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2013-11-11 生活習慣病の自己責任論について
■[医学]生活習慣病の自己責任論について

JBpressの医療関係の記事には問題が多い。今回は人工透析の「自己責任論」についての記事が載った。
糖尿病の合併症の一つが糖尿病性腎症であり、進行すると人工透析が必要になる。現在の日本における透析導入原因の疾患の第一位は糖尿病性腎症である。糖尿病が食事や運動といった生活習慣と深く関係しており、治療に患者の自己管理が重要であるのは事実である。しかしながら、以下に引用する「節制していれば糖尿病にならないし、人工透析だって必要がない。本人の心がけの問題である」という川嶋朗医師の主張は医学的には間違っている。聞き手が川嶋諭氏(JBpress編集長)で、答えているのが川嶋朗医師(東京女子医大准教授)である。
■健康保険に逆マイレージ制を導入しよう 不摂生が原因の人工透析患者に身障者認定は必要か:JBpress(日本ビジネスプレス)
答 (中略)しかし、糖尿病は生活習慣病ですから、きちんと体をコントロールしていれば人工透析に頼って生きていかなければならないような状況には陥りません。これは本人の心がけの問題です。
問 確かに、自分の体を鍛えて健康を維持している人にすれば不公平感が募りますよね。言葉は悪いけれど「泥棒」と言いたくなる。
答 本当に。日本の場合は糖尿病でも2型の人が圧倒的に多いから、つまり先天的なものではなくて生活習慣によって糖尿病になる人が多いから、自業自得な人が多いわけです。節制していれば糖尿病にならないし、人工透析だって必要がない。
患者さんは多様である。治療に対する反応もさまざまである。生活習慣改善のみで十分な糖尿病コントロールがつく患者さんもいれば、節制しても薬を使ってもコントロール困難な患者さんもいる。どれだけ食事や運動を頑張っても血糖値が安定しない症例はときに経験するが、そういう患者さんは努力が足りないであろうか。また、生活習慣との関連が強いとされる2型糖尿病にも遺伝的要因は関与している。これを「本人の心がけの問題」と言い切るのは乱暴に過ぎる。
もちろん、不節制が原因で糖尿病のコントロールの悪い患者さんがいるのは確かである。自己管理不足で透析に至る患者さんもいるであろう。それでは不摂生が原因で透析が必要になった患者は「自業自得」であり、身障者認定は不要なのか?
答 (中略)でも、もっと問題があるんですよ。人工透析には多額の費用がかかります。ざっとどうでしょう。1人が1年間に500万円くらいかかる。
問 えぇっ。そんなにかかるんですか。
答 ええ。だけど自己負担はゼロ。国が全額補助してくれるのです。簡単に計算してみましょう。日本には人工透析をせざるを得ない患者さんが30万人いて、1人500万円かかる。費用総額は1兆5000億円にも達するんですよ。
人工透析を受けなければ生きていけない患者さんは、1級身体障害者の指定を受けることになります。つまり、自己負担がゼロで透析費用は全部国が出してくれる。
国の負担はそれだけにとどまりません。1兆5000億円というのは医療費だけです。1級障害者になると、例えば東京都営の交通機関は無料になるし、飛行機代は半分、高速道路料金も大幅な割引になります。
答 さらには障害者年金も支給される。これに国民年金とか厚生年金がプラスされれば、年金だけで生活が十分に成り立つのです。
確かに病気になったのは気の毒ですが、暴飲暴食などで糖尿病になり人工透析が必要になる人の場合には、果たしてこれでいいのかなと思いますよ。だって、自分の不摂生で招いたことでしょう。それなのに国が手厚く保護するというのはどうなんでしょう。
川嶋朗医師は、本人の不節制が原因の人工透析に対する身障者認定を含めた手厚い保護に対して懐疑的な立場であり、川嶋諭編集長も同調している。しかし、私は以下に述べる理由によって、川嶋朗医師の立場に反対する。
まず、現実的な問題として、透析に至った原因が本人の不節制によるものかどうか、判断が困難である。2型糖尿病が原因の末期腎不全は一律に手厚い保護は不要とするなら、食事療法および運動療法を頑張ったにも関わらず透析に至った2型糖尿病の患者さんが不利益を被る。あるいは個々の症例について、「あなたは自己管理を頑張ったから国による保護に値します」「あなたの腎不全は自分の不摂生で招いたことだから保護は必要ありません」などと誰かが判断するとでもいうのか。糖尿病の診療を行っていた主治医が書類を書くとして、「保護は必要なし」などという書類を書く医師に巡りあった患者は災難である。
