トップ>小説>前世の職業で異世界無双〜生前SEやってた俺は、異世界で天才魔道士と呼ばれています〜
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4話 適性検査でフラグ・ブレイク

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この掲載部分は書籍化に伴い2月6日に削除予定です。
何卒、ご了承ください。

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 聖王教学校……つまり教会に、学習用の部屋など存在しない。
 3つのクラスが、礼拝堂内で適当な間隔を空けて床やイスを机代わりにして勉強しているのだ。
 聖王教学校で教える科目は全部で5つある。
 読み書きを教える言語学。
 計算を教える算術。
 聖王教会の教えを説く聖教学。これはアレだ。
 人の物を盗んではいけません。とか、無闇に人を傷つけてはいけません。とか……
 所謂、人としての行い……道徳のようなものを教えていると思ってもらえれば分かりやすいだろう。
 そして、これが一番重要で俺のワクテカが止まらない魔術学!
 魔術学……“魔法”と“魔術”は別物らしく、聖王教学校で教えるのは魔術らしい。何が違うのかはよく分からんが……は護身剣術と選択式との事で、好きな方を選んで受講することが出来るらしい。
 護身剣術と言う言葉に、男心がくすぐられたが折角、異世界に転生したのだ。
 魔術の一つぐらい使ってみたいじゃないかっ!
 ファイヤーボール! とか叫んで、手から火の玉とか出してみたいじゃないかっ!
 正直、他の科目(護身剣術は除く)になどこれっぽっちも興味などないっ!
 何が悲しくて、今更、足し算引き算を勉強せねばならんのかっ!
 読み書きなんぞ、こちとら4歳になる前に習得しとるわっ!
 聖教学なんて、現代日本で暮らしていればどれも当たり前なことばかりだ。
 詰まる所、俺は魔術を勉強するためだけに聖王教学校に通っていると言っても過言ではないのであるっ!
 しかし……魔術を学ぶためには3つの難関を突破しなければならないのだっ!
 まず、第一の難関は読み書きを学ぶ言語学の時間!
 つまらん! 眠い! のダブルパンチが俺を打ちのめそうと激しく強襲したのだ!
 なんとかその猛攻を掻い潜った俺だったが、次の難関が俺に休む暇を与えずに襲い掛かって来た。
 第二の難関、算術の時間!
 満身創痍な俺に、更なる強敵が援軍としてやって来たのだ。
 その名も……退屈!
 つまらん! 眠い! に加え退屈! が後方援護をする事で、俺に逃げ場のない波状攻撃を浴びせて来たのだ。
 最早これまでか……と観念した時、救いの女神ミーシャ様がご光臨なされたのである。

「ねぇ、ロディ君。ここ……よく分からないんだけど……」

 と、言う事でミーシャに足し算を教えているうちに無事、算術の時間は過ぎていった。
 はい、聖教学は無理でした。
 開始数分で轟沈。
 それがシスター・エリーにばれて説教を喰らいましたとさ。

 そんなこんなを乗り越えて、次はようやく待ちに待った魔術学の時間である!
 護身剣術の時間でもあるが、どちらかを選択する前にやるべき事があるとシスター・エリーに言われたのだ。

「それでは今から、貴方たちの魔術適性を判定したいと思います」

 そう言ってシスター・エリーは何処から出したのか、手の平サイズの水晶玉のようなものを俺たち一年生組に見せてくれた。

「これは魔共晶と言い、手にした者の魔術適性を調べる道具です。
 使い方はそう難しいものではありません。
 これを手に持って、手の平から玉の中心に向かって水が流れ込むようなイメージを思い描いて下さい。
 そうすれば……」

 シスター・エリーの言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、手にした水晶玉……魔共晶とか言ったか? が、ぽわっと淡く光り出したのだった。

「「「おおおっ!!」」」
「……と、この様に光ります。
 これはあくまで現在の貴方たちの適性を知るための物で、魔術に対する適性の序列を付ける為の物ではありません。
 この適性検査の結果を参考に、貴方たちに魔術を学ぶか、剣術を学ぶか決めて欲しいと思います。
 勿論、適性が高いからといって必ずしも魔術を選択する必要はありませんし、逆に低いからといって諦める必要もありません。
 魔術は訓練次第でその素養を伸ばす事も出来ます。
 しっかり訓練すれば、私なんかよりずっと強い光を放つことも出来るようになるかもしれませんよ?」

