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 トランプ米大統領は3日、オバマ前大統領が進めた「金融規制強化法(ドッド・フランク法)」の見直しに向けた大統領令に署名する。同法の「廃止」を訴えてきたトランプ氏にとって、金融危機後に進めたオバマ氏の「レガシー(遺産)」の転換への第一歩となる。

 大統領令は、財務長官に対して、金融分野の規制当局と協議し、規制の見直しの具体策を募って大統領に報告させる。米政府高官は、「ドッド・フランク法は政府の範囲を広げすぎた。一部は違憲のものもあるうえ、消費者保護につながらない新たな規制機関も生み出した」と批判した。

 また今回、オバマ氏が導入した「受託者規則」と呼ばれるルールの見直しも指示する。年金基金などに対して、「(資産を預ける)顧客の利益を最優先に考える」よう求めたもので、日本でも導入の検討が進んでいる。

 金融機関がリスクの高い取引に走って、2008年のリーマン・ショックにつながった教訓から、オバマ前政権は10年にドッド・フランク法を成立させた。金融危機の再発を防ぐため、大手金融機関に高い自己資本比率を求めるなどの内容だ。当時、1930年代以来の抜本的な金融改革といわれた。

 なかでも中核とされたのが、米連邦準備制度理事会(FRB)の元議長、ポール・ボルカー氏が提唱した「ボルカー・ルール」だ。銀行が、自己資金で投機的な取引を行うことを禁じている。トランプ政権は、このルールの見直しも検討の対象としている。

 ドッド・フランク法に対しては、金融業界からは、複雑な規制で膨大な作業が求められ、コストが増えるなどの不満がある。新政権には、米金融大手ゴールドマン・サックスを含めウォール街出身者が多く入っており、彼らが規制緩和を進めることになる。

 危機後に米国が進めた規制が大きく変われば、世界的な金融規制の強化路線にも影響を与えうる。リスクの高い取引が広がれば、新たな金融危機につながるおそれもある。

 オバマ政権下で金融規制強化を進めてきたFRBのイエレン議長は昨年11月、トランプ氏の勝利後、「時計の針を戻すのは見たくない」と話し、ドッド・フランク法を擁護する考えを示していた。同法の見直しは議会を通す必要があるが、民主党の強い反発が予想される。(ワシントン=五十嵐大介

■金融規制強化法(ドッド・フランク法)の主な内容

・一部の大手金融機関を「金融システムで重要な金融機関(SIFI)」に指定、厳しい監督下に置く

・銀行が自己資金でリスクの高い取引をおこなうことを禁じる(ボルカー・ルール)

・金融機関への特別検査(ストレステスト)の実施

・金融危機に事前に対処するための米金融安定化監督会議(FSOC)の設立

・消費者・金融保護局(CFPB)を新設

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