言うな、残すな、広めるな。

 明らかになったのは、警察の徹底した秘密主義である。

 捜査対象者の車などにGPS(全地球測位システム)端末をとりつけて居場所を監視する「GPS捜査」について、警察庁の運用マニュアルの一部がわかった。窃盗事件を審理している東京地裁が開示を命じた。

 GPSを使ったことを、取り調べ時に容疑者に明かさない、捜査書類に書かない、報道機関に発表しないなど、「保秘の徹底」を説くもので、06年に全国の警察に通達していた。

 文書の存在は知られていたが、警察庁は多くを黒塗りにしてきた。例えばGPS捜査の対象として七つの犯罪をあげていることがうかがえるが、それが何かは今も公になっていない。

 適正な手続きに基づかなければ刑罰を科すことはできない。刑事司法の大原則だ。しかしこのマニュアルの下では、GPS捜査が行われたことを外部の者は知りえず、捜査の行きすぎの有無を弁護人や裁判所がチェックする機会も奪われる。

 実際、ある窃盗事件の取り調べでは、捜査員がマニュアルに従い、容疑者に「GPSは使っていない」とうその説明をしていた。東京地裁の事件では、被告が途中で気づいて取り外したGPS端末を捜査員が押収しながら、経緯がばれないように目録に「白色塊」と記載した。

 いずれも警察への信頼を失わせる行いである。

 容疑者が、いつ、どう動いたか、情報把握が捜査に役立つことは大いにあるだろう。だが、期間の制約がないまま常時監視下におき、捜査終了後もその事実を当人に知らせず、移動の記録がどう扱われるかもはっきりしない。そんな運用は人権侵害のおそれが極めて高い。

 GPS捜査が合法か違法かをめぐっては司法の評価も割れており、近く最高裁が統一判断を示す。その結論も踏まえ、警察の恣意(しい)を許さぬどんな措置をとるべきか、議論を深める必要がある。技術の進歩にルールが追いつかず、実務が先走る状況に歯止めをかけねばならない。

 警察当局も最近になって姿勢を一部見直し、裁判所の令状をとったうえでGPS捜査を行う例が見られるようになった。捜査機関任せにせず、こうした第三者の目を入れる方向でチェック体制の確立を急ぐべきだ。

 その際は、通達やガイドラインといったあいまいな取りきめではなく、法律で定めるのが適切だ。監視期間や事後の通知などの手続きを明確にし、人権保障と捜査の両立を図りたい。