(cache) 「子どもと情報メディア」第3章 子どもとケータイ(携帯電話) 抜粋

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子どもと情報メディア

著者 村田育也

「第3章 子どもとケータイ(携帯電話)」

「3.4 ケータイの個人性と子どもの責任能力」 から抜粋を立ち読み


ケータイの個人性(抜粋)

 子どもにケータイを使わせるかどうかを議論するときに,どうしても避けては通れないことがあります.それは,子どもの責任能力とケータイの個人性です.子どもの責任能力については,このすぐ後でくわしく説明します.ここでは,まず個人性について,説明します.
 個人性とは,私が造った言葉なのですが,情報メディアなどを個人(一人)で利用する度合いを表すものです.一人の判断で情報を発信したり受信したりする機会が多いほど,個人性が高い情報メディアです.テレビ,テレビゲーム,パソコン,ケータイは,いずれも個人性を持つ情報メディアです.しかし,家族や友人など複数の人たちと一緒に視聴したり遊んだりできるテレビやテレビゲームより,通常一人で操作するパソコンやケータイの方が,個人性が高いと言えます.さらに,そばにいる人が操作画面を一緒に見ることができるパソコンより,操作内容が使っている人にしかわからないケータイの方が個人性は高くなります.また,パソコンの場合は,パソコンを居間に置く,家族と一緒に使う,アクセスログを残して保護者が監督するなどの方法で個人性を下げることができますが,ケータイの場合はこれらのことが非常に困難です.
 インターネットを使うのは自己責任だと言われることがあります.玉石混淆のインターネットですから,どんな情報を得て,その情報をどのくらい信用して,どのように使うかは,個人の責任だということです.インターネットは,テレビやラジオのように情報を得るだけでなく,情報を発信することができます.情報を発信するというと,少し仰々しく聞こえますが,匿名掲示板に書き込みをしたり,ブログやプロフを作ったり,他人のブログやプロフにコメントを書いたりすることは,少しインターネットに慣れれば誰でも気軽にできてしまいます.ところが,この気軽にできてしまう書き込みが問題なのです.きちんとした知識と良識を持って書き込まなければ,著作権侵害,プライバシー侵害,侮辱,名誉毀損,脅迫,業務妨害などの法律に触れる内容を書いてしまう危険があるからです.これが,ケータイやインターネットを使うのは「自己責任」だと言われる最も大きな理由です.では,子どもが,このような責任を持って,個人性の高い情報メディアを一人で操作することができるのでしょうか.

子どもの法的な責任能力(抜粋)

 少し堅い話になりますが,法律について話をします.刑法第41条で「14歳に満たない者の行為は罰しない」とあり,少年法でも「14歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年」(触法少年)を,14歳以上で「罪を犯した少年」(犯罪少年)と区別して記述されています.つまり,14歳未満の者は,刑罰法令に触れる行為をしても原則として責任能力を問われないことになっています.また,民法第712条で,自分の行為に対する責任を弁識できない未成年者には損害賠償の責任がないと書かれていて,民法第714条で,その場合は原則として監督義務者に損害賠償の責任があると書かれています.つまり,責任能力を問えない子どもがしたことによって生じた損害賠償責任は,その保護者にあるとされることが多いのです.

(中略)

 これらのことから,未成年者の法的な責任能力の概略を,成人の責任能力を1として図示すると,おおよそ図3-4のようになります.14歳未満の者は責任能力がなく,18歳以上の者は成人とほぼ同じ責任能力があるとみなされます.14歳以上18歳未満は,グラフ化することができないので(理由は前述・略),便宜上点線で直線的に描いています.この折れ線の下側は,子どもが持つべき責任の大きさを示していて,上側は保護者が持つべき責任の大きさを示しています.

個人性と責任能力(抜粋)

 ケータイのような個人性が高い情報メディアを子どもに使わせた場合,子どもがしていることを保護者が把握することは非常に困難です.子どもがケータイを使って誰とどんなメールをやりとりしているか,ウェブにアクセスしてどんな情報を得ているか,あるいはどんなことを書き込んでいるか,保護者は全く知ることができないからです.そのため,子どもがケータイを操作しているときに,トラブルが生じないように,保護者がアドバイスしたり,操作を止めたりすることが非常に難しいのです.責任能力が未熟な子どもに個人性の高い情報メディアを使わせると,保護者が持つべき責任が大きいにも拘わらず,子どもの行為を監督しがたいという問題が生じます.

(中略)

 今は,まだ子どもがケータイを使うようになって年数が浅く,ケータイの個人性と子どもの責任能力について,充分に議論されていません.しかし,今後は,子どもにケータイを持たせること自体に,保護者の監督責任が問われるようになるかもしれません.責任能力の未熟な子どもに個人性の高いケータイを与えることは,保護者が子どもに対する監督義務を放棄したと見なされても不思議ではないからです.今後,充分に議論していかなければならない大きな問題です.

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