そもそも透析の原因が本人の不節制によるものだとして、国による保護が不要であると言えるのか。糖尿病は「贅沢病」ではなく、むしろ低収入や低学歴といった低い社会経済学的立場がリスクになることが知られている。バランスのよい食事を摂り、適度な運動を行い、検診を受け、必要ならば定期的に通院できるような恵まれた人ばかりではない。多忙のため食事も不規則になりがちで、運動する暇もなく、そうそう簡単に仕事を休めず検診や受診を満足に受けられなかったせいで糖尿病が悪化し透析に至ったとしたら、それは自業自得なのか。
「自分の体を鍛えて健康を維持している人にすれば不公平感が募ります」という川嶋諭編集長の言葉に、健康な人の傲慢さを私は感じる。病気の人が、「少々暴飲暴食をしても病気にならない体」や「自分の体を鍛えて健康を維持できるだけの生活の余裕」に対して「不公平感が募る」と言うのならまだわかるのだが。
患者の動機付けを理由に、透析に対する保護に懐疑的な立場もあるかもしれない。しかし、透析に対する厚い保護をなくしたとして、患者さんが節制する動機付けになるだろうか。「透析になっても国による保護があるから節制しなくてもいいや。国による保護がないなら頑張って節制しよう」などと考える患者さんはほとんどいないと思う。不摂生の結果に対して「保護をなくす」といったペナルティを加えても透析は減らないだろう。また、健康保険に対する「逆マイレージ制」を提案するのに糖尿病性腎症からの人工透析を例に出すのは筋が悪すぎる。逆マイレージ制は症状のない初期の糖尿病の場合、病院を受診しないような動機付けが働くからだ*1。
総医療費削減の観点や他の疾患との比較から、透析に対する保護が手厚すぎるのではないか、という意見は議論に値するかもしれない。しかしながら、その問題は不摂生が透析の原因かどうかとは独立して議論されるべきである。「透析していないときは普通の生活が可能である例において、身障者の等級を見直すべきかどうか」という問題と「不摂生が原因の人工透析患者に身障者認定は必要か」という問題を混同してはならない。「生活保護をもらうための偽装離婚」や「普通に動けるのに生活保護」についても、「不摂生が原因の人工透析患者に身障者認定は必要か」という問題とは関係ない。
自己責任論を盾に医療費を削減しようとする動きには注意が必要である。糖尿病性腎症に限らず多くの病気について自己責任論をつけようと思えば可能である。たとえば、「検診をきちんと受けていれば早期発見・早期治療できたはずなのに、それを怠ったのは自業自得だ。きちんと検診を受けている人の不公平感が募る。進行大腸がんに対して高価な抗がん剤治療を保険診療で行うのは不公平である」など。保険診療が縮小されて得するのは誰なのか、よく考えるべきである。
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*1:健康保険に逆マイレージ制を導入すれば安易な外来受診を抑制できる一方で、受診が遅れて重症化しかえって医療費がかさむ症例も出るかもしれない。やってみないと総医療費が抑制できるかどうかわからない。逆マイレージ制があるからという理由で抑制される程度の外来受診が総医療費に与える影響は微々たるものであると個人的には考える
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相当病状が悪くなるまで自覚症状が乏しい上に、薬物療法や食事療法が大変なので、治療を途中で投げ出したくなる気持ちはわかるのですが・・・
特定検診も結構ですけれど、現に病気の方がきちんと通院を続けられるような指導を健康保険組合から会社や患者本人に対して積極的に行って欲しいものです。
>治らない患者がいたら、その費用を医者側が負担するようにすれば、解決。
それでは治らない病気の患者さんを診る医師がいなくなるのではないでしょうか。たとえば、2型糖尿病は治りません。コントロールができるだけです。
kiya2015さんへ
「トリアージという究極の自己責任論」という意味がわかりません。トリアージは自己責任論とは関係ありません。トリアージは医療資源が制限されている状態で医療を受ける優先順位を決めることですが、医学的な必要性に応じて決められるべきであり自己責任は問われません。
たとえばの話、歩行者の列に飲酒運転の車が突っ込んで運転者を含め多数の負傷者が出たとしましょう。最初に来た救急車に乗せるべき患者は、一刻でも早く医療をほどこす必要のある人です。たまたま運転者の人が(助かる見込みある負傷者の中で)もっとも重症であればまず運転者を救急車に乗せるべきです。運転者が怪我をしたのが自業自得で、歩行者はなんら責任なくただ巻き込まれただけであってもです。
生活習慣病と言う言葉が一人歩きしたためなんでしょうかね、こんな自己責任論。
