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子どもと情報メディア
著者 村田育也
はしがき(抜粋)
私は、2009年度から「子どもと情報メディア」という教養科目を大学で開講していますが、受講している学生たちは、話すことのほとんどすべてに新鮮な驚きを持って聞いています。それだけではありません。学校の先生たちも、大学の先生たちの中にも、情報メディアが子どもに悪影響を与えることを示す客観的なデータがあることを、ご存じない方が多いのです。
これには、いくつかの理由があります。読みやすくて話題になる本が、今までなかったというのも理由の1つでしょう。しかし、最も大きな理由は、子どもに情報メディアを使わせたい人たちが、「大丈夫」キャンペーンを繰り広げていることです。たとえば、ケータイで言えば、子どもたちをケータイの残された市場だと考えている人たちがいて、テレビコマーシャルで子ども用の安心ケータイを宣伝し、学校に社員を送り込んで、安全なケータイの使い方講座を無料で行っています。
また、子どもがケータイを使うことで生じる問題を、教育で解決できると信じている人たちがいます。意外なことに、教育者や研究者の中に、こういう人たちが多いのです。そして、あろうことか、このような熱心な教育者や研究者が、携帯電話会社の「大丈夫」キャンペーンをサポートしてしまっています。
私は、2000年に10人くらいの人たちと一緒に著書「インターネットの光と影」を出版しました。インターネットの影の部分に目を向けたのは、日本では早い方だと言えます。しかし、この頃は、子どもを有害情報や悪意ある大人から、どのように守るかという視点が中心でした。
しかし、最近の事態は、とても深刻です。ネットいじめ、ネット犯行予告、ネットでの誹謗・中傷に端を発した暴行事件、出会い系サイトやコミュニティサイトを使った売買春などです。これらの事件の多くは、子どもたちが加害者であるか、子どもたちが自分から進んで悪意ある大人たちに近づいています。
インターネットやケータイは、包丁と同じです。包丁は調理に用いるものですが、もしそれを人に向ければ、人を傷つけたり人の命を奪ったりする凶器となります。インターネットやケータイは、コミュニケーションや情報の送受信に利用するものですが、いじめや違法行為に使うことができます。もしそんな使い方をすると、人を傷つけたり人の命を奪ったり、自分自身をおとしめてしまったりすることになります。包丁を子どもに使わせるとき、親は細心の注意を払いますし、いつでも使えるようにはしません。しかし、インターネットやケータイには、このような注意を払ったり使用を制限したりすることがほとんどありません。その結果、子どもどうしが、ケータイという凶器を持って、バトルロワイヤルのようにインターネット上で傷つけ合っています。実際に、不幸にも毎年のように命を落とす事件が起きています。情報メディアを、子どもの心身を傷つける凶器にしては絶対にいけないのです。
パソコンもインターネットもケータイも、情報社会にはなくてはならないものです。しかし、それは大人にとってのことです。もちろん、大人にとってなくてはならないものなら、それを子どものときから使い方を学んでいくことが必要だと考えることもできるでしょう。しかし、もし子どもに使わせて問題が生じるのであれば、その対処を充分にしてからでないと使わせるわけにはいきません。その対処を充分にすることに限界があるなら、子どもの使い方に制限をかける必要があります。
この本では、情報メディアが子どもに与えると考えられる影響を列挙し、保護者と教育者がどうすればよいかを考える資料となるようにしました。ケータイとインターネットによる影響を主に扱っていますが、意外に知られていない乳幼児に与えるテレビの影響と、ケータイの普及で影が薄くなったテレビゲームの問題にも触れています。読んでいただければわかりますが、これらには、ケータイやインターネットと共通する子どもへの影響があります。このように情報メディア全般が共通に持つ子どもへの影響を体系的にまとめた著書は、これまでなかったと思います。また、情報メディアの特徴として、個人性と匿名性に注目して論じている点も、初めてのことです。
この本で情報メディアとして扱っているものは、テレビ、ケータイ、インターネット、テレビゲームで、それぞれが独立した章になっています。ページ数の多い章から並べると、ケータイ、インターネット、テレビ、テレビゲームの順になります。どのように章立てするかを迷ったのですが、テレビは乳幼児に最も大きな影響を与えるので、子どもの成長過程を考えて、一番前に移動しました。
情報メディアは、大人が作った、大人のための、大人のものです。子どもが使うと、どういうことが起こり、子どもたちがどうなっていくかが、ようやく最近わかってきました。それらを、できる限りていねいに、網羅的にこの本に書きました。情報メディアは、子どもにとって何なのかを考え、子どもの健やかな成長のために、保護者と教育者が今何をすべきなのかを考えるための一助としていただければ幸いです。
2010年12月
著者 村田育也
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