何かと今、話題の水素水。空前の水素ブームが来ているようですが、僕は悲しくなりました。

何故なら、これだけ水素水がブームになっているという事は、科学における日本の義務教育は効果が薄かったという事になるからです。

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中学校で、理科の実験はそれはワクワクするものでした。

ビーカー、フラスコ、バーナー、科学者になった気分で少し危険な実験をする事は、確実に厨二心をくすぐった事でしょう。

そんな楽しかった理科で、水素を発生させ貯める手技があったのを皆さんは覚えていますか。

そう、水上置換です。

水素は水に溶けにくいので、水上置換方で水素を集めました。ちなみに水素を発生させるのは塩酸+鉄などの金属でした。また逆に、二酸化炭素は水に溶けてしまうため、水上置換方は使えませんでした。また、水に溶けやすく分子量が空気より軽いアンモニアなどは上方置換方で集めました。

ここで、中学で習った事をよく思い出して、水素水という「水素が溶けた水」という商品を解剖してみましょう。水素は水に溶けにくい物質です。まず溶けていないと考えます。とはいえ、「気体の水素と一緒にボトリングされた単なる水」ならば理解ができます。

しかしその場合、キャップを開けた瞬間に水素は出て行き、分子量が2という軽い気体である水素は、窒素と酸素のブレンドである大気を押しのけあなたの部屋の天井に漂う事になるでしょう。つるんとあなたの皮膚を撫でて天井に浮遊する水素はそのうち窓から外へ出て行く事でしょう。

さて、今、ここで話をしたのは水素がH2、気体の分子として存在する場合のお話です。

次に、百歩譲って水素水という商品が「水素が(水素イオンとして)溶けた水」である場合を考えましょう。

もし水素水=水素イオンが大量に溶けた水、という事であるならばそれは単なる酸、acidに過ぎません。水素イオンが大量に溶けている水を酸、水素イオンが少なく代わりに負の電荷を帯びたイオンが優勢な水をアルカリと中学では習いましたね。

つまり最高濃度の水素水は、超強力な酸、濃硫酸や濃塩酸を示しております。

そんなもの飲んだら化学熱傷、下手をすれば気道が腫れて狭窄、窒息しかねません。皮膚に塗れば焼けただれるでしょう。それでも高濃度水素水を欲している方がいるというのならば、止めはしません…。医師としてはオススメできませんが…。

ちなみに、最も身近な酸は胃酸です。

厳密には塩酸で、食後の胃酸のpHは4〜5、空腹時ではなんと約1という強酸です。もし高濃度水素水をご所望でしたら、大量に飲酒してリバースする事で大量の高濃度水素水が手に入ります。おそらく巷で販売されている水素水と比べて、最大100万倍ほどの水素イオン濃度になるはずです。(胃酸のpHが1、巷で売っている水素水のが中性=pH7と想定するとその差6、対数ですので10の6乗で100万という想定です、違ってたらすみません)。かなり高濃度、高く売れそうですね。

どうでも良いですが、胃は酸に強くできているので、それだけ強力な高濃度塩酸を分泌しても胃壁がやられる事はありません。

またもやどうでも良いですが、「ストレスで胃に穴が開く」という胃潰瘍はストレスで胃酸を中和する物質が出なくなり中和がうまくいかず胃が胃酸で溶けて穴が開く、潰瘍ができる、と言われております。

そして、「流石にそこまでするなら自分で買うわい」という方にオススメなのが、お酢です。酢酸です。

胃液ほどのpHは得られないので、水素イオン濃度は胃液と比べて劣ってしまいますが、最近ではコンビニでも売っていてどこでも手に入る身近な水素イオン水ですので、もし水素水が欲しい方はコストの面からもこちらがオススメです。酢の物など食事にも取り入れる事ができる高濃度水素水です。日本には数百年前から「調味料のさしすせそ」の中核を成す存在であります。

ふう。

このページを見ている学生は、理科をもう一度勉強しなおしてみてください。

そして、お母さんお父さんが水素水を買っているようであれば、
その水素水は、分子としての水素が気体として混在している単なる水?それともお酢より薄い濃度で水素イオンが溶けているうっすい酸?ねえどっち?
と質問してみてください。

このページを見ている大人は、理科をもう一度勉強しなおすか子供に教えてもらってください。

そして、日本という恵まれた国で教育を受けたはずの大人が、ブームに乗っかってエセ科学に騙されている事を恥じるべきです。そして、自分の子供が、水素水を買わないで済むように、正しい科学の目を身につけさせてあげてください。

 
ちなみに水素は上方置換でも集められますが、上方置換だと水素が漏れる可能性があり引火した場合割と激しめの爆発が起こるのでオススメしません。

追記:一部表記に誤りがあったため修正しました。