[PR]

 地震大国日本は、世界でまれに見る雪国でもある。全国の市町村の約3割は豪雪地帯の指定を受け、2千万人が暮らす。

 幸いにも、こうした地域では近年、大きな被害をともなう地震が真冬に起きたことはない。日本海中部地震は1983年5月、中越地震は2004年10月だった。しかし、それはただの偶然に過ぎない。

 災害は、季節や風の強さ、時間帯などが少し異なるだけで、まったく違う顔を見せる。

 東日本大震災では低体温症で30人を超す人が亡くなった。地震と津波が襲った翌朝、各地で気温は氷点下を記録した。

 厳冬期の寒冷地はさらに過酷な気象条件になり、被災者は命の危険にさらされる。

 たとえば札幌市は、早朝の地震で11万棟が全半壊し、死者は2千人と想定している。加えて、建物に閉じ込められた6千人が、2時間以内に救助がなければ凍死する。体育館などに11万人が身を寄せるが、停電のため暖房がきかない恐れが高い。

 「避難した後」に人々を待ち受ける事態を体験・検証するため、先月中旬、日本赤十字北海道看護大(北海道北見市)の体育館に防災の専門家や保健師ら約100人が泊まりこんだ。

 外気の最低気温は零下19・5度。天井が高いため、これだけの人数がいても館内は暖まらず、就寝時の室温は約1度だった。ダウンコートにマフラー、冬用の寝袋。それでも寒さで目が覚める。ふつうの備蓄毛布ではとても眠れないだろう。

 衛生管理の点から、避難所に土足で入るのは避けよと言われる。しかし靴下で体育館に立てば、あっという間に体温を奪われる。日ごろ「血栓を防ぐために水を飲んで」と説く参加者たちも、屋外の仮設トイレに行くつらさを考え、いつのまにか水分をひかえてしまった。

 暴風雪で道路がふさがれれば物資の補給も滞る。一晩ならともかく、高齢者や幼児が幾晩も過ごせるか。過ごしたとき、どんな健康状態になるか。

 寒冷地に特有のこうした課題への危機意識が自治体や住民にまだ乏しい、と同大の根本昌宏教授は警鐘を鳴らす。

 災厄が重なる事態を考えると気が沈む。だが「想定外」という言い訳はもはや通用しないことを、数々の失敗を通じて、私たちの社会は学んできた。

 完璧な準備は不可能だ。それでも、問題意識をもち、最悪のケースを頭に描きながら、対策の空白を少しでも埋めてゆく。そうした努力の積み重ねで、被害の広がりを抑えこみたい。

こんなニュースも