クローズアップ現代

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No.39282017年2月2日(木)放送
大麻汚染 新たな危機 移住者コミュニティーで何が

大麻汚染 新たな危機 移住者コミュニティーで何が

大麻汚染 拡大 浮かび上がる危険性

今、全国で摘発が相次ぐ大麻事件。

麻薬取締官
「厚生労働省の麻薬取締官。
大麻の件で強制捜査やから。」

大麻の所持だけでなく、自宅での栽培などで検挙された人数は、去年(2016年)1年間で2,700人。
前の年を500人余り、上回っています。
まん延する大麻。
最新の研究から、大麻が脳に与える影響が注目されています。

大阪大学大学院の木村文隆准教授。
神経回路のメカニズムを研究してきました。

去年、発表した論文です。
大麻の成分によって、脳の神経回路に深刻な破綻が起きる恐れがあると警告しています。

大阪大学大学院 木村文隆准教授
「大麻を摂取するということは非常に危険。
(神経)回路が正しくできないし、壊れてしまう可能性が非常に高い。
人が人らしい生活、人らしい行動が損なわれる可能性が考えられる。」

危険性が、より高い大麻の加工物も出回り始めています。
大麻の成分を抽出して作る、この薬物。
見た目から、「ワックス」と呼ばれています。
有害成分が従来の大麻に比べ、数倍から数十倍に濃縮されているため、人体への影響も深刻です。

大麻汚染 新たな危機 国内に供給源が

しかし、海外から密輸された大麻の押収量は、ピーク時に900キロ近くあったものが、一昨年(2015年)は30キロにまで減っています。
一体、大麻はどこから来ているのか。
取材を進めると、国内で栽培されたものが広く出回っている疑いが浮かび上がってきました。

大麻の密売ルートを知る人物です。

大麻の密売ルートを知る人物
「密輸はいま相当厳しくなっているし、インポート(海外から)のやつは、相当値段が上がっている。
税関のリスクとかに比べれば、国内で安く育てられるので、その方がリスクも少ない。」

去年、大量の大麻が押収された主な事件を見ると、地方での摘発が目立ちます。

厚生労働省 薬物取締調整官 河邉正和さん
「人里離れた山間部に行って、警察の捜査、捜査機関の捜査を逃れるために、そういった所で栽培してる事犯が最近増えている。
近い将来、大きな健康被害、二次的な事故が起こるのではと厚労省としても警戒を強めている。」

地方で深刻な広がりを見せている大麻事件。
長野県で起きた、過去最大規模の事件の舞台裏を取材しました。

厚生労働省・麻薬取締部の捜査員。
3か月にわたって捜査を続け、大麻の使用者の特定を進めてきました。

捜査員
「集落に大麻の乱用者が移住して、堂々と大麻を吸引している事件。
人目につきにくいのが大きな理由。」

山あいに点在する住宅に、一斉に捜索が入りました。
逮捕者は20人を超えました。
いずれも東京や神奈川など、都市部からの移住者たちでした。
押収された大麻は、およそ16キロ。
末端の密売価格にして、少なくとも6,000万円に上ると見られます。

大麻汚染 新たな危機 移住者コミュニティーで何が

リポート:上野大和(NHK長野)

逮捕された移住者たち。
地元からは歓迎される存在だったといいます。

以前、町が発行した広報誌です。
逮捕された移住者の1人が、地元の人と交流する様子が特集されていました。
雪かきやごみ集めなど、地元に貢献し、信頼を得ていました。

地元の自治会の役員を務める、北谷宣也さんです。
高齢者が多い、この地域では、若い移住者たちに将来を託したいという思いもあったといいます。

北谷宣也さん
「住んでいる人のほうが少なくて、猿や鹿のほうが多い。
次世代のこの村を支えてくれるホープとして、期待を持っていた。」

しかし移住者たちには、もう1つの顔がありました。
人里離れた山の中に張られたテント。
捜査当局によると、移住者たちはこうしたテントに集まって、大麻を使用していたということです。

大規模な音楽イベントも企画。
SNSを通じて、首都圏や東北などからも参加者が集まりました。
イベントでは大麻が使用され、譲り渡しも行われていたと捜査当局は見ています。
参加者の1人が取材に応じました。

