東京電力福島第1原発事故に伴う汚染土の再利用基準を決めた環境省の非公開会合で、再利用に対する原子力規制庁の具体的な懸念が示されながら、議事録に掲載されていないことが分かった。この会合の議事録を巡っては、環境省が再利用に向けて議論を誘導したと受け取れる発言が削除されていたことが明らかになっており、新たに重要部分の欠落が判明した。【日野行介】
非公開会合は放射線の専門家らを集めて昨年1~5月に開かれ、汚染土1キロ当たりの放射性セシウム濃度8000ベクレルを上限(基準)に汚染土を管理しながら公共工事に再利用する方針を6月に決めた。関連法は「放射線障害の防止に関する技術的基準を定めようとする時は放射線審議会に諮問しなければならない」と定めている。
公表された議事録には「審議会への諮問も考慮する必要がある。規制庁の事務方と相談したところ、どう管理していくかがポイントとの意見だった」とする環境省担当者の発言を掲載。審議会を所管する規制庁に諮問を打診したことが分かる。
しかし、関係者によると、会合の中で環境省の担当者が「規制庁は『どこで使われるか分かるのか』『普通のその辺の家の庭に使われるのではないか』ということを最も心配している」などと具体的に示された懸念に言及しながら、議事録には非掲載だった。
また、毎日新聞が入手した議事録の「素案」では、昨年2月の第4回会合で事務局から「議事録はおって各委員に確認依頼する。その後については来年度、規制庁への対応までサポートいただくことを考えている」との発言もあった。だが、公表された議事録では削除されていた。
規制庁の懸念に対し、環境省は十分な説明ができず、諮問には至っていない。ただ、両省庁によると、この段階での諮問の必要性についても協議したという。規制庁が原発事故後の2013年12月に作成し「審議会の所掌事務」などを取り決めた内規では、諮問を義務づけるのは「法令で定める基準」に絞り込んでいる。環境省の再利用基準は法令で定める以前の「基本的な考え方」との位置付けで、諮問が必要な段階にまでなっていないと確認し合ったという。
環境省は再利用に向けた実験を予定しており、規制庁は「実験がまとまった段階で改めて相談が来ると認識している」とした。
非公開会合は当初、存在自体が非公表だったが、情報公開請求が相次ぎ、環境省は昨年8月に議事録を公表。事務取り扱い上は「全部開示」とされたが、8000ベクレルを上限に再利用する方向に議論を誘導したと受け取れる環境省担当者の発言などが削除されていた。問題発覚後、山本公一環境相は議事録について「発言のポイントのみを記載した会議概要」と述べている。