解体と更新を止めない演劇集団 範宙遊泳インタビュー【後編】
範宙遊泳『幼女X』のワンシーン(2015年9月) 撮影=加藤和也(FAIFAI)

解体と更新を止めない演劇集団 範宙遊泳インタビュー【後編】

プロジェクターで舞台上に投射した文字、映像、光、影などの要素と、舞台上の俳優を組み合わせる演出方法が「2.5次元の演劇」と評され、注目を集める演劇集団「範宙遊泳」。公演を目前に控えた8月、彼らにインタビューを敢行しました。前編では、演出家・山本卓卓のインタビューを公開しました。後編では、範宙遊泳のメンバーである大橋一輝埜本幸良福原冠に話を聞きます。


 「範宙遊泳」は、脚本と演出を手がける山本卓卓が、大学在学中であった2007年に旗揚げした劇団。山本は、2014年に東京芸術劇場で上演された『うまれてないからまだしねない』で、若手作家の登竜門である「第59回岸田國士戯曲賞」の最終候補にノミネートされました。

 2015年9月2日から、東京・こまばアゴラ劇場で開催されている演劇集団「範宙遊泳」の2本立て公演『幼女Xの人生で楽しい数時間』。同公演は、東京公演を皮切りに、札幌、名古屋の3都市で開催されます。

 上演される作品は、連続幼女強姦殺害事件が発生している2013年の東京を舞台とした『幼女X』の再演と、結婚式の異常な風景を描いた新作『楽しい時間』の2本。

 『幼女X』に出演する大橋一輝と埜本幸良、『楽しい時間』に出演する福原冠は、どのような意識で作品に挑んでいるのでしょうか?

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大橋一輝 撮影=斉藤翔平
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埜本幸良 撮影=斉藤翔平
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福原冠 撮影=斉藤翔平

キーワードは、「解体」

──『幼女X』は、2013年に新宿眼科画廊で初めて上演されました。大橋さんと埜本さんが『幼女X』を演じられるのは、今年で3年目にあたりますね。

大橋:そうですね。ずっと演じ続けているので、いい意味でも悪い意味でも自分自身に染み付いてるところがあります。積み重ねていくことはいいことでもあります。ただ、僕たちが『幼女X』を再演するという意味において、同じことをやればいいとは思ってはいません。演出家の山本卓卓も、今までやってきたことを「解体」しようと言っています。

──前編のインタビューでも、山本さんが、今回の公演のキーワードは「解体」になるとおっしゃっていました。

大橋:今回の稽古は最初からプロジェクターを使って、本番のようにやっていくと思っていたんです。ですが、プロジェクターはしばらく使わなかった。音楽に合わせて身体を反応させる稽古をしました。山本は、『幼女X』を解体する作業の中で、もう一度新しい身体を獲得しようとしているイメージがあります。

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写真左は大橋一輝、右は埜本幸良

──『幼女X』を再演するにあたって、自分の中でどのような点を重視していますか?

埜本:2013年に行われた新宿眼科画廊の初演では、プロジェクターで映像や文字を投射する演出方法に挑戦し始めたばかりだったし、僕も映像が投射された中で演技する経験が少なくて、文字や映像に身体が負けてしまうことを、周りから指摘されたのが悔しい経験でした。その後の海外公演では、お客さんが身体を見てくれている印象が強かったけど、僕たちとお客さんのコミュニケーションがずれてしまうことがありました。お客さんは、舞台上に投射された日本語の文字を訳した字幕も見なければいけないから、僕たちの動きばかりを見ていられない。

 だから、久しぶりの国内公演である今回は、お客さんに言葉が直接伝わって、反応がダイレクトに返ってくることが楽しみです。また、今回の公演では初演よりもストーリーの細かい部分の一つひとつが、しっかりとお客さんに伝わって欲しいと思っています。東京公演はコンパクトなこまばアゴラ劇場で開催されるので、お客さんとの距離が近くなりますし、多くの要素が伝わればいいなと思います。

