「範宙遊泳」は、脚本と演出を手がける山本卓卓が、大学在学中であった2007年より開始。山本は、2014年に東京芸術劇場で上演された『うまれてないからまだしねない』で、若手作家の登竜門である「第59回岸田國士戯曲賞」の最終候補にノミネートされました。
2015年9月2日から、新宿眼科画廊で初演された同劇団の2本立て公演『幼女Xの人生で楽しい数時間』が、東京・こまばアゴラ劇場での公演を皮切りに、札幌、名古屋を含めた3都市で開催されます。
上演される作品は、連続幼女強姦殺害事件が発生している2013年の東京を舞台とした『幼女X』の再演と、ほぼ新作として結婚式の異常な風景を描いた『楽しい時間』の2本。
脚本・演出を担当した山本は、どのような意識で作品に挑んだのでしょうか?
日常のコミュニケーションを、舞台上で表現する
──プロジェクターで舞台上に投射された映像や文字と、舞台上の俳優を組み合わせる手法を用いた『幼女X』を制作しようと思ったのはいつ頃からですか?
2013年の『幼女X』初演の前から文字とのコラボレーションは考えていました。そもそも普段から僕たちは携帯電話でSNSを使用していますよね。だけど、そういった日常で使用されている物が、演劇になると描かれていないケースがよくあるんですよ。なぜかというと、演劇の中にSNSを見ているシーンを反映させることがすごく難しいからなんですね。
──LINEやtwitterといった、日常で使われているSNSを劇中に反映させるということですよね?
そうです。最近の映画だと、twitterの画面が劇中にそのまま登場する『シェフ 三つ星フードトラック始めました』といった作品がありますよね。演劇は、なかなかそれができません。
僕らのリアルな日常を描いていると言われる作品でさえ、たとえば文章を俳優が声に出して読み上げることで、メールを受信したシーンを成立させたりする。僕は、文字と人間がコミュニケーションしているということを舞台中に表現できないだろうかと考えた結果、文字をそのまま投影することを思いつきました。
──リアリズムを追求した結果ということですね。
そうですね。ただ、僕らの日常を突き詰めていくと、最終的に反転してリアリズムじゃなくなっていることはあります。
──「2.5次元の演劇」と言われる作品をこれからもやっていこうと考えているのですか?
そういった策略はありません。手法を無理に変えようということはまったく思っていなくて、自然になるようになるかな、と考えています。2.5次元を3.5次元にするみたいなこともまったく考えていなくて。また、「僕たちは2.5次元をやる演劇団体です」と主張していくこともありません。
──作品の中に投射される文字や映像といった2次元で表現されている要素があり、その中に立体的な人物が存在するから0.5という数字が構造的に付随し、客観的に「2.5次元の演劇」と言われているということですか?
そうですね。「2.5次元の演劇」を強く意識して作品をつくっているわけではなくて、変化が必要であれば自然と変化していくと思います。ただ、テクノロジーの要素は絶対に作品に組み込んでいきたいと思っています。
背景に投射された文字や映像と俳優が、スリルのある戦いをしてほしい
──テクノロジーと言えば、舞台を進行させる中で俳優の演技に合わせて文字や映像を投射するオペレーションが難しいと思うのですが。
オペレーションは僕が担当しています。僕が俳優の呼吸感覚を理解しているから、合わせたりずらしたりといったこともできるんですけど、僕以外の人がやるとなかなかできないんですよ。オペレーションには、僕にしかわからない微妙な時間感覚と、俳優にしかわからない時間感覚が絡み合わないといけない難しさがあると思います。俳優との呼吸や距離感、それにお客さんの欲しい呼吸もきっとありますから。
──オペレーションには、音楽のスコアのようなあらかじめ決められた拍数はないわけですよね?
ないですね。ただ音楽のライブもお客さんの空気を読んで多少変化させていきますよね。拍数はないけれど、音楽的な要素はあります。僕はクラシックが好きで指揮者と演奏者の関係性に憧れているので、指揮棒感覚でオペレーションする要素はありますね。
──文字や映像が投射される中で、演じる側の身体的な表現が強調されていると思うのですが?
僕らは身体性が強調されているとはまったく思っていなかったんですよね。周りからはよく言われるんですけれど。
──逆に強調されてしまうということですかね?
そうかもしれないですね。実際に無意識に身体を強調していると思うし。背景に投射された文字や映像と俳優がスリルのある戦いをしてほしいな、と思っています。プロジェクターで投射された文字は、人間のように立体的に動けないじゃないですか。俳優たちは横にも縦にも立体的に動けるので、その分を身体で戦って欲しいと思います。
「悩みがゼロ」みたいな登場人物だと話が進まない
──『幼女X』の後日談として制作された『楽しい時間』は、新作として上演されるのですか?
そうですね。
──どのようなことをきっかけに描かれたのですか?
