「甘ったれてごめんなさい」新人看護師の自殺
新人看護師の自殺が労災かどうかが争われる裁判が2月3日札幌地方裁判所で開始されました。
最近電通の高橋まつりさんの過労死を巡って、労働時間の問題、36協定の問題、就業規則の問題など国の労働行政のあり方が問われています。
下の記事にもありますが、労働基準監督署が
「(精神障害発症までの)6か月間を基本的に評価する。ひとつの目安として100時間、できごとの前後に、100時間くらいの時間外労働があれば、(精神的な)負荷を強める、という判断もしています」
という驚くべきことを平気で言っています。
お役所の極めて杓子定規な考え方です。
また、前例を踏襲するのも役所の常です。このケースもうつ病を発症した前後に100時間という残業があるかないかを判断基準にしているといいます。
とんでもない話です。
人間を単なる数字、1労働者、1看護士としてのみ評価することで、煩わしさをなくし、仕事を効率化しようとするやり方です。
この杉本綾さんという方は、ひとりの人間なのです。一人の女性として、これまで生きてきており、父母と生活し、友達と交流し、自分としての人間を育んできたと思います。
そのひとの、生活の環境、労働環境を考慮せずに単に残業時間で物事を推し量るやり方は、納得がいきません。
職場環境においては、パワハラ、セクハラだけでなく、ひとりの労働者がどんなことで悩んでいるのか、そのメンタルヘルスはどうなのかまで一人ひとりにどの程度寄り添った労働環境だったのかまで問われなければならないと思います。
日本看護協会の調べでは、看護職の離職率 常勤10.9%、新卒7.5% に登るといいます。
年間離職数は16万人と言われます。すでに70万人以上の潜在看護師がいると言われながら、看護師への復職はなかなか進まないのが現状だとわれます。
日本の高齢化が進み患者数が増える一方看護師不足が深刻です。
ますます、看護師の一人あたりの仕事量が大きくなるのは必至です。
潜在看護師が戻りやすい医療現場環境にしていくことが急務ではないでしょうか。
うつ病や精神疾患がでない看護職場の環境でなければなりません。
そのような観点から、この杉本綾さんの自殺を考えたときには、日本の看護体制をより改善しようという立場で国も対応してもらいたいものです。
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画像引用
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なぜ札幌の新人看護師は“自殺“したのか?
“労災“か否か 国は争う姿勢 初弁論 札幌地裁
札幌市の新人看護師の女性が自殺したのは、長時間労働などで、うつ病を発症したことが原因だとして、母親が国に、労災認定を求めた裁判の初弁論が2月3日開かれ、国側は争う構えを示しました。
訴えを起こしているのは、2012年12月、当時23歳で自殺した札幌市の新人看護師、杉本綾さん(当時23)の母親です。
訴状によりますと、杉本さんは、2012年4月からKKR札幌医療センターに勤めていましたが、月に65時間から91時間の時間外労働など、肉体的、精神的に追い詰められ、うつ病を発症して自殺したとして、杉本さんの母親が、国に労災認定を求めています。
札幌地方裁判所で3日に開かれた初弁論で、原告の母親は、「帰宅後の、娘の自宅での仕事は一切、時間外として考慮されていない」「離職率の高い看護職だからこそ、働き方を改善してほしい」と意見陳述しました。
これに対し国側は、答弁書で請求を退けるよう求め、争う姿勢を示しました。
杉本さんが勤務していた、KKR札幌医療センターは、今回の裁判や、当時の勤務状況について「コメントできない」としています。
杉本さんの母親(53):
「生きていたら27歳で、とても頼もしい先輩看護師になっていただろう。残念ながらかなわなかった。あの子みたいな子をつくっちゃいけない、という思いで闘っています」
「写真」
友人の結婚式で
「睡眠は2、3時間」母親が気づいた“異変“
「杉本さんです。いえい!」
友人の結婚パーティーで、笑顔でカメラに写る杉本綾さん。自ら命を絶ったのはこの3年後。看護師になってわずか8か月。23歳でした。
綾さんの時間外勤務の全記録には、働き始めてからの“過酷な状況“が残されています。看護師になって、わずか一か月後の2012年5月の時間外勤務は、91時間に及んでいます。
証言などをもとに、一日の流れをみると、午前4時30分に起床し、午前6時のJRで出勤。受け持ち患者の記録を見るため、定時の1時間前には出勤していました。
5人の患者の対応をし、その日のまとめを先輩看護師としたうえで、午前0時ごろ帰宅。足りない知識を補うため勉強し、また出勤するという毎日でした。
そばで見ていた母親は。
杉本さんの母親:「睡眠時間は2、3時間になっちゃっていたので、毎日毎日、わたしも働いているかのように、気持ちが安らがなかった」
なぜ、綾さんは、生きるのをあきらめたのでしょうか…。
妹思い 祖父母の病気きっかけで“看護の道“を…
「腕が見えてきました~」
札幌市で生まれ育った綾さんは、5歳離れた妹の面倒をよくみる、心優しいお姉さんだったといいます。
同居していた祖父母が、認知症や糖尿病を患ったことがきっかけで、高校に入って看護師の道を選んだ綾さん。
札幌市内の大学の看護学部に進みました。
杉本さんの母親:
「実習は、つらくないの? と聞くと、『患者さんと向き合えるからすごく楽しい』と」
大学の卒業アルバムには、こう記しています。
「Q. どんな看護師になりたい? 心身ともに癒やす看護師」
