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日本経済はなぜ最高の時代を迎えるのか?
【第4回】 2017年2月6日
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村上尚己

トランプ「円安批判」に戦慄する
日本人の「歴史的トラウマ」とは?
「円高シンドローム患者」の過剰反応に踊らされてはならない

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そう、実際には、日本側も円高を容認してきたからこそ、当時1ドル80円までの「行き過ぎた円高」が進んでいたのだ。「米国に通貨高を無理強いされた被害者」という日本像は、あまりに現実とかけ離れている。

当時、日本の中央銀行である日銀も、通貨高・低インフレ率(≒デフレ)を許容する保守的な政策をとっていたからだ。もちろん、当時の日本では、中央銀行に不可欠な独立性が、現在ほど明確に保障されておらず、金融政策の判断にも政治家たちの意向が影響していた。それを考えると、日銀だけを批判するのはフェアではないかもしれない。ただ、そうだとしても、日本側に円高・デフレをよしとする判断があったことはたしかであり、真相は「日米の共犯」だったと言うべきだろう。

当時とはかなり状況が異なる

振り返って、いまの日銀はどうだろうか?金融政策の判断は、政府からの独立性を保障されている。しかも、黒田東彦総裁や岩田規久男副総裁が任命された2013年以降、日本銀行はデフレを許容しない標準的な中央銀行に生まれ変わっている。仮に、米国の政治体制が変わっても、デフレ脱却を目指す日銀は行き過ぎた円高を許容しないだろう。米大統領選前やトランプ当選直後にドル安・円高を予想した為替アナリストたちは、この点をあまりに軽視していたと言わざるを得ない。

トランプ政権が通商政策を切り替え、1990年代までのような露骨な通貨安政策に打って出るというシナリオはあり得なくはない。そうなれば、私のシナリオにもある程度の修正が必要になるだろうが、その可能性は低いだろう。それどころか私は、トランプ氏が保護主義的な政策を強調していたのは、大統領選を勝ち抜くための戦略に過ぎなかったのではないかとすら考えている。

いずれにしろ、この点での懸念を完全に払拭し切れないことは事実だが、米国側の経済政策にも微妙な変化が生まれていることもたしかだ。1990年代半ば以降、米国の政府や財務省は、特定の通貨水準を政策目標にすることはなくなり、標準的な経済理論の枠組みを重視しながら、金融政策に見合った通貨変動については許容する態度をとるようになっているからである。これはつまり、FRBが引き締め的な金融政策をとっている際には、自国通貨高が生じるのを容認することを意味する。

今後、FRBの利上げとともにドル高が進み、日銀の金融緩和によって円安が進む。つまり両者はドル高・円安の現状を互いに歓迎しているのだ。だとすれば、いまさら「円高シンドローム」の悪夢に怯える必要など、どこにあるのだろうか?

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村上尚己(むらかみ・なおき)

アライアンス・バーンスタイン株式会社 マーケット・ストラテジスト
1971年生まれ、仙台市で育つ。1994年、東京大学経済学部を卒業後、第一生命保険に入社。その後、日本経済研究センターに出向し、エコノミストとしてのキャリアを歩みはじめる。
第一生命経済研究所、BNPパリバ証券を経て、2003年よりゴールドマン・サックス証券シニア・エコノミスト。2008年よりマネックス証券チーフ・エコノミストとして活躍したのち、2014年より現職。独自の計量モデルを駆使した経済予測分析に基づき、投資家の視点で財政金融政策・金融市場の分析を行っている。
著書に『日本人はなぜ貧乏になったか?』(KADOKAWA)、『「円安大転換」後の日本経済』(光文社新書)などがあるほか、共著に『アベノミクスは進化する―金融岩石理論を問う』(原田泰・片岡剛士・吉松崇[編著]、中央経済社)がある。また、東洋経済オンラインにて「インフレが日本を救う」を連載中。


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