ニュース画像

ビジネス
特集
どうする?スカパー!

去年発表された、Jリーグの放映権が衛星放送の「スカパー!」からイギリスの動画配信大手パフォームグループに2100億円で移るというニュースは、ファンや視聴者に驚きをもって受け止められました。
昨シーズンまで10年間、Jリーグを全試合放送してきたスカパー!は、加入者獲得のキラーコンテンツを失うことになりました。ドラマやバラエティの世界でも、ネットフリックスやアマゾンといった海外勢が攻勢をかけ、競争環境が厳しさを増す中で、どういった戦略を描いているのか。スカパーJSATの高田真治社長に聞きました。(経済部 小田島拓也記者)

Jリーグ発展に貢献してきた自負

スカパー!がJリーグの放送を始めたのは2006年(J1は2007年)。10年にわたる全試合の放送によって、Jリーグといえばスカパー!と思っていた視聴者も多いのではないでしょうか。
その一方で、スカパー!の加入件数は、5年前のピーク時(2012年4月末)の384万からことし1月末現在で328万に減少しています。

ニュース画像
Jリーグとパフォームグループの発表(2016.7.20)

ーーースカパー!にとっては加入者獲得のキラーコンテンツを失うことになります。

高田社長:われわれとしては、想定もできないような大型の契約を結ばれました。去年の年末まで放映権の2次使用権を得る交渉をしてきましたが、パフォームグループの決心は変わりませんでした。視聴者は本当にガッカリされている方も多いと思います。

一方で、スカパー!のコールセンターには「今までよくやってくれた」という声もいただいていて、これまでJリーグの発展に貢献してきたという自負もあります。これからもリーグ戦以外の天皇杯やカップ戦、ヨーロッパのサッカーリーグを放送していきます。さらに、高校生をはじめとする”育成世代”の試合を積極的に取り上げて、サッカーのすそ野を広げていく活動をより強化してサッカー界の発展にできることはやっていきたいと考えています。

ニュース画像

高騰する放映権料

放映権料をめぐっては、各国のプロサッカーリーグやオリンピックの試合をめぐっても高騰しています。

例えば、来年、韓国で開かれる冬のピョンチャンオリンピックと2020年の東京オリンピックのジャパンコンソーシアムがIOC=国際オリンピック委員会に支払う放映権料は合わせて660億円と、それぞれの前の大会と比べて80%増えています。

各国の報道でも、ヨーロッパのプロサッカーリーグやアメリカの大リーグ、それに自動車レースFー1などで放映権料の高騰がたびたび伝えられています。

ニュース画像

ーーーー放映権料の高騰にどう対応していきますか。

高田:放映権を持っているスポーツの団体は、より大きな収入を得たいから、高くしたいというのは当然です。買う側もそれだけの価値があるから、高くても買う。これでも10年周期ぐらいで放映権料は大きく変動してきました。

スカパー!も2002年に日本と韓国で開催されたサッカーのワールドカップでは、それまでに比べると格段に高い金額で放映権を獲得しました(推定 百数十億円)。このときは、当時の会社の規模からはずいぶんと背伸びをしてリスクを取りましたが、加入者の増加につなげることができ、結果的には正しい判断だったと思います。

ただ、高い金額を支払って放映権を獲得しても、思惑どおりに加入者が伸びなければ赤字が続いてしまいます。今は爆発的に加入者が伸びるような状況ではありません。コストパフォーマンスをしっかりと考えて会社の経営状況、ビジネス環境をふかんして、総合判断していくということに尽きると思います。

スポーツ以外も競争激化

ーーースポーツだけでなくニュースや映画、バラエティでもさまざまな事業者が参入し、動画配信をめぐる競争は激しくなっています。

高田:映像サービスという点では同じですが、放送と通信は全く違うサービスです。放送は免許を得て放送設備を整えれば、そこから先は同時にたくさんの人に見てもらえればいい。一方で通信の場合は、見る人が増えれば増えるほど通信量が増えるのでコストをかけて設備を増強しないといけない。ネットワークを維持するコストが膨大でなかなかビジネスモデルも難しい。

もちろん、映像サービスを自分たちの別のサービスの販売促進物として考えれば、赤字でもいいという考え方もあります。特に通信会社にとっては、映像コンテンツが見られれば通信料収入も増えるので、プロモーションコストとして考えているのでしょう。ただ、成長が止まると、サービスを維持できなくなる可能性もあります。

ニュース画像

独自コンテンツを

ーーースカパー!は、スポーツや映画を制作する放送事業者からコンテンツを集めて、まとめて提供するプラットフォームビジネスが主力ですが、加入者をつなぎとめるための対策は何か。

高田:どれだけ他社と差別化できるコンテンツを持つか、無料放送では見られない、公共放送でも放送しにくいコンテンツを制作していけるかが重要なテーマです。これまではあまり自社で番組は制作してきませんでしたが、今、オリジナルのドラマやバラエティを制作する取り組みを強化しています。

また、いろいろな放送事業者と共同でコンテンツを制作し、最初にスカパー!で放送するということも、他社のサービスに対する優位性になりえます。

放映権料に多額の投資をすることに比べると、大幅にコストを抑えながら、顧客をつなぎとめることができます。競争環境は厳しくなっていますので、これまでとは異なる商品やコンテンツ作りを進めていなかくてはならないと考えています。

スカパー!の商品パックも視聴者から見ると、複雑でわかりにくい。ここをまず変えていきたい。価格面でも他社と競争力ある価格に見直していきたい。できることは数多くあると思っています。もちろん、これまでのやり方を変えるので、放送事業者さんとのあつれきも出てくるかもしれません。ただ、取引先の放送事業者も危機感は強く持たれていますので、力を合わせて困難を乗り越えていきたいと考えています。

ニュース画像
BSスカパー!HPより

取材を終えて

日本テレビ出身で、社会部長、政治部長を歴任し、編成や営業、さらにインターネット事業も手掛けてきた高田社長。報道機関のあるべき姿や、トランプ政権とメディアの対決に話が及ぶとその口調は次第に熱を帯びてきます。

高田社長は、有料放送事業の今後は、ほかにはない魅力あるコンテンツを提供できるかに尽きると強調します。

若者を中心にYouTubeで動画を見る生活習慣が定着し、サイバーエージェントとテレビ朝日が手がける無料のインターネットテレビAbemaTVもサービス開始からわずか7か月で1000万ダウンロードを達成しました。さらに独自のコンテンツを武器にネットフリックスなどの海外勢も攻勢を強めています。視聴者獲得競争が激しさを増す中で「コンテンツ屋」の本領を発揮できるか、ことしが正念場になります。

小田島拓也
経済部
小田島拓也 記者