「Q. あなたの野望は? いつも“しあわせ“って言える人生」
しかし、この思いは、打ち砕かれていきました。
杉本さんの時間外勤務の記録
「心身とも癒やす看護師に…」就職後すぐ“時間外“91時間
綾さんが就職したのは、札幌市豊平区の総合病院。肺がんや肺炎患者が入院する急性期病棟でした。
母親は5月に入ると、異変を感じたといいます。
杉本さんの母親:
「だんだん血眼になるのが見えてきて、患者さんも受け持ちができて、午前2時、3時に部屋の電気がついているな、うたた寝しているのかな、とのぞくと、勉強していて。なんでそんなに勉強しているの? と聞いたら、『こうしないと、付いていけない』と。その言い方が、すごいつらそうで…」
2012年5月の時間外は、約91時間。
6月以降も“時間外“は続き、6月は85時間、7月は73時間、8月は85時間、9月は70時間、10月は69時間、そして11月は65時間の時間外勤務を重ねました。
なぜ長時間労働は、続いたのか。仕事が終わってから、作成が毎日義務付けられていた、先輩看護師との記録には…。
(作業報告記録より)
「なんでその処置が必要か、根拠について確認してください」「知らない時は調べる」
作業手順や考え方、知識不足を指摘され、その要求にこたえようと、必死になっていた綾さん。
しかし、看護師になって3か月後、すでに心は折れていました。
「どうやったら病院に来なくていいか 存在消せるか…」
(友人とのLINEより)
「5月13日。この前の初めての夜勤で、事故起こしたんだよね。全盲の患者さんの麻薬の量、間違ったんだ。それがもう、とどめって感じで。
「7月23日。ここ最近絶不調です。本気でどうやったら病院に来なくていいか、存在消せるか。死ぬか? とか考えました」
8月の夏休み。楽しみにしていたという、富良野へのドライブも…。
杉本さんの母親「ドライブ行ったの? と聞くと、『気力がなかった』と言った。
それ以上どうして? と聞かなかったが、もう、いっぱいいっぱいなんだと思った」
夜勤明けだった2012年11月30日。綾さんは、号泣して帰宅。その夜…
(綾さんのSNSより)
「11月30日。看護師向いてないのかもー。あー自分消えればいいのに、なんてねー」
この2日後、一人暮らしのアパートで、遺体で発見された綾さん。遺書には、こう記されていました。
「自分が大嫌いで、何を考えて、何をしたいのか、何ができるのかわからなくて。
苦しくて、誰に助けを求めればいいのか、助けてもらえるのか、全然わからなくて。
考えなくていいと思ったら、幸せになりました。甘ったれでごめんなさい」
杉本さんの母親:
「一生懸命、温めたら起きてくれるんじゃないかと思って、足をさすって温めようとしたが、結局、目を開けてくれなかった。
気付いていた人は、いたはずなのに、どうして何とかできなかったのか」
母親は、綾さんは、過労により、うつ病を発症したとして、労災認定を求めましたが、労働基準監督署は認めませんでした。その判断基準を聞くと…。
北海道労働局 労働基準部 信田薫弘課長
「(精神障害発症までの)6か月間を基本的に評価する。ひとつの目安として100時間、
できごとの前後に、100時間くらいの時間外労働があれば、(精神的な)負荷を強める、という判断もしています」
綾さんの精神障害は、仕事が理由なのか、判断は司法に委ねられます。
しかし、この綾さんのケースは、新人看護師にとって特別なことではないといいます。
“慢性疲労ある“全体の7割 母親「綾がほっとしてくれるために…」
北海道医労連 鈴木緑さん:
「急性期の病院では、若い看護師のメンタル不全は結構いて、精神的、身体的な負担が大きいのが、一年目の看護師の特徴」
新人看護師がどれだけ過酷なのか。
札幌市内の総合病院に勤める、1年目の看護師を待っているのは、勉強に追われる日々です。
1年目の看護師:
「自分が入ったところは専門分野なので新しく学ぶことの方が多い。
2~3時間くらいは自分が勉強して理解するのと、病院に行ったときに見てわかるようなメモを作るので、結構時間がかかります。
勉強は、いまも続いています」
1年目は、すべてが初めての経験で、勉強に終わりはありません。作業に余裕がないため、ミスもつきまといます。
1年目の看護師:
「名前が似た患者さんが同じ部屋にいて、違う人に、点滴をつなごうとして、直前で気づいたこともある。
決められた時間があったり、担当する量も多いので、自分でスケジュールを組んでいるが、それを超えたら焦る。勤務終わったら、くたくたです。とにかく座りたい、帰りたい」
日本医労連の調査では、慢性疲労があるという看護師は、全体の7割に達します。
特に、重い責任と判断力が求められる、月に4回ほどの夜勤が、新人看護師にとって大きな負担になっています。
1年目の看護師:
「患者さんに、思いやりをもって関われているか、と言われると、自信がない。
正しく技術をすることに必死すぎて、余裕がないです…」
高齢化に伴う重症化や、認知症の増加も、忙しさに拍車をかけているといいます。
北海道医労連 鈴木緑さん:
「高齢化している分、看護の手が必要な時代になっているのが、昔とは本当に違う。
看護師がまったく足りていない。
『先輩に聞いちゃいけないかな』と、新人が気を使ってしまう。
ものを言いやすい職場づくりも、非常に大事だと思う」
誰にも相談できず、孤立化する新人看護師。杉本さんの母親は、娘の思いを訴えます。
杉本さんの母親:
「(看護師たちが)自分も、ひょっとしたら1か月後、うつになって亡くなるかもしれない。
だから、“こんな働き方でいいのか?“ と考える機会になれば…。それで綾は、ようやく、ほっとしてくれるんじゃないかと思う」