例えば、東京にマンションを買うとします。そのマンションは複合施設になっていて、病院やスーパー、TSUTAYAとかがあるとすると、そこに住んでいる人たちは外に出なくても敷地内で生活が完結する。これって、要するにオンライン空間なんじゃないかと思ったんです。
──オンラインゲームとか、仮想空間的なことですか?
そうです。仮想じゃないけれど、現実は仮想みたいになってるんじゃないかと。しかもマンションを買うということは、「地面」ではなく「空中の空間」を買っている。「これはサーバー上に存在するアドレスを買っているということと同じなんじゃないか」という衝撃が、自分の中に走ったんですよ。
──つまり、そういう近未来的な空間に生きる人間の「楽しい時間」が描かれているのですか?
そうです。例えば外が汚染されて外出できなくても、僕たち人間は困らないんじゃないかと思っているんです。肉体が必要でなくなっていく世界ですよね。その中での楽しさって何だろうか、ということを描いています。
──『幼女X』は、連続幼女強姦殺害事件が発生している東京を舞台にしていて、また「敵」を探して歩く男が登場するなどテーマ的にはダークですよね。なぜこのようなテーマで作品を制作しようと思ったのですか?
どうしてでしょうね。毎回明るいテーマを書こうと思っても、なかなか明るくならないところがあって(笑)。自分の中では明るいとは思っているんですけれど。「悩みがない」という人が、被写体としておもしろくならないからでしょうね。悩みがゼロみたいな登場人物だと、話が進まないんです。だから、「誰かが抱えている闇」というものを暴きたくなってしまうんでしょうね。
「代表作」を演じ続けることで、満足したくない
──『幼女X』を再演するにあたって変化させようという部分はありますか?
この芝居をずっとやってきているので、僕らの中で硬い「強度」のあるものができあがっているんですよね。僕は、それをこのままやっていてもおもしろくないんじゃないかと思っています。
──「強度」というのは?
僕らの中の持ちネタというか、アーティストで言えば代表曲みたいなものです。たとえるのなら、ローリング・ストーンズでいうところの「サティスファクション」ができあがっていて、それをそのまま卒なくやっていく方向に性欲がわかないというか(笑)。
だからといって「まったく違ったものをやっていこう」とも思っていません。できあがったものを1回解体して、組み合わせを変えてみよう、ということをやりたいなと思っています。
──年数が経っていくと自分たちも変化していく。その中で同じ舞台を上演するということに意味があるということですか?
そうですね。変わってきたうえで、違うことがわかってくるということはあると思います。
「演劇ってこうだよね」というガチガチな思い込みで見にきてほしい
──今回の再演で目指したいことはありますか?
キーワードは「解体」です。演劇で解体新書みたいなことを僕は出来ないかなと思っています。
──あらかじめ存在するモノを「解体」していきたいということですか?
そうです。演劇自体を解体していきたい。それを『幼女X』と『楽しい時間』の中でお見せできたら、と思っています。
──昨年『幼女X』がマレーシア、タイなど海外で上演され、日本の3都市を巡る凱旋公演でもある今回、初めて範宙遊泳の舞台を見に来る方も多いと思います。そういったお客さんたちにどのような思いで見にきてほしいですか?
「固定概念を捨てて見にきてください」という常套句がありますが、逆に演劇に対して固定概念をむき出しにして見にきてくれたほうが僕は演劇を解体しやすくなると思っています。なので、「演劇ってこうだよね」というガチガチな思い込みで見にきてほしいです。それは、僕とお客さんとの挑戦ですね。
作・演出:山本卓卓
出演:大橋一輝、埜本幸良
『楽しい時間』
作・演出:山本卓卓
出演:福原冠
【東京公演】
会期:2015年9月2日~7日(全10公演)
場所:こまばアゴラ劇場
住所:東京都目黒区駒場1-11-13
電話番号:03-3467-2743
【札幌公演】
会期:2015年9月11日、12日(全2公演)
場所:生活支援型文化施設コンカリーニョ
住所:北海道札幌市西区八軒1条西1−2
電話番号:011-615-4859
【名古屋公演】
会期:2015年10月1日~3日(全4公演)
場所:愛知県芸術劇場小ホール
住所:愛知県名古屋市東区東桜一丁目13番2号
電話番号:052-971-5511(代表)
URL:http://hanchuyuei.com
後編では、「範宙遊泳」のメンバーである大橋一輝、埜本幸良、福原冠のインタビューを公開します。
各地の公演に計8名様をご招待いたします!
下記に記載した4公演に、それぞれ2名様、計8名様をご招待します! ご希望の方は、行きたい公演とともに、記事の感想をコメント欄にお寄せください。当選の方に、編集部からご連絡させていただきます。
- 東京公演 9月3日14時〜
- 東京公演 9月4日14時〜
- 札幌公演 9月11日19時30分〜
- 名古屋公演 10月1日19時30分〜