「ランダム・ウォーク理論」は正しいか、正しくないかという議論に欠けているもの
- 2017/02/06
- 00:04
昔からあるインデックス投資家 vs アクティブ投資家 の論点のひとつとして、「ランダム・ウォーク理論」は正しいか、正しくないか、というものがあります。
今日はこれについて、個人的に思っていることを書いてみます。
インデックス投資のバイブル「ウォール街のランダム・ウォーカー」の説明
まず、なにはともあれ、「ランダム・ウォーク」の定義を確認しておきましょう。
ランダム・ウォークというのは、「物事の過去の動きからは、将来の動きや方向性を予測することは不可能である」ということを意味する言葉である。これを株式市場に当てはめると、株価が短期的にどの方向に変化するかを予測するのは、難しいということだ。言い換えれば、専門の投資顧問サービスや証券アナリストの収益予想、複雑なチャートのパターン分析などを用いても、無駄だということである。
ウォール街ではランダム・ウォークという言葉は忌み嫌われてきた。彼らに言わせると、ランダム・ウォークというのは学者連中が自分たちの金儲けのために考え出した屁理屈で、投資のプロを卑しめるために投げかけられた言葉である。というのも、ランダム・ウォークを突きつめていけば、目隠しをしたサルに新聞の相場欄めがけてダーツを投げさせ、それで選んだ銘柄でポートフォリオを組んでも、専門家が注意深く選んだポートフォリオとさほど変わらぬ運用成果を上げられることを意味するからだ。
(出所: ウォール街のランダム・ウォーカー〈原著第11版〉 ―株式投資の不滅の真理)
上記の「ウォール街のランダム・ウォーカー」(バートン・マルキール著)に書かれている「物事の過去の動きからは、将来の動きや方向性を予測することは不可能である」という一般的な意味と、「株価が短期的にどの方向に変化するかを予測するのは、難しいということ」という株式市場に当てはめた場合の説明が、わかりやすいと思います。
投資のプロ(アクティブ投資家)たちからすこぶる評判が悪い
その一方で、「ランダム・ウォーク」という言葉は、投資のプロ(アクティブ投資家)たちからすこぶる評判が悪いことも引用文のとおりです。
「ウォール街のランダム・ウォーカー」という本の名前は非常に有名ですが、改訂を重ねるたびに厚くなり、最新の原著第11版では500ページを超える大作になっていることもあり、プロを含むアクティブ投資家の方でも、「本当は一度もちゃんと読んでないんじゃないの?」と疑われるようなレベルで、「ランダム・ウォーク」という言葉に脊髄反射的な拒絶反応を示す人たちがいるように思います。
私のブログ名も「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー」とランダム・ウォークの名前を冠しているので、なかには記事の内容などほとんど読むことなく、「これは思考停止のアホブログだ」と決めつけているのだろうなと思われる人たちもいます。
しかし、現在の日本のインデックス投資家たちを見ていても、厳密なランダム・ウォーク理論を額面どおりに100%信じている人は、じつは少数派なのではないかという印象を私は持っています。
ちゃんと読めばわかるランダム・ウォーク理論の三つの段階
「ウォール街のランダム・ウォーカー」をちゃんと読んだことがある方ならわかると思いますが、ランダム・ウォーク理論は、三つの段階、すなわち「ウィーク型」「セミストロング型」「ストロング型」の三つに分類されています。
「ウィーク型」が成立するなら、以下のとおりとなります。
過去の株価変動の記録を分析しても、有用な情報は得られない。したがって、これに基づいて投資しても、バイ・アンド・ホールド戦略を継続的に上回るパフォーマンスを上げることはできない。
(出所: ウォール街のランダム・ウォーカー〈原著第11版〉 ―株式投資の不滅の真理)
つまり、テクニカル分析(チャート分析)は意味がないというだけの主張です。
「セミストロング型」が成立するなら、以下のとおりとなります。
市場でつけられている株価には、貸借対照表や損益計算書、あるいは配当公約などに関するあらゆる情報は、公表されている限りすべて適切に織り込まれている。したがって、プロがこれらのデータをもとに分析したところで何の役にも立たないというわけだ。
(出所: ウォール街のランダム・ウォーカー〈原著第11版〉 ―株式投資の不滅の真理)
つまり、ファンダメンタル分析も意味がないという主張です。
うーむ。たしかに、多くの市場参加者がファンダメンタル分析を基本的共通ツールとして使って株式を売買しているのは正しいものの、その分析方法は諸派あり、株価の評価には多様性があるように私は思うのですが。
さらに、「ストロング型」が成立するなら、以下のとおりとなります。
公表、未公表を問わず、いかなる情報を用いても、他人より優れたパフォーマンスは得られないということである。すでに公表されているニュースのみならず、今のところはまだ外部に伝わっていない情報までも、株価はすでに織り込み済みと言うのである。
(出所: ウォール街のランダム・ウォーカー〈原著第11版〉 ―株式投資の不滅の真理)
つまり、インサイダー情報でさえ投資家の役には立たないという主張です。
これが本当のサル・ダーツ理論であり、さすがにそれを額面どおりに100%信じている人は少ないと思われます。
三つの段階をごっちゃにしない
「ランダム・ウォーク理論」は正しいか、正しくないかという議論において、この三つの段階がごっちゃにされたまま、投資のプロ(アクティブ投資家)とインデックス投資家がそれぞれ、言い合っている状況はないでしょうか。
投資のプロ(アクティブ投資家)が批判するランダム・ウォーク理論は、暗に「ストロング型」を念頭に置いて、「非現実的だ」と反論しているように私には見えます。そりゃそうでしょう。もし本当にインサイダー情報ですら投資家の役に立たないのであれば、インサイダー取引を禁止する法律なんかできないと思います。
一方、実際にインデックス投資を実践しているインデックス投資家たちは、せいぜい「ウィーク型」(チャート分析は信用しない)程度のランダム・ウォーク理論しか念頭に置いておらず、単に、低コストでカバレッジの広い投資ができればいいと考えていることが多いように私には見えます。
ランダム・ウォーク理論を忌み嫌う投資のプロ(アクティブ投資家)たちも、ランダム・ウォーク理論の「ウィーク型」(チャート分析は役に立たない)については同意する人はけっこういると思います。
「イチかゼロか思考」でない現実的なレベル感が大切
「ウォール街のランダム・ウォーカー」でもダイレクトに明記こそされていませんが、現実は、「ウィーク型」と「セミストロング型」の中間あたりにあると言っているように私には読めます。
投資に限らず、何事も「レベル感」が大切です。ある主張について評価する時に、いわゆる「イチかゼロか思考」で、極論だけをあげつらっても、あまり有意義ではありません。
ランダム・ウォーク理論についても、現実的な「レベル感」をふまえて、資産運用に活用していきたいと思います。
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