大橋:僕は今までやってきたことを、いい意味で壊していきたいなと思っています。ひとつの作品を突き詰めていくのはいいと思うんです。ただ、ずっとやっていると『幼女X』の中で演じている役が硬質なものになってきてしまう。

 なので、役へのアプローチも含め、今までやってきたことを批評的に見直したり、疑ってみたいなと思っています。それと、山本がいま僕たちに持ちかけてきていることが、身体のことなんです。これまでに意識しつつも、それほど興味のレベルが高くなかった身体のことを、今回は特に意識しています。

グルーヴ感のある、刺激的な舞台

──2人芝居を演じる中で、舞台上で重視していることはありますか?

大橋:『幼女X』は特殊な部分があって、2人芝居とは言ってもお互いに向き合ってリアルな会話劇をするというわけでもないし、1人芝居が積み重なっていく、という見方もできると思うんです。文字だけの登場人物も多く、お互いが色々な役と対話するので、文字だけの存在に対して創造力を持って演じるということを意識しています。

埜本:グルーヴ感に尽きると思っています。音楽のライブなんかと違って、ほかの演劇を見ていて「いいグルー出てるなー」と感じる時は少ない。『幼女X』に限っては、山本も本番の舞台で映像や音を出すオペレーションをしているので、この作品は特にグルー感があると思います。

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稽古中の様子。写真左は、大橋一輝。右は、埜本幸良

──今回の公演に来るお客さんたちには、特にどのような部分を見て欲しいですか?

大橋:範宙遊泳の舞台は、光、色、文字、影、音といった情報が視覚として捉えられるので、初めて範宙遊泳の舞台を見に来るお客さんには、僕たちの舞台はすごく新鮮に感じていただけるんじゃないかと思います。文字や映像が投射され、それに合わせて俳優たちが芝居する演劇ってあんまりないじゃないですか。

 舞台上には、お客さんの創造力を喚起させる要素がいっぱい散らばっているので、それを一つひとつ素直に感じていただけたらいいですね。俳優の身体でも、文字や音でもいい。イメージの宝庫なので。

埜本:お客さんには肩の力を抜いて、ラフな姿勢で見に来ていただけたらと思っています。特別な演劇をやっているとは思っていなくて、新しい演劇をやっているとも思っていないです。

 ただ、少人数で一人ひとりが意識的にグルー感を出しながらやっている僕たちの舞台は、演劇に対して希望的だと思っています。範宙遊泳を知っている方も、初めて見に来る方も「こういうことをやっているんだ」「こういう演劇があるんだ」と、刺激を受けてくれればいいですね。

演劇を更新する演出家・山本卓卓の企みを体現したい

──『楽しい時間』に出演される福原さんは、昨年範宙遊泳のメンバーになられたそうですね。

福原:今年で30歳になるんですけど、30歳からは何かひとつ自分のスタイルを持とうと思っていて。僕は色々な演劇が好きで、硬質な台詞劇や古典劇が好きな一方で、範宙遊泳のような、演劇を更新していく気概のある人たちとやっていくことも好きで。

 これまでは、興味の幅が広いこともあって、ひとつのスタイルを持つことは適していないと思っていたし、スタイルを持つことが格好悪いことのように感じていたんです。

 でも、今年で30歳になると思ったときに、ここから先は軸になるスタイルを持つことが、自分にとって決してマイナスにはならないと、考え方が変わってきました。いまは正式なメンバーになりメンバーとの距離感も変わったこともあって、範宙遊泳に密に染まっていく絶好の機会だと思っています。

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範宙遊泳『楽しい時間』のワンシーン(2015年9月) 撮影=加藤和也(FAIFAI)

