(cache) 「子どもと情報メディア」第2章 子どもとテレビ 抜粋

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子どもと情報メディア

著者 村田育也

「第2章 子どもとテレビ」 から抜粋を立ち読み


子どもは帰納的に学習する(抜粋)

 赤ちゃんに犬を見せて「わんわん」と繰り返すと,赤ちゃんは「わんわん」と声を出すようになります.すると,母親は笑顔になって「そう.わんわん」と返します.赤ちゃんには母親が笑っていることがわかるので,「わんわん」を繰り返します.すると,赤ちゃんは,猫を見てもハムスターを見ても「わんわん」と言うようになります.動物を表す言葉として「わんわん」しか知らないのですから当然ですね.そこで,猫を触りながら「わんわんじゃないよ.にゃんにゃんだよ」「にゃんにゃん」と繰り返すと「にゃんにゃん」という言葉を覚えてくれます.しかし,これで「わんわん」と「にゃんにゃん」を使い分けることができるようになったわけではありません.犬を見て「わんわん」,猫を見て「にゃんにゃん」と言えるようになるには,犬と猫を正しく見分けなければなりません.そのためには,できるだけ多くの種類の犬と猫を見て,それが「わんわん」なのか「にゃんにゃん」なのかを教えてもらう必要があります.これが帰納的に学習するということです.
 では,これと同じことをビデオ教材でできるでしょうか.そんな恐ろしい実験は見たくもありませんが,想像してみましょう.犬の写真をテレビ画面に写して「わんわん」,猫の写真をテレビ画面に写して「にゃんにゃん」を,赤ちゃんに繰り返し聞かせます.赤ちゃんは,最初のうちはビデオ教材の音声に合わせて「わんわん」とか「にゃんにゃん」とか声を出すでしょうが,ビデオ教材を繰り返して見せるうちに声を出すのをやめてしまいます.なぜでしょう.それは,母親の笑顔も見えないし,母親のはずんだ声も聞こえないからです.さっきの帰納的な学習では,赤ちゃんが犬を見て「わんわん」と言ったときには,母親の笑顔が見え,「そう.わんわん」と明るくはずんだ声が聞こえました.赤ちゃんには,この2つは何よりもうれしいご褒美です.また笑顔を見たくて「わんわん」を繰り返します.でも,ビデオ教材ではいくら声を出しても,母親の笑顔も見られないし,はずんだ声も聞こえません.赤ちゃんの声は,すべて無視されてしまうのですから,赤ちゃんが声を出すのをやめるのは当然でしょう.
 さきほど「恐ろしい実験」と書きましたが,それは,この実験が母語の獲得で行われた場合の話です.実は,赤ちゃんに対して,ビデオ教材に学習効果があるかどうかを,母語以外の言語で調べた実験があります(2).米国ワシントン大学クール教授は,英語だけを使う家庭の生後9ヶ月から10ヶ月の赤ちゃんたちに,中国語を母語にする留学生と4週間の間に1回25分間12回遊んだ後に,中国語特有の音声の聞き取りテストを行いました.すると,アメリカ人にはほとんどできない音声の聞き分けができたそうです.ところが,それと同様の内容をDVD教材にして同じ時間見せたところ,その赤ちゃんたちには全く学習効果がなかったそうです.言語の学習には,人との双方向のやりとりが必要不可欠であることがわかります.

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