自分たちの書き込み方の違いに気づかせ,思いやりのある書き込みができるようになったことを確認するという授業でした.最後の話し合いでは,子どもたちは生き生きと発言し,自分たちの思いやりの気持ちをクラス全体で認め合うという心温まる展開になりました.
 この2つの授業実践を比較して,皆さんはどのような感想を持ちましたか.私は,これらを見学して,小学5年生には匿名で書き込みをさせるべきではないなと思いました.匿名でチャットさせた授業では,匿名でのコミュニケーションが持つネガティブな面を子どもに見せていたのに対して,本名でチャットさせた授業では,子どもたちが持っているポジティブな面を引き出していました.コミュニケーションにおける思いやりに気づかせ,思いやりを養うには,本名を名乗って行うコミュニケーションが適しています.
 もう一度,確認しておきましょう.子どもに,インターネットの匿名性を理解させようとし,匿名でのコミュニケーションをできるようにしようとする試みが是か非かを判断するには,子どもの社会性の発達を抜きに考えることはできません.インターネットの匿名性を理解させ始めるのは,自己・個性の確立が始まる高校生になってからで充分です.つまり,中学生まではインターネットの匿名性を理解させる必要はないし,匿名でのコミュニケーションをさせるべきではありません.本名を使って行うコミュニケーションで学ぶべきことは,山ほどあります.インターネットの匿名性を理解させるのは,その後にすべきです.

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