日露交渉の道筋が大きく変わり、不透明感が増す中で、今年もきのう「北方領土の日」を迎えた。
1855年に択捉(えとろふ)島の北を国境と定め、日露通好条約が締結された日を記念して制定された。
第二次世界大戦後、ソ連(現ロシア)に占領された北方領土(歯舞(はぼまい)群島、色丹(しこたん)島、国後(くなしり)島、択捉島)の返還を求める全国大会が、元島民らも参加して毎年開かれている。
大会で安倍晋三首相は、昨年12月のロシアのプーチン大統領との会談で、領土問題の一刻も早い解決を訴えた元島民の手紙を渡し、思いを伝えたことを報告した。プーチン氏は熱心に読んでいたという。
だが首脳会談で、期待された領土問題の前進はなかった。元島民の3分の2はすでに他界し、残る約6300人の平均年齢は81歳を超える。失望感は大きかったろう。
それでも大会は、両首脳が合意した「新しいアプローチ」に望みを託し、領土問題の解決につなげてほしいというアピールを採択した。
元島民の思いを実現すべく、日露両国政府の努力を求めたい。
「新しいアプローチ」がこれまでと大きく違うのは4島の帰属問題を事実上いったん棚上げすることだ。安倍首相は「歴史的経緯ばかりにとらわれず、4島の未来像を描く中から解決を探る」と説明した。
日露共同の取り組みを通じて信頼関係を強化し、平和条約の締結につなげるのが狙いだが、見方を変えれば、領土交渉の入り口にもう一つ新たな課題が設定されたとも言える。
当面の焦点は、両国民による4島での共同経済活動の枠組み作りだ。3月に開かれる最初の日露公式協議に向け、日本側の関係省庁による検討会議もスタートした。
日本側は「固有の領土」という法的立場を侵さない特別な取り決めを求めている。あくまで自国の法制度の適用を主張しているロシア側との妥協点を探らねばならない。
「新しいアプローチ」のもう一つの柱は、元島民らが故郷を訪問できる機会を拡大することだ。航空機の乗り入れや宿泊、長期滞在の可能性などを探る。高齢化が進む元島民の切実な思いにはぜひ応えてほしい。
首脳会談直後の世論調査では、新しい交渉方針を約6割が支持した。しかし、人道措置や経済協力ばかり先行して、日露交渉の核心である領土問題が先送りされることを警戒する声も根強い。
安倍首相は今年の春と9月にも訪露し、今後も交渉を主導する考えのようだが、「4島の未来像を描く」には、国民の支持が欠かせない。幅広い理解を得ながら、慎重に交渉を進める必要がある。