イベントの参加者
「祭りというか交流の場。
それが目的。
実際、大麻好きな人がいたわけだから、そういうことがなかったとは言わない。」

事件後、保釈された移住者らに取材すると、人目につかない過疎地で大麻を栽培し、使用していたことを認めました。

“山に住もうという人自体がいない。”

“大麻は自給自足で賄っていた。”

“自分たちで使うだけならば誰にも迷惑をかけていない。”

移住者を迎え入れてきた自治会役員の北谷さんは、期待を裏切られたと感じています。

北谷宣也さん
「聞いたときにはパニックというか、脱力感というか、残念無念だね、本当に。」

厚生労働省 薬物取締調整官 河邉正和さん
「危険性を十分に認識せずに安易に大麻を栽培し、使用する者が非常に増えている。
大麻が全国的に乱用が拡大している現状を、我々は目の当たりにしている状況。
大麻に関しては毅然(きぜん)とした態度で対応して、撲滅していきたい。」

大麻汚染 再拡大 その背景は?

ゲスト 水谷修さん(花園大学客員教授)

ここ数年、大麻の検挙者というのが再び上昇してきている状況をどう見る?

水谷さん:なにせ小学生や中高生の逮捕まで出てきています。
この発端は、すべて2012年にあります。
2012年ごろから、外国から、いわゆる「合成麻薬」と呼んでいますが、当時は「脱法ドラッグ」と彼らは呼んでいた。

それがどんどん日本に大量に入ってきた。
それを乱用する人たちが、交通事故で女子高生をはねて死なせてしまったり、あるいは救急搬送されたり。
数十万人まで乱用が広まったと当時、見ていました。
これを何とか抑え込んで、2014年の11月に薬事法の改正で完全に抑え込んだんです。
我々は、勝ったなと思ったんですよ。
ところが、非常に依存性の強い薬物だったために、危険ドラッグが入ってこなかったら、ほかのものが必要になる。
その一部が、大麻へとどんどん流れてっている状況です。

地方での大麻の栽培はどれぐらい広がってきている?

古川記者:全体像は分かっていませんが、厚生労働省の麻薬取締部は、人目のつかない地方の過疎地などで栽培は広がっていると見て、そうした栽培拠点を重点的に摘発しています。
麻薬取締部による大麻の栽培の摘発は年間4、5件ほどで推移していますが、去年は24件に上りました。
大麻は覚醒剤などのほかの薬物と違って、一般の人でも栽培して増やしてしまうことが問題です。
覚醒剤は密輸がほとんどで、大麻は自分で作れてしまえますので、水際で防ぐことができないんです。
麻薬取締部は、件数は増えているものの、摘発できたのは氷山の一角だと見ています。

そして、最近のこの大麻の広がりの背景で軽視できないのが、こういった声が存在していることなんです。
視聴者の方より:「なぜ世界的に大麻が解禁の動きが出ているのに、日本では大麻について否定的なのでしょうか」
実際に海外では、どういった流れで、また、それがどういう理由で解禁の動きが出ている?

古川記者:厚生労働省が把握している範囲では、ヨーロッパのほかアメリカのほとんどの州でも、しこう品としての大麻は違法とされています。
全面的に大麻を合法化している国は、麻薬組織の資金源を断つとして、政府の管理下で栽培や売買を認めた、南米のウルグアイだけだということです。
WHO・世界保健機関も、大麻は精神毒性、依存性がある有害なものだと指摘しています。
麻薬に関する国際条約では、大麻はヘロインなどと並んで、最も厳しく規制されています。
日本では、大麻は記憶への影響や学習能力の低下などを引き起こすとしています。
そうしたところで、大麻取締法で規制されています。
アメリカでも去年、大麻の規制の緩和について検討されましたが、認めるべきではないとされて、医療目的での使用も含めて、連邦法では大麻の使用を認めていません。

最近のこういった声の高まりが大麻に対する若者の警戒感を薄めているのではと思うが、そのあたりは、どう危惧している?