個人的には生活習慣病とは生活習慣の見直しにより改善が期待できる疾患群、と理解しています。
殆どの病気がそうじゃん、と言う突っ込みはその通りですけど、この場合リクスが単一か少数にとどまるもの以外と考えればいいんじゃないかと。
感染症の様に主たるリスクである感染源を忌避すれば、その多くは回避が可能で、こう言うのは対策も立て易く、また自己責任で何とかできる部分も少なからずあるとも言えます。
一方いわゆる生活習慣病はリスクが多岐にわたり、そこに遺伝的素因や生活環境が加わるので、リスクの増減による効果がちょっとわかりにい。
何をやっても発症しない人もいれば、どんなに努力してもなっちゃう人もいる。
こう言うのを自己責任で、と言うのは危険と言うか、乱暴と言うか。
大体脂質異常症でも主要リスクであるLDL-C値等を厳しく守っても、動脈硬化性疾患が起ってしまい、residual riskをどうしましょうか?なんて議論が始まっている時に、自己責任論で、なんてのは周回遅れもいい所なんじゃないかな〜、と思う次第。
遺伝的背景が多様で、生活環境も多様で、生活歴も多様である人間を、自己責任で一刀両断にする方が、はるかに不平等を生みかねない、と言う管理人さんの考えはもっともだ、と思うんですけどね。
本筋ではないのでNATROMさんは突っ込みを入れなかったのだと思いますが、「透析は・・・自己負担はゼロ。国が全額補助してくれる」としれっと言ってるのがきになりました。
NATROMさんに対しては釈迦に説法になりますが・・。
「全額国が」ってのと「自己負担ゼロ」がまちがい。
透析医療費は健康保険から出てるのであってつまり、保険組合員の相互扶助でしょう。国庫負担はありますがその比率はいろいろで、ゼロ(地方自治体共済)〜17%(協会けんぽ)〜最大でも50%弱(国民健康保険)といったところのようです。
そして健保による透析の自己負担は原則月額1万円で収入が多いと2万円。ここに地方自治体ごとの重度心身障害者医療費助成制度の年収制限が組み合わさるので、結果として自己負担月額は0から2万円までばらつくことになります。
自己負担額がゼロになるのは住民税が免除されるような低収入世帯のみと言う県もあります。
>単純に、患者側のコントロールによる診療は、全部自由診療にするしかないでしょうね。
これが明確にできる疾病って,現代の医学レベルではどれほどあるのでしょうか.またそのことを医療関係者以外の皆様は知らないのでしょうか.
私の領域で強いてあげれば……「異物」か.耳鼻咽喉科領域の異物は,成人の場合は多く(すべてではないが)が「自己責任」ですし,小児の場合も多くが「保護者の責任」ですね.
他科ではいかがですか?
法的には,医療は行為を約束する「委任契約」であって,成果を保証する「請負契約」だったと思います。弁護活動も同様で,敗訴でも弁護料金は取られますね。
成果を保証して欲しいのは人情だけど,医療は不確実。
「成果を保証する「請負契約」だったと思います。」
矢印「成果を保証する「請負契約」ではなかったと思います。」
浅学ながら擬似医学に関心があり、いつも興味深く拝読しております。
今回のお記事、身内に腎透析患者を持つ当方にはとりわけ考えさせられるものでした。
素人の身、意見は申しませんが先生のご見解に深謝する思いです。
正直、自己責任論者の方々に対しては
糖 尿 病 に な れ ば い い よ !
という不謹慎な感情が湧きあがるのを抑えきれません。
ちょうど21世紀になった2001年1月から人工透析をしております。
私自身は糖尿病からではなく慢性腎炎からですが、どこまでが自己責任かというと難しいですね。
子どもの時、学校の尿検査でタンパク尿が検出されて、詳しく調べてみたら既に治らない状態でした。その後は悪化を抑えるための治療をしていましたが、10代後半から20代前半辺りは自覚症状もないですし、まぁ病人としては無茶な事も結構しました。お酒飲んでいて終電逃して歩いて帰るとか…。
今思うと、それがなければ透析導入自体は避けられないにしても、もっと導入時期を遅らせる事はできたかと思います。そういう意味では自己責任ですよね。でも当時の主治医に、透析になるリスクをもっとしっかり説明してほしかったという思いもありますし…。
あと
>透析していないときは普通の生活が可能である
というのは少し違います。
血圧が安定しなかったり極度の貧血だったりで、私もよく立ち眩みを起こします。他の患者さんでは、合併症で手が震えたり動かなくなったりといったケースもあります。
それに週3回、通院時間も含めると5〜6時間が透析のために拘束されるというのは、就業する上ではかなりネックになります。
自己決定権を手放して人に責任を押し付けるとは、自らを奴隷の押し込める最悪な意見であることよなあ。