 シスター・エリーが俺たちに向かって、うふふふ、と優しい笑みを向けてくれた。
 ちくしょうっ!
 かわいいじゃねぇかっ!
 俺がもう20年ほど早く生まれていたら、絶対に放って置かなかったのだが、くやしいかな……今の俺はただの5歳児に過ぎない……
 俺が成人する頃には、シスター・エリーはおばちゃんになってしまっているのだ……
 故に、俺は泣く泣くシスター・エリーを攻略対象から除外していた。
 代わりに、たまに無邪気な子どものフリをして(実際、子どもな訳だが……)そのでっかいおっ……桃源郷へとダイブして顔をスリスリしたりしていた。
 これは、俺がこの世界の墓場まで持って行かねばならぬ超極秘事項である。
 ちなみに、シスター・エリーに飛びついている時の俺を見るミーシャさんの視線が何故か凄く冷たいのだが、気付いていないフリをずっと続けている。
 シスター・エリーはその外見の良さだけでなく、気立てもいい上、子ども好きで料理上手で綺麗好きと、非の打ち所の無い女性なのだが何故か未だに未婚である(村の女性は大体20歳前には結婚している)。
 聖王教会は別に処女厨ではないので、結婚は普通に認めているのだが……謎だ。

「では、誰から始めますか?」
「あたしっ! あたしやりたいっ!」

 そう問いかけるシスター・エリーに、真っ先に答えたのはタニアだった。

「よーしっ! やってやるぜぇ!」

 と、どこぞの機械で出来たワシ型の超獣に乗っているパイロットのような事を口走りながら、タニアは魔共晶を手にすると、ムムムッ、と眉間にシワを寄せて唸り出した。
 が……
 魔共晶から放たれた光は、豆電球以下の光量しかなかった。

「はい。もういいですよタニア」
「ちくしょー! 全然光らなかったっ!」
「魔術の適性は、先天的……生まれ持った“才能”に頼る所が大きいですからね。
 ですが、そんなに悲観しなくても大丈夫ですよ。
 先ほども言いましたが、訓練次第ではある程度魔術の素養は伸ばす事が出来ますから」
「ちぇっ! あたしに魔術の才能は無しってことか……
 はい、ミーシャ」

 タニアは全然残念そうには見えない態度で、手にしていた魔共晶をミーシャへと渡した。
 渡されたミーシャは、俺と魔共晶をチラチラ見ていたので“お先にどうぞ”っと、先を譲った。
 多分“自分が先にやっていいのか?”と迷っていたのだろう。
 ミーシャはホント、ヘンな所で気を使う子だな。

