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【私説・論説室から】

あの時、知っていたら

 成人式を迎えたばかりの彼女は、二年前に退所した東京都内の児童養護施設に月に一度は顔を出す。「後輩たちの進路の選択肢を少しでも増やしたい」との思いから、支援団体の情報などを伝えるためだ。

 母親の再婚相手による虐待が激しくなったのは、六歳下の弟が生まれてからだ。ささいなことで殴る蹴る。中三の冬、携帯電話を投げ付けられ、額に大けがをした。翌朝、絆創膏(ばんそうこう)を貼っただけで登校する。学校の先生が見つけ児童相談所に通報し、施設に入った。

 高校卒業後はアウトドア関連の専門学校に行きたいと思っていたが、職員から「一人暮らしをしながらアルバイトをして、勉強するのは大変だ」と反対された。就職した映像編集会社はひどいブラック企業だった。連日、会社で寝泊まりしなければならないほどの長時間労働に残業代は支払われない。「死にたい」とまで思うようになり、一年で辞めた。

 今はアルバイトを掛け持ちしながら、支援団体の集まりに参加する。そこで奨学金や給付金制度があることを知った。「高校生の時に知っていれば、進学できたかもしれない」と悔やむ。施設職員も日々の仕事に追われ、知識がなかったのだろうと振り返る。

 だから、彼女は施設にいる子どもたちのための相談・支援先を一覧にしたガイドブック作りに取り組んでいる。「道はいっぱいあることを知ってほしい」からだ。(上坂修子)

 

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