これでは国と沖縄の分断はますます深まり、基地問題の解決にはつながらないだろう。
政府が、沖縄県・米軍普天間飛行場の移設のため、名護市辺野古沖の海上での本体工事に着手した。
「あらゆる手段で移設を阻止する」との姿勢を示してきた県は反発している。今後、埋め立て承認後に状況変化があった時に適用できる、承認の「撤回」などに踏み切る可能性がある。その場合、政府は対抗措置として訴訟を起こすことも検討しているという。そうなれば国と県の対立は、再び法廷を舞台に泥沼化しかねない。
政府は、行政として法的に必要な手続きは踏んでいると言いたいのかもしれない。菅義偉官房長官は記者会見で「わが国は法治国家だ。最高裁判決や和解の趣旨に従い、国と県が協力して誠実に対応し、埋め立て工事を進めていく」と述べ、工事着手の正当性を強調した。
確かに法的な手続きに問題はないだろう。最高裁は昨年12月、辺野古の埋め立て承認の取り消しを「違法」とする判決を下した。判決を受けて、翁長雄志(おながたけし)知事は埋め立て承認の取り消しを撤回し、承認の効力が復活した。政府は約10カ月ぶりに工事を再開し、今回、海上での本体工事に着手したというのが経緯だ。
だが、この問題の本質は、法律や行政手続き上の適否ではない。
辺野古をめぐる対立は、直近では、前知事による埋め立て承認が「県外移設」の公約を覆した形で行われ、反発した沖縄県民が一連の選挙で辺野古移設に反対する民意を示したことに始まる。
安全保障上の必要性から辺野古移設を推進しようとする国と、沖縄の歴史や地方自治の観点から反対を訴える地元の民意が食い違った状況で、これをどう解決するかという政治の知恵が問われている。
代替基地が辺野古にできれば、オスプレイも移る。普天間の危険性を除去し、在日米軍の抑止力を維持するため、日米両政府は辺野古移設が「唯一の解決策」と繰り返し、先日のマティス米国防長官の来日でも確認された。辺野古の海上本体工事は、安倍晋三首相の訪米を控えて着手され、まるでトランプ米大統領への手土産のようにも見える。
だが辺野古移設は、沖縄県民から見れば、県内で危険をたらい回ししているようにしか感じられない。県民の理解がなければ、たとえ代替基地ができても、日米安保体制を安定的に維持するのは難しい。
硬直した思考に陥らず、トランプ政権の発足を仕切り直しの契機ととらえ、日米で辺野古以外の選択肢を柔軟に話し合うべきだ。