「じゃあ、その……やってみるね……」

 ミーシャは魔共晶を包み込むように、その小さな両手で掴むとゆっくりと目を閉じた。
 と……

 ぽわぽわっ

「「おおおっ!!」」

 それを見ていた俺とタニアが揃って歓声を上げた。
 なにせ、魔共晶が輝いたのだ。
 それも、タニアは言うに及ばず、下手をしたらシスター・エリー以上にだ。

「これは……すごいですね……」

 シスター・エリーもその光景には驚いているようで、初めての挑戦でここまで光ったのを見るのはシスター・エリーも初めてだと話してくれた。

「ふぅ……それじゃあ、次はロディ君だね。はい」

 いよいよ俺の番か……
 ミーシャから魔共晶を受け取とると、俺はミーシャと同じように目を閉じた。
 別にそうする事でいい結果が出るとは限らないが、こう……集中する時は目を閉じる……みたいな?
 明鏡止水の境地……みたいな?
 言ってしまえばパフォーマンスだ。
 だが、しかしっ!
 俺にはある一つの明確なビジョンが見えていた。
 考えて見て欲しい……
 異世界への転生……魔術の存在……そして、初めての適性試験……
 ここまでフラグが立っていれば、この先の展開などラノベで幾らでも読んだ事がある。
 そう……この次の瞬間、俺の手にした魔共晶は眩いばかりの光を放ち100年に一人、いや、1000年に一人の天才魔術師と持てはやされるに違いないのである!
 そして、その名声は遥々王都にまで届き、王宮なんかに召抱えられたりするのだ。
 王宮付きの天才魔術師……なんだか、背中がゾクゾクして来たぞ!
 んでもってんでもって、そんな俺に王女様が一目惚れとかするわけよっ!
 二人は激しく愛し合うのだが、俺は所詮市井しせいの出……
 周りがそれを許さず引き裂こうとするのだが、それが返って二人の愛を燃え上がらせるのだ!
 しかし、二人の真摯な姿に次第に周囲は二人を認め始め……二人は永遠の愛を誓い結ばれるのである!
 くぅ〜ロマンだねぇ!
 おじさん、そういう話キライじゃないです。むしろ、好物ですっ!
 こう、下の方から成り上がるとかね……ロマンだよね。
 でも、そのルートだと俺、王様? この国の王様っすか!?
 俺の人生プランは、この村でまったりゆったり暮らすことなのだが……なんだか、そっちの線も悪くない気がして来た……のだが……
 魔共晶を手にしてしばらく経つが、一向に周りが騒がしくなる気配が無かった。
 俺の想定ではそろそろ“すげーっ!!”とか“なんてことっ!?”とか……
 そう言った感嘆の声が上がる頃なのだが……
 不安に駆られた俺は、ちょっとだけ目を開けて魔共晶の様子を伺うと、そこに信じられない光景を俺は見たのだった。

「なっ!? ……ぜ、全然光ってない!?」

 あまりの想定外な光景に、俺は閉じていた目をおっぴろげて魔共晶を覗き込んでしまった。
 そう、俺の手にした魔共晶をこれっぽっちも、まったく、豆電球程にも光っていなかったのだ。
 これはあれか!?
 俺が脳内お汁を沸騰させていた所為で、雑念が混じったとかからとか、そう言うことかっ!
 ならば今一度、全身全霊を掛けて挑もうではないかっ!
 雑念は全て捨てる!
 そして、イメージ!!
 水が流れ込むイメージで……水が流れ込むイメージで……
 ……しかし、魔共晶はまったく反応を示さなかった。

「むぐぐぐぐぅ! こんなはずじゃ! こんなはずじゃないんだっ!」

 光れっ! 光れよっ!
 そんな思いを込めて、魔共晶を凝視するが魔共晶に変化は無い……
 一体どれ程の時間、俺は魔共晶を凝視していただろうか……
 突然、ふっと俺の肩に優しい感触がした。
 振り返ると、そこにはとても優しい微笑を浮かべたシスター・エリーが俺のことを見下ろしていた。

「その……大丈夫ですよ? 魔術が使えなくても・・・・・・死ぬ事はありません。
 そもそも、生きて行く上で魔術はそれほど重要ではないのです。
 だから、そんなに気落ちしないで下さいロディ」

 今……今、シスター・エリーは何と言った?
 使えなくても・・・・・・
 魔術は、訓練さえ積めば誰でも扱える物なのではなかったのか?
 俺は、その言葉の真意を確認せずにはいられなかった。

「シスター・エリー……
 俺でも、訓練さえ積めば魔術……使えますよね?」

 俺はすがる様な気持ちで、シスター・エリーへと問いかけた。

「あっ……その……ですね……
 ロディ。落ち着いて聞いてください。
 確かに、訓練をすれば使えるようになる可能性・・・は勿論あります……でも、それはゼロではない……というだけの事なのです。
 魔共晶はとても微弱な魔力にも反応して光りますが、貴方の様にまったく光らないとなると……
 そんな貴方が、魔術を使えるようになるまで訓練するとなると、それはとてもとてもとぉーっても大変な事だと……私は思います……」

 痛てぇ……痛てぇよエリー。
 その優しさが痛すぎるよ……
 もう、いっその事“お前には才能がないから無理だ”とバッサリ斬られた方がどれだけ楽な事か……

「なん……だと……?」

 こうして、俺の魔術への期待と憧れは、無残にも粉々に砕け散って儚く消えたのだった……
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