太平洋を挟んで日本を取り巻く2つの軍事大国、米国と中国の間で今、AI(人工知能)をベースとする新たな軍拡競争が幕を開けようとしている。
●“China's Intelligent Weaponry Gets Smarter” The New York Times, FEB. 3, 2017
上の記事によれば、米海軍はロッキード・マーチン製の「長距離対艦ミサイル(Long Range Anti-Ship Missile: LRASM)」の配備を来年(2018年)にも開始すると見られている。
この新型ミサイルには高度な「パターン認識」など先端AI技術が搭載され、これによって自力で標的(攻撃対象)を見つけ出し、そこに突っ込んでいく。
LRASMの開発はすでにおおむね完了しており、米海軍は2013年の秋頃からカリフォルニア州の沿岸・近海などで、このミサイルの発射テストを行っている。
ペンタゴン(米国防総省)は公式には発表していないが、軍事関係者の間では 「LRASMは(南シナ海など海洋進出を加速させる)中国の海軍を念頭に開発された」と見られている。
それは彼らの間で「遠隔戦争(remote warfare)」と呼ばれる、今後の新たな戦争形式を想定して開発された。たとえば米中のような地理的に離れている2つの軍事大国が直接対峙することなく、遠隔地から互いに攻撃し合うタイプの戦争だ。
そこで大きな役割を果たすのが、LRASMのようなAIを搭載した自律的兵器だ。なぜなら、お互い遠く離れて戦う場合、たとえば「敵の艦隊」など攻撃対象となる標的に対し、自軍の指令官があらかじめピンポイントで狙いを定めることは難しいからだ。
そこで指令官(人間)はとりあえず、遠くの敵艦隊のいる方角に向けてLRASMの発射命令を出す。
発射された、この自律的ミサイル(マシン)は敵のレーダー網などを巧妙に掻い潜り、長距離を飛行して敵艦隊に接近。そこから(パターン認識技術などを使って)自力で最終的な標的を特定し、これを破壊するという段取りになる。
特に中国海軍は兵力の分散配備を進めている。つまりミサイルなど多数の兵器を、何隻もの小型戦艦へと分散して配備し、これらの艦隊が集団で敵の大型空母などを攻撃するというスタイルだ。こうした方が味方の被害を最小限に抑え、敵の被害を最大化できると考えられている。
これに対しLRASMでは、これら敵艦隊を構成する多数の小型戦艦の中から、最も攻撃効果が高い戦艦を見つけ出し、これに突っ込んで破壊できるという。ただしペンタゴンや開発元のロッキード・マーチンでは、このミサイルがどのようにして最終的な標的(戦艦)を決めているのか、その仕組みやロジックは極秘事項として明らかにしていない。