将棋ソフトの不正使用疑惑をめぐる混乱の責任を取るとして辞任した、日本将棋連盟の谷川浩司会長の後任に、名人や竜王などのタイトルを獲得したトップ棋士の1人、佐藤康光九段が選ばれました。
「将棋連盟 信頼は取り戻せるか」をテーマに、名越章浩解説委員が解説します。
【なぜ混乱?】
日本将棋連盟の初期の対応のマズさが大きいと思います。
というのも、去年10月、将棋ソフトを使った不正疑惑を週刊誌が記事にするという情報が、連盟に入ってきた際、七大タイトルの1つ、竜王戦を目前に控えていたので、慌てて対応したという経緯があります。
その結果、しっかりとした調査をしないまま、三浦九段の処分を急いで発表してしまいました。
【なぜ、こういう判断?】
背景の1つに、AI(人工知能)への恐れがあると思います。
人工知能の急速な発展で、ここ数年、プロの棋士が次々に将棋ソフトに負けています。
このため、誰かが将棋ソフトを利用して不正を行うのではないかと、棋士たちが疑心暗鬼になっていました。
「本当はいないはずの鬼が見えてしまった」と、皮肉まじりに語る人もいます。
また、今の連盟の体制の「限界」も背景にあると思います。
将棋連盟の重要な決断を行う常務会の主要なメンバーは、会長や常務理事です。
みなさん現役の棋士で将棋のプロですが、逆に言えば、リスク管理のプロではありません。
実は、外部の立場で意見をいう外部理事もいますが、今回の騒動では、三浦九段を処分するという重大な判断を、一部の常務理事と棋士たちが行っていました。
時代の変化によって生まれる新たなリスクに十分対応しきれない、今の体制の限界が、今回の騒動で浮き彫りになった格好なのです。
【信頼は取り戻せるか】
佐藤新会長には、連盟の信頼を取り戻す期待がかかります。
そのためには、組織改革が必要だと思います。
例えば、リスク管理にも秀でた外部の人材を登用することを、本格的に検討すべきではないでしょうか。
また、再発防止に向けた対策を話し合う委員会の設置も必要だと思います。
一般企業では当たり前の対策ですが、将棋ファンが納得する組織に立て直すためにも、まずは従来の将棋界の殻を破るような対策を示して欲しいと思います。
(名越 章浩 解説委員)