水谷さん:ただ、勘違いしないでいただきたいのは、例えばオランダが使用について、使用者を逮捕しません。
ティーカフェといわれている所に行けば、買って吸うことは、外国人でもパスポートを見せて成人ならできる。
なぜ、それをオランダがせざるを得なかったのか。
ヨーロッパの主流ドラッグという薬物は、ヘロインなんです。
ヘロインの回し打ちによる感染症の広がりや、ヘロインは、ヨーロッパマフィアの資金源ですから、彼らを排除して、何とか国民を守るためには、ライトドラッグである大麻を認めざるを得なかった。
また、それはアメリカ、カナダが、いわゆる使用を容認しようという動きの中にも、むしろ医療用よりも、コカインとかヘロインというヘビードラッグを抑え、いわゆる暴力組織の資金源を断つという、どうしようもない状況がある。
日本はそんな状況にないわけですから。

水谷さんはこれまで、いろんな若者と接してこられているが、改めて大麻の危険性について、どう思う?

水谷さん:大麻に害はないと言う人はいますけれども、僕はこの25年で、724ケース扱ってきています。
ある大学生は、精神錯乱の状況になると暴れ始めて、精神病院の中に入れば、閉鎖室でティッシュペーパーを1日、空中に浮かそうとしています。
また元には戻るんですけれども、大麻がいわゆる一種の精神疾患の引き金になることは事実ですし、僕の側近でも大麻を乱用していた若者たちはいますが、非常に無気力になったり、やっぱりその害に苦しんでいる人間はたくさんいます。
しかも、大麻は依存性がないとか言う人たちがいる。
そんな、ばかな。
国会議員にまで立候補した高樹沙耶被告が、いかにやれば捕まる犯罪行為だと分かっても、やらざるを得なかった、やっていた、これ自体が依存性と危険性をもろに証明している。
そう思いませんか。
(大麻がいろんな薬物の入り口になってしまう側面もあると?)
大麻で、このぐらいならば、今度は覚醒剤ならばと。
だから「ゲートウェイドラッグ(入り口のドラッグ)」と我々は呼んでいます。
(だからこそ、入り口に入らないようにしなければいけない?)
その通りですね。

日本は、大麻には例外的に栽培が認められているものもあるんです。
これは、有害成分が少ない産業用のものでして、これは古くから、しめ縄や七味とうがらしにも使われています。
こういった産業用の大麻は、都道府県の許可を得て、全国で30軒ほどの農家が栽培しています。
こういった中で、鳥取県で許可を得て大麻を栽培していた移住者が、大麻を吸引するために所持していたとして逮捕されました。
前代未聞の事件に衝撃が広がっています。

大麻汚染 新たな危機 町おこしのはずが…

鳥取県の平井伸治知事です。
事件を受け、全国で初めて、産業用大麻の栽培を全面禁止にする措置に踏み切りました。

鳥取県 平井伸治知事
「過疎地の情熱につけ込まれたという、苦々しい思いがございますし、(事件を)防ぐ手だてとしては、作らないという選択肢以外ないですね。」

きっかけとなったのは、去年10月の事件。
許可を得て、産業用大麻の栽培に携わっていた人物が逮捕されました。

上野俊彦元被告。
大麻を吸うために所持していたとして、執行猶予付きの有罪判決が確定しました。
今、家族と暮らし、反省の気持ちを伝えたいと、初めて取材に応じました。

上野俊彦元被告
「応援してくださった方々には、本当に申し訳なかったなと思ってます。」

4年前、上野元被告が大麻の栽培を始めた時の映像です。
神戸出身の上野元被告。
鳥取県に移住後、かつて、この地で産業用大麻が栽培されていたことを知り、町おこしにつなげたいと考えたといいます。
県と町から、およそ1,000万円の補助金を受けていました。

上野俊彦元被告
「麻を用いることで休耕田とか、耕作放棄地の利活用。
これ以上のものは、たぶんないと思って、奮起したんです。」

この事業は、ユニークな町おこしとして注目され、全国から視察が相次ぎました。
しかし事態は思わぬ方向に向かいました。

これは、上野元被告が主催した大麻の栽培講習の写真です。
通常、大麻の畑や栽培の様子は部外者に公開していません。
しかし、町おこしの手段として特別に行ったのです。
すると、大麻に関心を持つ人が訪れるようになり、一度に500人が集まることもありました。
地元の住民の中には、不安を感じた人もいました。

