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日本経済はなぜ最高の時代を迎えるのか?
【第4回】 2017年2月6日
著者・コラム紹介バックナンバー
村上尚己

トランプ「円安批判」に戦慄する
日本人の「歴史的トラウマ」とは?
「円高シンドローム患者」の過剰反応に踊らされてはならない

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トランプの保護主義が
「患者たち」を刺激

このときの記憶や経験則にとらわれているアナリストや投資家は、意外と少なくない。「米国政府がいつまでも円安・ドル高を許してくれるはずがない。彼らの意向が少しでも変われば、急速に円高・ドル安が進むのではないか」といった恐れが、彼らの脳裏にはたえずちらついているのである。

しかも、トランプ氏は選挙キャンペーンのなかでも、保護主義的な通商政策をかなり明確に打ち出していた。だとすれば、トランプ当選のニュースが円高シンドローム患者たちのトラウマを激しく刺激し、円高への恐れを想起させたというのは、いかにもありそうな話ではないだろうか。

実際、トランプ相場がはじまった2016年11月になっても、とある為替アナリストは「米国政府が通貨政策で自国の利益を優先する場合、残念ながら為替レートはほぼ米国側の思惑どおりドル安に向かうだろう」といったコメントを発表していた。これなども円高シンドロームに侵された思考の典型であろう。

以上の分析は、私の推察によるところが大きいのは認めざるを得ない。しかし、日本の優秀な為替アナリストたちが、あのときに揃いも揃って、とんでもない予想を打ち出した理由を説明しようとすれば、こうした心理的なバイアスを想定せざるを得ないのではないか。少なくとも私は、そう考えないと彼らの言動をとても理解できそうにない。

「強いられた円高」というフィクション

一方、この円高シンドロームそれ自体は「時代遅れの産物」である。なぜそう言えるのか、説明しよう。

まず、前回の連載で解説したマネーの基本原則、すなわち、「通貨の方向性は両国の金融政策に左右される」というルールを思い出してほしい。これを踏まえると、1990年代に日本で円高が進んでいた要因は、本当に通商問題を懸念する米国の意向だけだったのかという疑問が湧いてこないだろうか?

※(参考)第3回
「トランプ円高論」はマネーの基本をわかっていない!!

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村上尚己(むらかみ・なおき)

アライアンス・バーンスタイン株式会社 マーケット・ストラテジスト
1971年生まれ、仙台市で育つ。1994年、東京大学経済学部を卒業後、第一生命保険に入社。その後、日本経済研究センターに出向し、エコノミストとしてのキャリアを歩みはじめる。
第一生命経済研究所、BNPパリバ証券を経て、2003年よりゴールドマン・サックス証券シニア・エコノミスト。2008年よりマネックス証券チーフ・エコノミストとして活躍したのち、2014年より現職。独自の計量モデルを駆使した経済予測分析に基づき、投資家の視点で財政金融政策・金融市場の分析を行っている。
著書に『日本人はなぜ貧乏になったか?』(KADOKAWA)、『「円安大転換」後の日本経済』(光文社新書)などがあるほか、共著に『アベノミクスは進化する―金融岩石理論を問う』(原田泰・片岡剛士・吉松崇[編著]、中央経済社)がある。また、東洋経済オンラインにて「インフレが日本を救う」を連載中。


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