大阪市浪速区の個室ビデオ店で8年前、客の16人が死亡し、4人が重軽傷を負った火災で、殺人や現住建造物等放火などの罪で死刑判決が確定した小川和弘死刑囚(55)が、裁判をやり直す再審を請求していることが分かった。弁護団は、出火元とされた場所とは異なる部屋が何らかの原因で先に燃え始めた可能性がある、との新証拠を提出。再審の可否を検討する審理は、大阪高裁で行われている。
「先に別室出火」大阪高裁で審理中
関係者によると、弁護団は2014年5月、大阪地裁に再審請求。地裁が今年3月に棄却したため、弁護団は高裁に即時抗告した。
火災は08年10月1日未明、浪速区難波中3の「キャッツなんば店」で発生。店中央の試写室(18号室)を利用していた小川死刑囚はライターで自室に放火し、男性客16人を一酸化炭素中毒死させるなどしたとして起訴された。
小川死刑囚は逮捕直後、「人生が嫌になり、持参したキャリーバッグに火を付けた」と自白したとされたが、捜査段階ですぐに否認に転じた。当時の弁護側は公判で、18号室から北東に数メートル離れ、焼損が激しかった9号室が火元と訴えた。
09年12月の1審・大阪地裁判決は、大阪府警による出火原因の分析や店員証言の信用性を認め、18号室を出火元と断定。9号室には開いたドアから炎が流れ込んだとした。判決は最高裁で確定した。
弁護団は、個室ビデオ店の20分の1の模型を用いた燃焼実験の鑑定結果などを昨年10月に新証拠として提出している。
実験は火災の専門家の大学教授に依頼。(1)18号室(2)9号室(3)両室--を出火元と想定し、炎の広がり方や焼損状況を比較する実験を行った。その結果、(3)の場合で実際の火災現場に酷似する痕跡が残った。鑑定書は「最初に9号室から何らかの原因で出火した」と推定し、18号室の出火原因について、「テレビなどの発熱で発火した可能性がある」と結論付けた。
弁護団は、府警の取り調べに自白の誘導があったとも訴える。
一方、再審請求を退けた大阪地裁決定は「2カ所からの出火は経験則上も大きな疑問を抱かざるを得ない」とし、「鑑定書は府警の分析を覆す根拠とならない」と指摘した。
弁護団は取材に「確定判決の認定に大きな疑問が生じており、再審の扉が開かれることを願う」とコメントした。【向畑泰司】