【ベルリン中西啓介】ドイツの民間学術団体が保有するアイヌ民族の遺骨1体について「不当な収集」だったことを認めたことを受け、在独日本大使館が返還手続きについて団体側と交渉を開始したことが分かった。返還されれば、海外からの初の事例となる見通し。専門家は、遺骨返還の実現が、今後の海外からの遺骨返還交渉に関する枠組み作りや、アイヌ遺骨問題の国際的認知度の向上に大きく貢献すると期待している。
遺骨を収蔵する「ベルリン人類学民族学先史学協会」(BGAEU)は1月、毎日新聞の取材に、1879年に札幌で収集された頭骨について、当時の民族学誌の収集報告から「倫理的に許されない手段で収集された」と判断、返還の意向を表明した。
報道を受け、ベルリンの在独日本大使館は6日、BGAEU代表のウォルフラーム・シーア・ベルリン自由大教授と対応を協議。BGAEU側から「収蔵が不当と認められるアイヌ民族の遺骨があった。日本側が求めるなら返還したい」との意向を伝えられたという。今後、具体的な返還手順について協議するという。
アイヌの遺骨は海外に散逸している。日本政府は当初、2020年度までに北海道白老町に建設予定のアイヌ文化振興施設で、海外からの遺骨も慰霊することを想定していた。だが、BGAEUは早期に手続きに着手する考えで、短期間での返還実現が現実味を帯びる。
北海道大アイヌ・先住民研究センターの加藤博文教授(考古学)は「今回の事例は、遺骨の収集データを特定し、収蔵団体が不当な収集を認め、返還意向を表明するという理想的なケース。今後の返還交渉のひな型にすべきだ」と話す。
国を挙げて先住民族の名誉回復や遺骨返還に取り組む豪州では、遺骨など人体資料の返還を「和解」や「癒やし」の一環として重視。国が費用を負担し、先住民族代表の返還式への立ち会いなどを支援する。加藤教授は「ドイツからの返還でもプロセスの中にアイヌが参画できるようにすべきだ」とし、政府の支援の必要性を指摘している。