【ワシントン=平野麻理子】議会審議を経ない大統領令を連発するトランプ米政権に司法が「待った」をかけた。テロ対策を理由にイスラム圏7カ国出身者の入国を一時禁止する大統領令に対し、西部ワシントン州の連邦地裁は3日、入国制限の即時差し止めを命じる仮処分を下した。政権は異議を申し立てる方針だが、同様な訴訟は全米に広がっており、法廷闘争は長期化が必至。「米国第一」の政策の迅速な遂行を狙うトランプ政権に大きな打撃となりそうだ。
「もし国家が安全保障のために誰が出入国でき、誰ができないか決められないと、大変なことになる!」「この判事とやらの、法執行を国から奪う意見は、バカげていてそのうちひっくり返されるだろう!」。トランプ大統領は4日朝、ツイッターに次々と投稿し、ワシントン州連邦地裁の差し止め命令を非難した。
差し止め命令を受けて米入管当局は3日夜、入国禁止対象だった旅客の搭乗を認めるよう航空会社に通知。日本航空と全日本空輸は中東・アフリカ7カ国の旅客の米国便搭乗を原則として断るとしていた従来方針を撤回し、有効な査証(ビザ)があれば日本時間4日午後の便から搭乗を認めたことを明らかにした。
中東のカタール航空やエールフランスなども同様の対応を発表した。
米国務省も4日、7カ国出身者であっても有効なビザを持つ人は入国を認める方針を示した。米メディアが報じた。
同省によれば大統領令に伴い6万人弱のビザが無効となっていた。航空機搭乗を断られたり、米国内の空港で入国を拒まれた事例が相次いでいたが、こうした事態は改善に向かうとみられる。
ただ東部のマサチューセッツ州ボストンの連邦地裁は同じ3日、大統領令を支持する判断を示し司法判断は割れた。トランプ氏も強硬姿勢を崩しておらず、入国管理などの現場で混乱が続く恐れも否定できない。
問題の大統領令は1月27日に署名した。イランやイラクなど7カ国からの入国を90日間禁じ、難民受け入れも120日間停止した。排外的な内容に内外から批判が噴出。署名から3日後の先月30日、ワシントン州は中西部のミネソタ州と共同で、移民やその家族の権利を侵害する大統領令は違憲だと提訴した。
違憲審理は時間がかかるが、その間にも多くの対象者が影響を受ける。このため同州の連邦地裁は審理する間の暫定措置として大統領令の効力を一時差し止め、それを全米に適用すると命じた。
差し止め命令を受けてホワイトハウスは「国土を守り、米国人を守る権限と責任がある」との声明を出し、大統領令の正当性を強調した。当初は「理不尽な命令の執行停止を求める」としたが、約10分後に「理不尽な」という文言を削除するなど動揺もうかがわせた。
今後の焦点は法廷闘争に移る。ホワイトハウスによると差し止め命令の停止を求め司法省が高裁へ上訴する方針。命令が続くのか、停止されるのかが注目される一方、違憲審理は地裁で進む。
米国の連邦裁判所は日本と同じ三審制だ。最高裁まで争うことになれば、違憲・合憲どちらの判断が下るにせよ、数年かかる可能性が高い。ワシントン州のファーガソン司法長官は米テレビの取材に最高裁まで戦う準備があると明らかにした。
米ワシントン・ポスト紙は司法アナリストの話として「大統領は移民政策に関わる幅広い権限を持っており、大統領令を完全になかったことにするのは難しい」と伝えた。大統領の権限が大きい米国の移民法では、大統領が米国の利益に有害と判断すれば、外国人の入国を必要な期間停止することが認められている。