米国のマティス新国防長官が来日し、安倍晋三首相との会談で、日米同盟の重要性を確認し、アジア太平洋地域を重視する姿勢を示した。
トランプ大統領は選挙中、日本や韓国に同盟国としての「応分の負担」を求め、応じなければ駐留米軍の撤退も辞さない構えを見せ、一時は核武装まで容認する考えを示したため、両国に米国の関与への懸念が広がっていた。マティス氏が、就任後初めての外国訪問先に韓国、続いて日本を選び、不安の払拭(ふっしょく)に努めたのは、適切な判断だ。
マティス氏は、米韓の国防相会談で、北朝鮮の核・弾道ミサイル開発について、同盟国を守るため、米国の「核の傘」を含む拡大抑止を維持することを確約した。
安倍首相との会談では、東シナ海・南シナ海の情勢について懸念を共有し、沖縄県の尖閣諸島が、米国の対日防衛義務を定めた日米安全保障条約5条の適用対象だと明言した。
アジア太平洋地域の安定の要となってきた米国が取引外交に走り、「応分の負担」を得られなければ地域への関与を減らすと脅すようでは、地域の安定は損なわれる。それは結果的に、アジア太平洋の成長を自らの成長に取り込もうとしてきた米国の国益にならないだろう。日本政府は、今後もこうした地域の現状を米側に粘り強く説明してほしい。
沖縄県の米軍普天間飛行場の移設問題では、首相とマティス氏は名護市辺野古への移設が「唯一の解決策」と確認し、沖縄の負担軽減に努めることで一致したという。
だが、トランプ氏のこれまでの発言からは、新政権が抜本的な負担軽減策を新たに取るとは考えにくい。名ばかりの負担軽減を掲げ、現行計画を強行すれば、日本政府と沖縄との分断はさらに深まり、日米安保体制の安定的な運用につながらない。
マティス氏の日韓訪問は一定の評価ができるが、それでもなお米国の関与に懸念は残る。
マティス氏は今回、在日米軍の駐留経費の日本側負担増について取り上げなかったが、新政権はいずれ「応分の負担」を求めてくるかもしれない。防衛費増額や自衛隊の役割拡大という要求も考えられる。米側から「外圧」をかけられるようにして、負担増に応じるべきではない。
トランプ氏はマティス氏を信頼しており、ある程度その判断を尊重すると見られる。だが、トランプ氏自身が経済と安全保障を絡めるような判断をする可能性も否定できない。
韓国では政情が不安定化し、日本の役割はますます重くなっている。10日の日米首脳会談が、アジア太平洋地域の安定と国際秩序の維持に資するものとなるよう期待する。