住民
「普通の人じゃないようなイメージの人もおられる感じがして。」

住民
「大麻っていう言葉に興味を持って集まってきた子が、かなりおるように見受けられた。
これは危ないと思った。」

当時、講習に参加していた、飲食店経営の男性です。
大麻の種から食用油を作る目的で講習を受けました。
大麻を吸ったこともあると、公然と語る人物もいて、戸惑ったといいます。

大麻栽培講習の参加者
「インドに行ったときにどうだったとか、カナダにステイ(滞在)したときは普通に家で吸っていてみたいな話をしたり。」

上野元被告は、大麻を吸引した体験などを聞くうちに、大麻は吸っても問題ないという考えが強くなっていったと話します。

講演会で知り合った人物から大麻を譲り受け、自分でも使うようになりました。

上野俊彦元被告
「だんだんと自分の中で当たり前になっていくというか、全く悪いものという見方がなかった。」

事件は、それだけにとどまりませんでした。
講習の参加者が地元に戻った後、大麻を所持していたとして逮捕されたのです。
このうち、岡山と高知の2人は移住者で、町おこしを理由に参加していました。

上野俊彦元被告
「家で栽培してみたくなったっていう、そういうのを(講習が)誘発したのであれば、もちろん、そもそもこの事業自体は申し訳なかったと。
時々立ち止まって、いろいろと事業のことも含めて振り返ったり、もっといろんな方に相談しておけばよかったなっていうのは、今となっては思いますね。」

大麻汚染 新たな危機 広がる衝撃

本来、日本の伝統を守るために栽培を特別に許可されている、言ってみれば、その特別な立場が結果的に利用される形になってしまった。
麻の栽培をしている方より:「こういった事件の陰で、日本の大麻栽培の伝統は存続の危機を迎えています」

古川記者:事件を受けて、鳥取県が産業用大麻の栽培を全面禁止にしました。
厚生労働省も各都道府県に対して、町おこしのための大麻栽培について、許可を出すのを慎重に判断するよう、異例の通知を出しました。
真面目に栽培を行っている農家や移住者にとっても、今回の事件の衝撃は大きかったと思います。

改めて今回の事件、いろんなところに影響を及ぼしているわけだが?

水谷さん:あくまで氷山の一角です。
例えば、今回のは大量栽培なので表に出てきましたが、大麻はマンションの一室でも、物置でも作れるんです。
ですから、そういう人間が自家栽培で自家使用している場合には、ほとんど表に出てこない。
これは、何とか絶たないと大変なことになっていく。
薬物汚染というのは、ある意味で感染症なんです。
特に若者の間ではひどい。
1人が使い始めれば、みんなに勧めていって、あっという間に広がっていくんです。
芽のうちに摘まないと。

大麻の使用が増えてきている中で、これにどう向き合っていけばいい?

水谷さん:やっぱり教育しかないと思います。
これは、若者、子どもを学校で教育するだけではなくて、すべての日本国民に知ってほしいのは、薬物、大麻を含めて、大麻は人を3回殺すんです。
まず、頭を殺します。
大麻のことしか考えられない。
だから今回捕まった人たちも、もう大麻のことしか考えていないから、犯罪になろうが、なんであろうが、大麻を作り、また使うわけです。
2つ目に殺すのは、心です。
周りにいる大事な仲間に、今回だって、大麻を勧めているわけですよね。
それが犯罪を犯させているという事実すら心が壊れているから、いわゆる良心がなくなってしまう。
そして3つ目には、大切な命を奪われることだ。
これは、やはり子どもにもそうですし、日本国民全部に知ってほしいです。
(大麻が危ないと、知識を正しく身につける必要がある?)
そして自ら、それを「ノー」と言う勇気を持つ、知識を持つようにさせることが今、一番重要です。

今回のグラレコ

番組の内容を、「スケッチ・ノーティング」という会議などの内容をリアルタイムで可視化する手法を活かしてグラフィックにしたものです。

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