──範宙遊泳の舞台には正式なメンバーになる前から何度も出ているそうですが、『楽しい時間』はメンバーになってからの初演ですね。

福原:実は2013年の新宿眼科画廊で上演された『楽しい時間』の初演を見ていなくて、今回の公演はだいぶ内容が変わると聞いていたので、初演の映像も見ていません。いまは稽古を何回か重ねていますが、山本が何かを企んでいるみたいなので、あえて多くは聞かずに、その企みに乗れるようにしたいですね(インタビュー時は公演前の8月) 。

──『楽しい時間』では、未来を舞台に肉体を必要としないオンライン的な世界が描かれると聞いているのですが。

福原:山本はあまりストーリーを教えてくれないんですよ。それは、意図があって教えていないのだろうから、あえて聞いていません。「未来を舞台に、スカイプを利用して実態のない結婚式が行われている」というストーリーのヒントをもらっているだけです。とはいえ、僕は今の情報の小出し感を楽しみにしています。どうやら2013年の初演ではかなり変わったことをやっていたみたいなので、あえて初演の情報は入れない状態で臨みたいです。

制作担当:初演時は、台本なかったよ。

福原:ないのか(笑)。

──台本はないんですね。

制作担当:初演が山本の一人芝居だったので、山本の頭の中にしかないですね。

──台本はないということですが(笑)、『楽しい時間』では自分にとって難しいことをやっていくと思いますか?

福原:そうですね。初めてのことをやるだろうな、と緊張していますね。山本は今回の『楽しい時間』で、新しい試みに挑戦しようとしているようなので、それを僕が体現しなくてはと思っています。

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福原冠

──福原さんにとって演出家の山本卓卓さんはどのような方ですか?

福原:「山本卓卓=マイルス・デイヴィス論」が僕の中にあります。ジャズのトランペット奏者であるマイルスのキャリアは、ビバップからはじまり、様々な音楽を経由しながら、「カインド・オブ・ブルー」や「ビッチェズ・ブリュー」といった、音楽を更新したアルバムを出していく。

 山本も常に演劇を更新しようとしていて、僕たちメンバーにも常に刺激を与え続けてくれる。そういった山本の姿勢に感銘を受けています。もし今後、僕の向かっていくべき方向と異なって一緒に演劇をやれなくなったとしても、悲観的には捉えていないんですよ。

 山本は何年も前から僕のことを範宙遊泳に誘ってくれていて、「しばらく一緒に成長できたらいいな」と思った昨年のタイミングで、劇団に入らせてもらいました。そういった意味でも、『楽しい時間』は僕にとって範宙遊泳のメンバーとしての初演になるので、今回の公演はとても楽しみですね。

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範宙遊泳 撮影=斉藤翔平
範宙遊泳『幼女Xの人生で楽しい数時間』
『幼女X』
作・演出:山本卓卓
出演:大橋一輝、埜本幸良

『楽しい時間』
作・演出:山本卓卓
出演:福原冠

【東京公演】
会期:2015年9月2日~7日(全10公演)
場所:こまばアゴラ劇場
住所:東京都目黒区駒場1-11-13
電話番号:03-3467-2743

【札幌公演】
会期:2015年9月11日、12日(全2公演)
場所:生活支援型文化施設コンカリーニョ
住所:北海道札幌市西区八軒1条西1−2
電話番号:011-615-4859

【名古屋公演】
会期:2015年10月1日~3日(全4公演)
場所:愛知県芸術劇場小ホール
住所:愛知県名古屋市東区東桜一丁目13番2号
電話番号:052-971-5511(代表)
URL:http://hanchuyuei.com

札幌・名古屋公演に計8名様をご招待いたします!

 下記に記載した2公演に、それぞれ2名様、計4名様をご招待します! ご希望の方は、行きたい公演とともに、記事の感想をコメント欄にお寄せください。当選の方に、編集部からご連絡させていただきます。

札幌公演 9月11日19時30分〜
名古屋公演 10月1日19時30分〜

前編はこちら!
悩みがない被写体は面白くない 範宙遊泳インタビュー【前編】

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