初期モダニズム建築の傑作、解体惜しむ声

横浜市中区の県警本部尾上町分庁舎

3月中に解体を終える県警本部尾上町分庁舎 =横浜市中区

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 横浜市中区にある「県警本部尾上町分庁舎」が老朽化のため解体される。曲線を描く外観と、ずらりと並ぶガラス窓が印象的で、近代建築に詳しい専門家は「横浜における初期のモダニズム建築の傑作」と高く評価。関内地区で65年近く親しまれた建築物が消えることに、惜しむ声が上がっている。

 管理する県警本部によると、県が発注して1952年6月30日に竣工(しゅんこう)。施設名を示す看板や正面玄関はないが、鉄筋コンクリート3階建ての分庁舎として使われた。耐震面の課題が判明したことから3月中に取り壊しを終え、土地は所有する国に返還するという。

 設計時の図面や、設計者や施工業者を記した資料は50年間の保存期限を越えているため残されておらず、詳細は分からないという。

 専門家によると、開放的な印象を与える縦長の採光ガラス窓などに、日本の建築史に大きな足跡を残したアントニン・レーモンドの影響を見て取ることができる。レーモンドは伊勢佐木町の不二家ビル(37年竣工)を設計するなど戦前日本で活躍したことで名高い。

 建築家の村野藤吾が設計して59年に竣工し、モダニズム建築として知られる横浜市庁舎の真向かいにあり、見比べることができるため、近代建築の研究者らが関心を寄せていた。研究や保存を求める動きがあったが、厳重な警備を求められる建物とあって、思うようには進まなかった。

 横浜国立大学の吉田鋼市名誉教授は「戦前のレーモンドの建物と、60年代以降の文字通りのモダニズム建築をつなぐ希少なサンプルだ」と高く評価。「あまり議論されることなく解体に至ったのは残念。せめて1回だけでも見学会を開催してほしい」と話している。

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