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視点・トランプ時代/10止 中東政策 思い上がりは混沌招く=論説委員・布施広

 入国規制の米大統領令を聞いて、ユダヤ人迫害を思い出した。第二次大戦時、ナチス・ドイツはユダヤ人を識別すべく彼らに六芒星(ろくぼうせい)(ダビデの星)のバッジを付けさせ、収容所にも送った。

     何を大げさな、とトランプ政権の支持者は言うだろうか。ユダヤ人大虐殺(ホロコースト)と違って大統領令は誰も殺傷していないではないかと。

     だが、国や民族、宗教などで人々を差別、隔離する発想は全く同じだ。入国禁止の対象となった中東・アフリカ7カ国はいずれもイスラム協力機構の加盟国(シリアは資格停止中)で人口の総計は2億人を超える。連邦地裁が大統領令を問題視して差し止めを命じたのは当然だ。

     辛酸をなめたユダヤ人のイスラエル建国を後押ししたのは米国である。ゆえに両国が特別な関係にあるのはいいとして、米国が内向きになるとイスラエルに似てきて、その分イスラム諸国が両国への反発を強める傾向があるのは注意を要する。

     例えば2001年の米同時多発テロ後、ブッシュ(息子)政権は先制攻撃論に基づくイラク戦争を始めて泥沼に入った。イスラエルは81年のイラク原子炉空爆などの「防衛的先制攻撃」を続け、これが先制攻撃論の原形になったと言われる。

     また、トランプ大統領がメキシコ国境に造る壁は、イスラエルがテロ防止を理由に建設した分離壁からの着想とされる。国際司法裁は分離壁を「違法」としているが、トランプ政権はイスラエルが首都と主張するエルサレムへ米大使館を移す構えも見せ、両国の緊密化が顕著だ。

     これに対する反発が怖い。中東は怨念(おんねん)の地だ。同時テロの首謀者ウサマ・ビンラディン容疑者は04年、「パレスチナとレバノンで米国とイスラエルの同盟がなした不正な行いや圧制」が、自分に同時テロを決意させたとビデオ声明で語った。

     これをそのまま信じる必要はないが、米国自身も反省したはずだ。例えば同時テロの独立調査委員会が04年にまとめた報告書は、テロ防止策としてイスラム世界に米国の理想を明確に示す必要性を説いている。

     さらに超党派の「イラク研究グループ」は06年、米政府に対しイラク周辺国との関係改善と中東和平に対する直接的な関与を提言した。今も有益な勧告だが、トランプ政権はたぶん一顧だにしないだろう。

     だが、思い上がって過去の教訓を無視すれば、中東における米国像はゆがみ、混沌(こんとん)の時代がやってこよう。国際社会もいや応なく巻き込まれる。=「トランプ時代」おわり

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