「フラッシュ・ボーイズ」は日本にもいる!

超高速取引を前に、投資家は無力なカモ

その種明かしは――ポンのタイミングで人間の出した手の形を認識し、 1ミリ秒後にそれに勝つ手をロボットハンドが出す「後出しジャンケン」なのだ。悲しいかな、人間のニューロンを電気信号が伝わるスピードは、光ファイバーを伝わる機械の信号のスピードに及ばないから、後出しに気づかない。たったそれだけの錯覚から、無知な顧客を幻惑して「勝率100%」の非常識を編みだすところが、ウォール街の破天荒なところだろう。

さらに東大では、人間が手を出す前の筋肉の動きだけで、いち早くどの手を出すかを察知し、同時もしくは先にロボットが手を出すバージョン2も完成した。

まさしくここに「フラッシュ・ボーイズ」のミソがある。単純な後出し、つまりバージョン1のフロントランなら、日本でも金融商品取引法で禁止されている。だが、バージョン2だと、予め仕込んだ計算式(アルゴリズム)によって、仲介業者などのもたつきが予測でき、ミリ秒、マイクロ秒の空隙を突いて先回りが可能になる。

例えば本書にもあるように、ショットガンのように小口注文を大量に散らして、それを撒き餌に大口の魚影が浮かぶと、ピラニアのように先回りで買い占めるといった手口だ。このアルゴリズムに創意ありとみなせば、バージョン2を規制する法はない。

「超高速取引をする連中にとって、リスクなしで利益を上げるのに必要なのは正確な情報ではない。必要なのは、自分たちに有利になるよう、体系的にオッズを歪ませることだけだ」(本書98ページ)

オッズを歪ませて「壊れたスロット・マシン」(本書286ページ)のようにジャラジャラ出っ放しになっていても、現行法では違法と言えない。正直、困った!というのが、米証券取引委員会(SEC)や日本の金融庁などの偽らざる本音だろう。

証取が提供するコロケーション

「フラッシュ・ボーイズ」は日本にも上陸している。東京証券取引所は2010年1月、立会場を廃止して超高速の現物株式売買システム「アローヘッド」を導入した。同時に「売買システムや相場報道システムを設置してあるデータセンターを擁するプライマリーサイトにおいて、コロケーションサービスを提供する」と謳っている。東証と合併した大阪証券取引所も、2013年11月から先物売買でコロケーションサービスを始めた。

コロケーション。証取が取引所のデータセンターのすぐ傍に、超高速業者などのサーバーを有償で設置させるサービスのことである。日本のある大手証券会社によれば、「すでに約定(成約)の4割、発注の6割がコロケーション経由で占められている。そのすべてが超高速取引業者ではないにしても、実感ではマイクロ秒を争う業者のシェアは約定ベースでおよそ3割、欧米の水準に近づいている」という。

明らかに取引所と超高速取引業者はグルなのだ。東証と大証が合併した日本取引所グループ(JPX)の2014年3月期決算でコロケーション利用料として営業収益に計上されたのは25億6600万円だが、前年度比38%増と急成長している。ところが、その利用状況も契約者数も内訳も、データセンターの所在地についても「一切明かせません」(JPX広報・IR)とひた隠しなのだ。

国家機密、と言わんばかりの箝口令だが、どうも〝黒目〞(日本人)のフラッシュ・ボーイズはまだいないらしい。1980年代からNASA(米航空宇宙局)で職を失ったロケット・サイエンティストたちが金融市場に流れこんで、アルゴリズム取引の基礎ができあがったアメリカとは、残念ながら理系の天才秀才の層の厚さが違うのだ。

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