安倍首相はトランプ米大統領に対し、経済分野でどんな提案をするつもりなのだろうか。

 日米首脳会談を前に、日本から示す経済協力案が取りざたされている。題して「日米成長雇用イニシアチブ」。トランプ氏が強くこだわるインフラ投資と雇用がキーワードである。

 両国が協力してさまざまなプロジェクトに取り組み、絆を強める。米国で4500億ドル(約51兆円)の市場と70万人の雇用を生む。そんな威勢のいい数字も原案に並んでいるようだ。

 トランプ氏は米国の貿易赤字を問題視し、中国などとともに日本を名指しで批判してきた。対米輸出が多い自動車業界をやり玉にあげ、為替相場に関しても円安を牽制(けんせい)し始めた。

 自動車産業は日本経済の大黒柱であり、日銀の金融緩和を受けた円安基調は経済全体を下支えしている。トランプ氏からの圧力で変調が生じれば、アベノミクスの先行きがおかしくなりかねない――。首相官邸の危機感は想像に難くない。

 首相は日米協力について「大きな枠組みの中で話したい」と繰り返している。個別の業界や政策への火の粉を振り払う策が「イニシアチブ」なのだろう。

 盛り込まれる事業は、JRがからんで構想や計画がある高速鉄道など、既存のプロジェクトも少なくないようだ。それらを政府系金融機関による低利融資で支えるという構図が透ける。

 何のことはない、国内でたびたび打ってきた経済対策の手法だ。手っ取り早くまとめ、規模は大きく見せたい。政府の関係者はそんな思いではないか。

 しかし、危うさは否めない。プロジェクトの主体が民間企業なら、採算が合わなければ政府が旗を振っても進まない。常識が通じないのがトランプ政権だけに、雇用などに関する数字が独り歩きし、それを口実に無理難題をふっかけられかねない。

 何より、首相の訪米時に協力案を持参しようとする姿勢が、「米国第一」を掲げて圧力をかけてくるトランプ政権を増長させ、国際協調をますます難しくしないか。

 国同士が深く結びついているのが経済の現状である。米国だけが目先の利を得ようと保護主義的な政策をとっても、効果は長続きしない。持続的な成長には協調が不可欠だ。首相はそうした現実と原則をトランプ氏に語らねばならない。

 まずは、自動車分野や為替に関するトランプ氏の誤解を解くことだ。首相も「反論すべきは反論する」と語っている。経済協力の話はそれからだ。