2017-02-07

むちゃくちゃな理由JASRACを勝たせた判例ベスト10(後半)

前半はこちら

http://anond.hatelabo.jp/20170207184036

第5位

チャリティーコンサート身体障がい者のための寄付金を集めた場合は『非営利無料演奏』ではない」(東京地裁

東京地方裁判所平成15年1月28日判決

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=11369

著作権法38条1項によれば、①非営利で、②料金を徴収せず、③演奏者に報酬が支払われない場合、という3つの要件をすべて満たせば、JASRACに無断で公に演奏しても構わないとされている。

それではチャリティーコンサートはこれを満たすのか、が争われた事例。

「観客から直接入場料名目の金員を徴収することはなかったものの,寄付金を集めており,これは,著作物提供について受ける対価と認められる」「被告らは,演奏会の売上げからこれまで2000台を超える車椅子を全国各地の社会福祉協議会寄付してきた旨の主張をするが,そのような事実があるとしても,著作権侵害行為正当化されるものではないことは明らかである。」

寄付金は「著作物提供について受ける対価」だから、②の料金の徴収に当たるのだ、という判例。「寄付金寄付とは言っていない)」ということか。チャリティーにかかわってる人は怒っていい。

第4位

カラオケスナックマイクを持って歌ってるのはお客さんだけど、法律上は『店長が歌っている』という扱いにするよ」(最高裁

最高裁判所昭和63年3月15日判決(「最高裁判所民事判例集」42巻3号199頁に掲載

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52186

ホステス等が歌唱する場合はもちろん、客が歌唱する場合を含めて、演奏歌唱)という形態による当該音楽著作物の利用主体は上告人らであり、かつ、その演奏営利目的として公にされたものであるというべきである。」

「上告人ら」というのはカラオケスナック経営者店長)を指している。

「お客さんが歌っている」という扱いだと利用料を徴収できない。そこで無理やり、「店長が歌っている」という扱いにすると宣言した最高裁判例

さすがにこれには最高裁裁判官の中からも「いささか不自然であり、無理な解釈ではないかと考える」 と述べる反対意見が出されたが、JASRACを勝たせたいがために、多数決で押し切った模様。

カラオケ法理」と呼ばれるこの悪名高い迷理論について学者から批判は根強いが、判例として固まってしまったために、後の裁判所はこれをどんどん活用して、もはやカラオケでもなんでもない事案も含めていろんな場面に広く適用している。海外日本テレビが見られるサービスも(最高裁平成23年1月20日判決)、自炊代行も(知財高裁平成26年10月22日判決)、日本サーバを置く動画共有サイトも(知財高裁平成22年9月8日判決)、音楽CD簡単携帯電話に取り込めるサービスも(東京地裁平成19年5月25日判決)、みんなそれで潰された。

第3位

カラオケ映像を流すのは映画の上映だから演奏料金に加えて上映料金も支払え」(大阪地裁

大阪地方裁判所平成6年3月17日判決(「判例時報」1516号116頁に掲載

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=13880

カラオケ法理」によって店長には演奏の利用料を支払う義務があるとされたが、JASRACはそれだけでは飽き足らず、上映の利用料も支払えと訴えた。

法律上は「演奏」と「上映」とは別個の行為であって、それぞれに利用料を支払う必要があるということのようだ。

裁判所はこの主張を認めた。

「本件装置により右レーザーディスク再生するときモニターテレビ画面には収録された連続した映像音楽著作物歌詞文字表示が映し出され、スピーカーからは収録された管理著作物伴奏音楽が流れ出るのであるから、これが映画著作物の上映に該当することは明らかである。」

カラオケに行くと、曲とは無関係の古臭い映像がよく流れるが、裁判所はあれを眺めるのは映画鑑賞にあたると考えたらしい。

第2位

演奏会の会場を借りるために名義を貸しただけの者も演奏主体として利用料を支払え」(東京高裁

東京高等裁判所平成15年1月16日判決

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=11389

「Dの名称興行事業を行ってきていた被控訴人Oが,Kの懇請を受けて,同社に名義を貸したことにより,同社が控訴対象演奏会を開催することが可能ないし容易になったものであるから…,両者は,協力して,同演奏会を開催したものと解するべきであり,その結果,故意又は過失により,著作物使用料相当額の損害をJASRACに与えたのであれば,両者のそれぞれにそれを賠償する責任が生じるのは当然というべきである
同じく第2位
普段中国に住んでいても、店舗賃貸借契約連帯保証人であり、店舗固定電話契約名義人でもあるから演奏主体として利用料を支払え」(知財高裁

知的財産高等裁判所平成28年10月19日判決

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=86203

「1審被告Y2は,自らを本件店舗経営者認識しているものではないものの,①本件店舗開店運営のための資金提供し,本件店舗賃貸借契約連帯保証人となり,本件店舗に自らを契約者とする固定電話を設置し,自らのバンド名を本件店舗名称として使用することを決定し,ミュージシャン仲間らとともに,本件店舗無償で,ライブに不可欠な音響設備等を提供するなど,本件店舗開店積極的に関与したこと…からすれば,1審被告Y2においても,1審被告Y1とともに,本件店舗の共同経営者としてその経営に深く関わっていることが認められる。」

店長だけでは飽き足らず、その周辺にいる色々な人まで訴え始めたJASRAC音楽を扱う人に好意で名義を貸すといつJASRACからいちゃもんをつけられるか分からないという恐ろしい社会になりつつある。

第1位

カラオケ装置カラオケ店に貸してるだけのリース業者JASRAC賠償金を支払え」(最高裁

最高裁判所平成13年3月2日判決(「最高裁判所民事判例集」55巻2号185頁に掲載

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52293

カラオケ装置リース業者は…リース契約相手方に対し,当該音楽著作物著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結すべきことを告知するだけでなく,上記相手方が当該著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたことを確認した上でカラオケ装置を引き渡すべき条理上の注意義務を負うものと解するのが相当である。」

第2位の演奏場所の名義からさらに飛躍して、カラオケ装置リース会社にまで責任を認めた最高裁判例

「条理上の注意義務」などというわけのわからない概念に基づいて賠償金の支払い義務を課せられるのだから、もうやりたい放題である

ちなみにこの「条理」という概念の由来は、今から100年以上前明治8年に制定された「裁判事務心得」という布告である

明治維新直後で法律の整備が全然追い付いていない状況で、それでも裁判をしなければならないということで、「民事裁判に成文の法律なきものは習慣に依り、習慣なきものは条理を推考して裁判すべし」と定められた。

その後、法律の整備が進み、さらには日本国憲法76条3項で裁判官は「この憲法及び法律にのみ拘束される」と謳われている現在において、明治8年のこの布告が効力を持っているとは考えにくいが、最高裁はこの「条理」という概念を持ち出すことで、法律に何の規定もないにもかかわらず、リース業者に多大な義務を負わせたというわけである

さてさて、果たしておかしいのはJASRACなのか司法なのか、それとも著作権法という稀代の悪法それ自体なのか……。

トラックバック - http://anond.hatelabo.jp/20170207184136

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん