トップ>小説>前世の職業で異世界無双〜生前SEやってた俺は、異世界で天才魔道士と呼ばれています〜
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3話 入学式の時間

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この掲載部分は書籍化に伴い2月6日に削除予定です。
何卒、ご了承ください。

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 入学式。とは言っても、現代日本の様な式典めいた事は特に無い。
 教会の礼拝堂に集まった、総勢30人くらいの子どもたちの前でお髭の神父様(50代後半・俺推定)から“今日から新たな仲間が増えたから、みんな仲良くするように”というありがた〜いお言葉を賜ったくらいだ。
 とは言ってもコレ、別に今日だけ特別に行っているものではなくて、毎朝行っている朝礼のようなものらしい。
 まぁ、今日のお言葉は流石に入学式仕様だったらしく、いつもと少し違うとグライブが教えてくれた。
 普段は勤労こそ美徳とか、協力とか、団結とか、共生とか……どこぞのお国を思わせる真っ赤な思想を教えているらしいが、こんな小さな村では皆が力を合わせていかなければ、生きていけないのもまた事実……
 共産主義は小さなコミュニティーにこそ、その存在価値があるのだと、どこぞの本で読んだような気がするしな。
 なんにしても、解説ご苦労だったグライブ君! これからも頼りにしているぜ!
 と、言うわけで、別に長くも無い神父様のお話も終わった頃、シスターの一人が俺やミーシャ……つまり、今年から学校に通う事になった一年生を集めて聖王教学校について説明会のようなものをしてくれた。
 ところで、シスターと聞くとあの“ごきげんよう”とあいさつをする、白と黒のゴシックな感じの修道服を着た女性をイメージするが、それに比べれば聖王教会のシスターが着る修道服は割りとカジュアルな方だといえるだろう。
 白っぽいワンピース風の服の上に、水色っぽいカーディガンのようなものを羽織っているだけなのだから。
 教会の屋根もそうだが、聖王教会のイメージカラーは青と白なのだろうと俺は勝手に思っている。
 それに、頭を丸めている事もなく、あのへんてこな頭巾のようものも被っていない。
 現に、目の前にいるシスター・エリー(二十歳前後、俺推定)もその薄茶色の長めの髪をポニーテールにしている。
 というか、この教会には三人のシスターが修道しているが、今は皆ポニーテールだ。 
 これは、聖王教会がポニーテールを正装としており、シスターは皆ポニーテールにしなければならないと言う教えがあるからだ。
 聖王教会はポニーテールの世界普及を目指す事を教義とし、日夜ポニーテールの素晴らしさを人々に教え説いているのである。 ビバッ! ポニーテール!
 ……ゴメン。ウソです。俺の脳内お汁が溢れ出してしまいました……
 おじさん、ポニーテールに弱いんよ……
 聖王教会はそんな如何わしい宗教ではありません。
 人々を洗脳して御布施を巻き上げたり、聖戦とか言ってテロったりしません。
 彼女たちがポニテにしているのは、単に作業上髪が邪魔にならないようにするためだと思う。
 ほら、下向く度に髪が落ちてきたら鬱陶しいしな。
 実際、週一の礼拝の時とか、俺たち子どもの相手をしていないときの彼女たちは、結ったり編んだり思い思いの髪型をしている姿も見ている。
 まぁ、その落ちた髪を掻き上げる仕草がまたこうグッと……げふふんっ
 話が脱線し過ぎたな……なんの話だったかな……
 そうそう、聖王教学校の説明を受けているんだったな……

 シスター・エリーの話をまとめるとこうだ。
 聖王教学校では、年齢別のクラスと言うものは存在しない。というか、出来ない。
 理由としては、教師役であるシスターの人数不足が原因だ。
 年齢別でクラス分けをした場合、6歳から10歳までの5クラスが必要になる。
 さっきも言ったが、この教会にシスターは3人しかいない。神父様を含めても4人だ。
 と、言うわけで必然的にクラスの数は3つとなる。
 では、どうやって子どもたちを分けるか? といえば……手始めに各年齢の子どもたちを3つのグループに分けるのだと言っていた。
 今年入った新入生は、俺を含めて9人。年齢別で見たら最多の人数だ。
 丁度いいことに、三分割すると1つのグループ当り3人づつという計算になる。
 そんな感じで、各年齢別に子どもたちを3グループ毎に分けて、一つに大きくまとめたのが1つのクラスとなる。
 縦割り学級とか、複式学級とか……そんなものをイメージしたら分かりやすいかもしれない。
 そして、兄弟・姉妹・血縁者はなるべくまとめると言う事で、俺はミーシャと同じグループとなり(俺は別にミーシャと血縁関係ではないが、生まれたときから一緒である事を考えればまぁ、兄妹と言えなくもないか……)更に必然的に、俺たちはミーシャの兄ちゃんであるグライブのクラスに組み込まれる事が既に決定していた。
 このグループ分けの方法には、面倒を見るシスターたちの保育士的な負担を均等化するという目的の他にも、シスターたちに掛かる負担を軽減する目的も加味された構成となっている。
 つまり、年長者が下の子の面倒を見たり勉強を教えたりすることで、シスターの補佐的な役割を果たす事になるのだ。
 上の子は下の子の面倒を見る事で、自立心を養い、また人に勉強を教えるという行為で高い理解力を養うのだ。
 人に物を教えるなんて、自分が分かってなきゃ出来ない事だからな。
 中々に良いシステムじゃないかと、話を聞いて大きく頷いてしまった。
 こういう横だけじゃない、縦の繋がりを大事にするのは今の現代日本にこそ必要なんじゃないかと俺は思ってしまった。

 と、いうわけでシスターの話もひと段落した所で、グループ分けをするに当り空いていた残りの一人が俺たちのグループに組み込まれたのだが……

「おぉ! あたしはロディとミーシャと一緒かぁ! あのアホどもと一緒じゃなくて助かったぜ!」

 “あのアホども”とは、間違いなくマウラとウーゴの事だな。その意見には激しく同意する。
 真っ赤な髪を短く刈りそろえた、この元気っ娘はタニア。
 ミーシャがメイン幼馴染だとすると、タニアはサブ幼馴染と言った関係だろうか?
 よく一緒につるんで野山を駆け回ったり、ラビ(ウサギに似てる動物。ウサギよりデカイ)をとっ捕まえては食卓に貢献したりしている。
 ミーシャ程じゃないにしろ家はそこそこに近くにあるのだが、一緒にいる頻度で言うならミーシャの半分程度だろうか?
 見かけどおり元気だけは有り余っている感じで、基本粗雑で大雑把。
 男勝りなその性格も相まって、弱きを助け強きを挫く漢気に溢れる女の子だ。
 ミーシャとはまるっきり正反対の性格をしているが、そこがいいのか二人ともとても仲が良い。
 普段から一緒にいることが多い三人が、学校でも一緒になったという事だ。
 これは僥倖と思っていいだろう。
 こいつらが一緒なら、ヘンに気兼ねしなくて済むしな。
 タニアはタニアで俺たちが一緒で安心したのか、ミーシャとキャッキャッウフフしていた。
 
 と、言うわけでグループ分けも無事に済み、俺とミーシャぷらすタニアはシスター・エリーに連れられてグライブたちのクラスと合流していた。
 どうやら、シスター・エリーがグライブたちのクラスの……しいては俺たちの担当らしい。

「おっ? やっぱりお前たち同じグループになったか」

 俺たちが揃って姿を見せると、さっそくグライブが声を掛けてきた。

「うんっ!」
「家が近くて昔から一緒だからって理由はどうなんだ?」

 ミーシャは嬉しそうに頷き、かく言う俺はそんな決め方でいいのか? とやや呆れ気味に答えた。
 と、

「うへぇー……やっぱり兄貴と一緒になったかぁ……」

 隣にいたタニアが、そんな事を言っていた。
 タニアの視線を追うと、そこにはタニアと同じ真っ赤な髪をした少年が居た。
 直接話したりしたことはあまり無いが、顔だけなら何度も見た事がある。
 確かグライブの友達だ。名前は……リュド……だったか?
 小さな村だからな……子供同士なら相手の顔を見れば、付き合いがあるかどうかは別にして大体何処の誰かくらいは分かるものだ。
 本人も言ったように、タニアの兄ちゃんだ。
 なるほど、グライブとリュドが同じグループだったならミーシャとタニアが同じグループになるのは決まっていたということか……
 つまり、タニアと同じグループになったのは偶然でもなんでもなかったという事だ。

「だから家で先に言っただろ? 人の話聞いてなかったのかよ?
 で……よぉ、リトルオルガ。こうやってちゃんと話すのは初めてだな」

 タニアと話すリュドと目が合った所為か、リュドは妹の事もそこそこに俺の方へと近づいて来た。

「その呼び方はやめてくれ。二つ名とか中二心が疼きやがる……」
「二つ名? チュウニ……? 何の事か分かんねぇーけど話に聞いた通りヘンな奴だな、お前」

 リュドは笑いながら、俺の頭をポンポンと軽く叩いた。本人的には撫でているつもりなのかもしれない。だが……
 俺は頭を撫でるのは好きだが、撫でられるのは大っキライだ。
 それが大人なら仕方ない。甘んじて受けよう。
 それが綺麗なお姉さんなら、むしろ子どもという立場を利用して飛びつくのもありだろう。
 だが、ガキに(女の子なら……まぁ、許す)撫でられるのだけはどうにも我慢ならんっ!
 だってそうだろ?
 こちとら、見た目はアレだが心はおっさんだ。
 ガキにガキ扱いされるとか、屈辱でしかない。
 なので、俺は頭の上に置かれたリュドの手をペシリと弾いた。  

「ケンカ売ってんのか?」
「おーコワ! リトルオルガにケンカを売ろうなんて命知らずなマネしねぇーよ。
 悪かったな、頭叩いてよぉ」

 リュドはジェスチャーを交えて“スマン”と謝ってきた。
 謝ってきたのだが、何か根本的な勘違いしている様なのでここはしっかり訂正しておこう。
 
「別に俺は頭を叩かれた事を怒ってるわけじゃない」
「ほぉ……なら、何に怒ってたんだよ?」
「俺は頭を……特に女の子の頭を撫でるのは好きだが、逆に撫でられるのは大っキライなんだよ!」

 俺はそう宣言すると、近くでつっ立っていたミーシャを引き寄せると、かいぐりかいぐり頭を撫で回した。

「ロッ、ロディ君!? ふぇっ、ふぅぇぇえ???」

 ミーシャは何が起きているのか理解出来ないといった様子で目を、白黒させていた。
 おお……このふかふかとした触感……心が浄化されて行く……

「おっ! なんか知んねぇーけどミーシャばっかずっこいぞ!
 あたしもあたしもっ!」

 ミーシャを撫で回す俺の腕に、タニアが横から頭をグリグリと押し付けてきた。

「仕方ないな……」

 俺はミーシャを解放すると、今度はタニアの頭をグリグリと撫で回した。
 ミーシャより若干ゴワゴワした触感だな。
 ミーシャがネコのようなほわほわした感じなら、タニアはハスキー犬のようながっしりした毛並みだった。
 ミーシャ程の撫で心地程ではなかったが、これはこれで悪くない……
 俺的撫で心地ランキングの第4位をくれてやろう!
 ちなみに既に殿堂入りしているミーシャが不動の第1位で、2位と3位は同率でレティとアーリーだ。

「ぶっ! ぶぁわははは!
 何だこいつ! グライブ! こいつおもしろいなっ!」

 一頻り人の事を指差して笑っていたリュドだったが、少ししたら目じりに涙を浮かべて俺へと手を差し出してきた。

「リュド・シャールだ。よろしくな」

 俺はタニアを撫でるのをやめると、差し出されたリュドの手を取った。

「知ってる。
 ロディフィス・マクガレオスだ。こちらこそよろしく」
「ああ、俺も知ってるぜリトルオルガ」

 握った手にギュッと力を入れて、リュドはニヤリと笑って見せた。
 こいつ……どうやら俺を普通に名前で呼ぶつもりはないらしい。
 まぁ、別にいいんだけどな。
 そんなやり取りをしていたら、いつの間にか俺たちの周りに人垣が出来ていた。
 グライブの……というか、これから俺たちが世話になるクラスの連中だ。
 俺は近づいて来たガキどもに適当に自己紹介と挨拶をして回った。
 中には、あからさまに俺に怯えている女の子がいたが、俺が“俺は紳士だから、絶対に女の子を叩いたりしないから安心して欲しい”と、余所行き用のロディフィス・スマイルで全力を持って安全性をアピールするとぎこちなくではあったが、握手だけはしてくれた。
 一体俺について何を聞かされたら、あんなに警戒されるのだろうか……謎だ。
 そして、ミーシャとタリアに何故か睨まれた。
 特に何かまずい事をしたとは思わないが、何が気に障ったのだろうか……謎だ。
 一通りの挨拶回りが終わった頃、俺たちの様子を見ていたシスター・エリーが手を叩き、皆に今日の授業の開始を告げたのだった。
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