健康情報サイト「WELQ」などの一時閉鎖を契機に、ネットメディアへの不信が高まりつつある。どんな課題が残されているのか、どのような対策が考えられるのかを追った。
「えっ、私の写真がなぜこんなところに?」──。知人が知らせてきたページにアクセスした都内のサービス業A社を率いるアラフォー世代の女性社長aさんは、驚きのあまり声を失った。自分の顔写真が載っていたのは、有名タレントとウワサになったAV女優をまとめた「NAVERまとめ」の記事。そこに某有名俳優と付き合っていたAV女優として自分の写真が載っていたのだ。もちろんまったくのデタラメである。
健康情報サイト「WELQ」をはじめとするディー・エヌ・エー(DeNA)が運営していたキュレーションメディアは、記事内容の誤りや、他サイトの記事を著作権に抵触しないレベルまでリライトして組織的に量産する手法が問題視された。結局、全10メディアが一時閉鎖に追い込まれ、一件落着の感がある。だが、キュレーションメディアの闇はこんなレベルでは済まない。
話を続けよう。a社長がNAVERまとめで、なぜ“AV女優扱い”されるようなことが起きたのか。そのカラクリは至って単純だ。そのAV女優と同姓同名のスタッフがA社に在籍していて、彼女の名前が載っているA社Webサイトのページにa社長の写真がある。そのため、Google画像検索でそのAV女優名を検索すると、検索結果のサムネイル画像群にa社長の画像が表示されるのだ。まとめ記事の作者は、そのAV女優の顔もよく知らぬまま、適当にa社長の顔写真をピックアップしてまとめたと推測できる。全く迷惑な話である。
慌てたA社の広報スタッフは、早速NAVERまとめを運営するLINEに連絡を取り、写真の削除を要請した。ところが、LINEからの返答は驚くべき内容だった。曰く「サイトの特性上、投稿者本人しか内容の修正・削除ができない。投稿者様にはお伝えした」。つまり、連絡はしたが消すかどうかはまとめ作者本人次第ということになる。
これは当分消えない可能性があると覚悟したa社長は、苦慮の末、自身のFacebookで“AV女優人違い事件”に巻き込まれている旨、笑い話としてFacebook仲間に伝えた。過去にa社長に取材経験のある記者は、この投稿でトラブルを知った。
「こんな明らかな誤りでもLINEは削除に応じないのか?」。疑問に思った記者はLINE広報に経緯を問いただし、「自宅住所などが書き込まれてもLINEは何もできないのか」など削除基準について取材を申し込んだ。数時間後、a社長の写真はあっさりと削除された。LINE広報からは、「申告された内容を鑑み、利用規約違反として削除対応すべきものだった」との回答があった。
結局、ネット炎上関連の書籍を数冊出したような“うるさ型”の記者などが問題視しなければ、改めて精査せず、「本人からの申し出ではないから、まとめ作者に連絡のみ」という流れ作業で済ませてしまっていたと言える。泣き寝入りしている人が他にも多数いるのではないだろうか。
もう一つ、NAVERまとめにまつわるトラブルを挙げよう。2014年11月、消費税率10%への引き上げ先送りとアベノミクスへの信任を問うという名目で安倍晋三首相が衆院を解散した際、解散の大義を問うサイト「どうして解散するんですか?」が話題になった。解散を疑問に思った小学4年生が自分でサイトを作った、という触れ込みだったからだ。