【ニューヨーク=平野麻理子】米司法省は5日、イスラム圏7カ国からの入国を禁止する大統領令の一時差し止めを命じた西部ワシントン州シアトル連邦地裁の判断を不服として、即時取り消しを求めて高等裁判所にあたる連邦控訴裁判所に上訴した。控訴裁は5日朝までにこの訴えを却下した。地裁が判断した入国禁止の大統領令の差し止め状態が継続し、7カ国からの入国は可能になっているが、混乱は長引きそうだ。
控訴裁は原告であるワシントン州などに対し、上訴への反論を5日中に提出するよう求め、上訴した政権側にこの反論に対する答弁資料を6日午後までに作成し、提出するよう指示した。控訴裁が次の判断を下すまでは、シアトル連邦地裁の判断が有効となる。
問題となっているのは、トランプ氏が1月27日に署名した大統領令。テロ対策の観点から、イランやイラクなどイスラム圏7カ国からの入国を90日間禁じたほか、難民受け入れを120日間停止することなどを命じた。排外的な内容に対して、署名直後から内外から批判が巻き起こっていた。
この大統領令の一時差し止めを命じたシアトル連邦地裁の決定を受け、国務省は暫定的に無効にしていた約6万人の入国査証(ビザ)を有効にすると発表した。これにより、7カ国の出身者は再び米国に入国できるようになった。入国管理を担当する国土安全保障省も7カ国の出身者に対し、大統領令が出される前の基準に基づいて入管審査を実施する方針を明らかにした。
航空会社も入国が禁止されていた市民の搭乗を再開した。米国内の空港では4日、大統領令を巡るデモ活動が企画されたが、入管を巡るトラブルは伝わっていない。
トランプ大統領は4日、週末休暇を過ごしているフロリダ州パームビーチで、記者団に対し「国の安全のために勝利する」と語り、徹底抗戦の構えを見せた。「米国第一」をスローガンに就任以来大統領令を連発し、実行力をアピールしてきたトランプ大統領にとって、今回の差し止め命令を巡る法廷闘争は大きな試練になりそうだ。
大統領の権限が大きい米国の移民法では、大統領が米国の利益に有害と判断すれば、外国人の入国を必要な期間停止することが認められている。東部マサチューセッツ州ボストンの連邦地裁は大統領令を支持する判断を示すなど、司法判断はすでに割れている。ワシントン州のファーガソン司法長官は最高裁まで戦う意向を示しており、混乱の長期化は避けられない状況だ。