この超低金利時代、もしかして投資なしで貯金を守れると思ってませんか?

【画像】財布からお金を引っ張り出している男性

先日、亡き母の銀行通帳を整理していると、驚くべき数字が目に飛び込んできました。富士銀行(現在のみずほ銀行)の定期預金通帳で、1980年の利率が「7.75%」と印字されていたのです。ほかに、1985年の利率は「5.75%」とありました。

7.75%の利率と言えば、1000万円を預けたときに、たった1年で77万5000円の利息がつくというシロモノ。10年預けたら、利息はなんと775万円です!

さて、いま定期預金の利率はどうなっているでしょうか。日本銀行の「預金種類別店頭表示金利の平均年利率等について」を見ると、平均利率は0.015%です(2016年11月末現在)。1000万円預けても、利息は1年でたったの1500円です。利率7.75%のときと比べると、利息額のあまりの少なさに愕然とします。

一方、普通預金はどうでしょう。バブル期の金利は2%を超えることもありましたが、現在の平均年利率は0.001%。1000万円預けておいても、1年間でわずか100円しか増えないのです。ATM(現金自動預け払い機)の利用手数料を考えたら、引き出すときにはマイナスになりかねません。

【グラフ】普通預金金利の推移(1975年-2015年)

預金しておくだけではお金の価値が減っていく

そこへ来て、2016年1月、日銀政策決定会合により「マイナス金利政策」の導入が始まりました。各金融機関は「日本銀行にお金を眠らせたままだと資産が減少してしまう」という危機感を抱き、運用先として企業向けにお金を貸し出すようになるため、結果として、企業による賃金引き上げや設備投資が促され、景気の改善が期待されるだろう――というのが、日銀の狙いです。

前述の普通預金の平均年利率0.001%という数字は、このマイナス金利政策の影響によるものです。2010年以降は0.020%で据え置きが続いていましたが、マイナス金利導入による市場金利の下落を受けて、金融機関が利率を見直したのです。

しかし「じつは、マイナス金利が導入されるよりもっと前から、実質金利(=金利から物価上昇分を差し引いたもの)はマイナスの状態が続いていたのです」と指摘するのは、『ものぐさ投資術』(PHPビジネス新書)の著者で、投資信託の評価機関「モーニングスター」代表の朝倉智也さんです。

「預金の金利が0.1%だったとして、100万円預けたら、1年で1000円の利息がつくことになります。もしこのとき、物価が1%上昇したら、100万円の商品は101万円になります。世の中の商品が1万円値上がりしているのに、もらえる利息は1000円だけですから、預金をしていたために9000円分の価値が減少したことになります。私たちが預金しているお金の価値は0.9%減少した、つまり、実質的な金利はマイナス0.9%だったということになるのです」

マイナス金利政策はしばらく続く

「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について」(政府と日本銀行の共同声明)によると、日銀は「消費者物価の前年比上昇率2%」を目標に掲げています。

くり返しになりますが、現在の普通預金の利率は年0.001%。100万円預けたら、1年で利子は10円。日銀の物価上昇目標が達成されるとき、100万円の商品は102万円へと2万円値上がりします。預金しておくことで、私たちのお金は1万9990円の価値を失うことになるわけです。

日銀の狙い通り、マイナス金利導入後、預貯金の金利はさらに低下しています。日銀の「物価上昇率2%」という目標にも変化は見られません。となると、実質金利がマイナスになる状況はしばらく続くと考えておいたほうがいいかもしれません。

生命保険の予定利率も下がっている

利率の低下は預金に限りません。かつては「貯蓄」に近い意味を持ち、親の世代に人気が高かった生命保険の「予定利率」も、どんどん下がっています。ちなみに予定利率とは、保険加入時に「この利回りで運用します」と保険会社が約束するもので、基本的に加入時の予定利率がずっと続きます。

【グラフ】個人生命保険の予定利率の変遷

昭和60年代(1985年4月〜1990年3月)、終身保険で5.5%だった予定利率は、2013年4月以降1.0%まで引き下げられました。このことは何を意味するのか。30歳の男性が死亡保険金1000万円の終身保険に加入し、60歳までの30年間、平均的な生命保険会社に毎月の保険料を支払った場合を参考例として、朝倉さんは次のように指摘します。

「予定利率が5.5%だった1985年、月払い保険料は1万1000円でした。つまり、60歳までに支払う保険料の総額は363万6000円。これで1000万円の死亡保障が買えるなら、確かに悪くない話かもしれません」

ところが、2013年に予定利率が1.0%まで下がると、

「月払い保険料は2万3950円、支払い保険料総額は862万2000円。つまり、同じ1000万円の死亡保障を買うのに、1985年から2013年までのあいだに保険料は約2.4倍になっているわけです」

同じ死亡保障を買うのに、30年間で支払う保険料にこれほどの差がつくとは・・・。マイナス金利の影響で運用難が続いている保険会社が、保険料を1割超も値上げするという報道も相次いでいることを考えると、割高感はこれからさらに高まるのでしょう。

相変わらず銀行の金利に頼っている人が多い

こうやって考えてみると、「銀行に預ける」「保険で貯蓄する」といった親世代の常識は、私たちの時代における非常識になってしまったことが、はっきりとわかります。にもかかわらず、現実にはいまもなお多くの人が、銀行、郵便局や生命保険にお金を預けています。

「家計の金融行動に関する世論調査」(2016年、金融広報中央委員会)によると、金融商品別の構成比は、預貯金(郵便貯金を含む)が55.3%でダントツのトップ。次いで、生命保険+損害保険の19.6%となっています。1996年のトップがやはり預貯金で55.0%、次いで生保+損保で20.2%。お金を預ける先は20年前とそんなに変わっていないのです。

【グラフ】金融資産保有者の金融商品別構成比の比較

普通預金の平均金利が年0.001%という現状では、どの銀行に預けても大差ありません。朝倉さんが著書でストレートに表現しているように、「各銀行の金利をチェックして、年0.003%など、少しでも利率の高いところを探すのは、はっきり言って時間の無駄」です。100万円預けても、10円増えるか、30円増えるかの世界ですから。

お金の価値が目減りするのを眺めて暮らすのか

では、これからの時代、老後の資産づくりのために何をすべきなのか。

朝倉さんは、世界の各国が紆余曲折を経ながらも着実に経済成長を遂げてきた歴史をふまえ、今後も長期的に成長続けていくと考えるのが自然としたうえで、「その成長に乗るためには、世界中の資産に投資していけばいい」「世界中の株や債券などの多様な資産に分散投資」していくのがいい、と結論づけています。

今日まで投資に手を出してこなかった人の理由の多くは、おそらく「なんとなく危険そうだから」といったものではないでしょうか。こんなことを書いている私も、正直なところを言うと、昔から親に「投資には手を出すな」と言われ続けたために、投資に二の足を踏んできました。それはそれでありがたい教えだったと思います。

しかし、この超低金利時代に「銀行に預ける」「保険で貯蓄する」ことの無意味さを痛感し、親の教えもまた時代に合わなくなってきていると感じています。私たちはいま、預貯金以外の方法で、老後の資金をつくることを真剣に考えるべき時期にいるのではないでしょうか。

これまで通り、『将来に備えるなら銀行の定期で十分』という姿勢を取るなら、もちろん無理に止めたりはしません。せっかく働いて稼いだお金の価値がどんどん目減りしていくのを、あなたが黙って見つめていられるのなら。

(文・永峰英太郎)

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