マティス米国防長官が韓国に続いて日本を訪れ、安倍首相や稲田防衛相らと会談した。

 トランプ大統領は選挙中、同盟軽視とも受け取れる発言を重ねていた。マティス氏が初の訪問先に日韓両国を選んだのは、東アジアへの米国の関与を確約し、同盟国の不安をぬぐう狙いがあったとみられる。

 中国の東シナ海や南シナ海での海洋進出について懸念を共有し、尖閣諸島は「日本の施政下にあり、日米安保条約第5条の適用範囲だ」と明言。在日米軍駐留経費の日本側の負担増には触れず、日米の経費分担は「見習うべきお手本」と述べた。

 さらにマティス氏は記者会見で「日本のような長年の同盟国が最優先だ」とも語った。

 従来の立場は基本的に継続する――。それが今回の訪日のメッセージだったのだろう。

 日本政府としてはひと安心かもしれないが、これでトランプ政権への不安が払拭(ふっしょく)されたかと言えば疑問が残る。問題はトランプ氏自身にあるからだ。

 大統領と閣僚の発言の食い違いが目立つ。マティス氏の姿勢が政権全体で共有されているかどうかも分からない。トランプ氏が通商と安全保障をからめる「ディール(取引)外交」に走り、政権の方針が大きく変わる可能性も否定できない。

 国際社会にとって最大の懸念は、米国と中国との関係の行方が不透明なことだ。

 トランプ氏は昨年12月、台湾の蔡英文(ツァイインウェン)総統との電話会談に続き、中国と台湾の「一つの中国」の原則を疑問視する発言にまで踏み込んだ。

 米中間には潜在的な対立関係があるが、貿易や投資では強い補完関係にある。慎重に行動し安定を図るのが、これまでの対中外交の作法だ。トランプ氏にはそうした国際社会の現実への理解が欠けている。

 大統領上級顧問のバノン氏は昨春のラジオ番組で、南シナ海で5年から10年以内に米中戦争が起きる可能性を指摘した。そのバノン氏は、米国の安全保障戦略を練る国家安全保障会議(NSC)のメンバーだ。

 米中関係の行方は、アジア太平洋地域の、ひいては世界の平和と安定を左右する。

 日米関係を地域の確かな基盤とするためにも、10日の日米首脳会談で、トランプ氏が中国にどう向き合おうとしているのかを首相は問うべきだ。

 国際秩序を保つ努力を続けることが、米国の利益にもなる。そのことをアジアや欧州の米国の同盟国などとともに、トランプ氏に説かねばならない。