.


マスター:シチミ大使
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:0人
リプレイ完成日時:2017/01/29


みんなの思い出

1
1

オープニング

 ――阿修羅がこの世界に本当に存在するとするのならば、それは人の味方か、あるいは敵か。
 たむろする不良グループはこの寒空にエンジンの鼓動を響かせる。
 熱したエンジンが白い排気を発し、不良たちが一同に会していた。
 ここ一番でこの地区の先導者を決めよう、というのである。誰が言い出したのかは不明であるが、両グループはお互いに譲れないところまできていた。
 代表者がタイマンを決め込もうとしたところで、その公園に存在しないはずの銅像に目を見開く。
「何だこれ? いつ造られたんだ?」
 こちらの意表を突いたかのように銅像が三つ、居並んでいるのである。毒気を抜かれた代表者が示しとして蹴りつけた。
 その時、銅像の腕が稼動する。
 その段になってそれが銅像などではなく、しかもただの人間を模したものではないことが全員に伝わった。
「腕が、六本……」
 シリンダーのような回転台を両腕の支持部に有し、それが回転することによって計六本の腕が空気を引き裂いて駆動する。
 その膂力に吹き飛ばされたのは蹴りつけた不良であった。
 一発が叩き込まれたかと思ったその途端、空中に浮かび上がらされたその身へと六本の腕による怒涛のような拳が打ち込まれた。
 不良の肉が削げるだけならばまだよかったのかもしれない。骨を粉砕し、皮の一片まで引き裂いたその一撃に不良たちが恐れ戦いた。
 最早、このようなところで喧嘩など始めている場合ではない。
 恐慌に駆られた不良たちへと、六本腕の阿修羅が一人、また一人とその腕の射程の餌食とする。
 やがて静寂が訪れた頃には、血と骨の欠片がそこいらに転がった荒地が広がっていた。

「阿修羅とは三面六臂その姿で描かれることの多い神像の一つなのですが、これが実在した場合、果たしてどのようになるのか……」
 しかしプロジェクターが示すのはその存在の実在と、破壊力であった。
 血溜まりに沈んだ公園を最大望遠で映し出している。
「どうやらこの神像は今回、敵として現れたようです。依頼です」
 久遠ヶ原学園の事務係の職員の女性が淡々と告げる。
「阿修羅型、と呼称するこの個体は六本の腕をシリンダーのような回転台を利用して駆動。それぞれの腕を使用した絶大な破壊力が持ち味の近距離型ディアボロと確定。三面六臂、が阿修羅の特徴ですが顔は一つ。その代わり、三体が同時展開しています。射程では極めて短いものの、その破壊力は人体を粉々にするほど。近接戦闘には充分留意してください。悪魔の活動領域はなく、自律型と思われます。この依頼を引き受けますか? 引き受ける場合はこちらにサインをお願いします」


プレイング

ちのうしすうがたかい・雪室 チルル(ja0220)
高等部3年1組 女 
心情:
「腕が六本あるなんて生意気ね!全部叩き落としてやるわ!」

目的:
敵の撃破

準備:
・作戦
前衛と狙撃役に別れて行動。
前衛はそれぞれ敵の正面から接近し、
相手の攻撃を凌ぎつつ時間を稼ぐ。
その間に狙撃役はそれぞれの敵の背面に回り込み支援攻撃。
相手が熱暴走になった場合は狙撃役が背後から付け根を狙って一気に攻撃。
同時に前衛も正面から攻撃を行い敵の撃破を狙う。

・準備
戦闘後の治療用に救急箱を用意。

行動:
・熱暴走まで
前衛として行動。
ミハイルとペアを組んで戦闘を行う。
基本的に真正面から相手に向かって攻撃を仕掛けることで、
相手の注意を引きつつ熱暴走まで時間稼ぎを行う。
攻撃よりは防御・回避を優先して行い、
相手が熱暴走になるまで凌ぐことを優先する。
攻撃チャンス時は翔閃で腕を中心に狙うことで、
物理的に破壊できないか試してみる。

・熱暴走後
相手が無防備になった所で封砲を連発して他の敵を巻き込む形でダメージを稼ぐ。
その後、動けていないうちに奥義を使用して一気に勝負を決める。
敵撃破後は他の敵の背後に回り込み、
シリンダーを直接貫くことで相手の腕を破壊する。
また、熱暴走中に撃破できなかった場合は、
引き続き前衛として行動して再度の熱暴走まで相手の攻撃を凌ぐ。

歴戦の戦姫・雫(ja1894)
中等部2年1組 女 
【心情】
「毎日の様に戦いが続くこの世は、阿修羅道なのかも知れませんね」

【行動】
レフニーさんと共に敵に当たる
戦闘になったら闘気解放を使用、敵がレフニーさんの元に行かない様に引き付ける
腕に捕まれない様に注意を払いながら、隙があったら斬り落として手数を減らす
熱暴走を起させる為に左右に反復移動を繰り返しながら、影縛の術を使用して更に負荷を掛ける
熱暴走が起きたら氷の夜想曲を使用、影縛の術で動きが完全に止まったら弱点である回転台の付け根を狙って攻撃を行う
「仏と会えば仏を斬り、鬼と会えば鬼を斬る・・・」

生命力が低下したらヒールを使用して回復をする

※アドリブOK

護法の銀・Rehni Nam(ja5283)
大学部1年5組 女 
どうしてこうなった、と言いたくなりますねぇ
(シリンダーについての感想らしい
6本腕なんだから、4本の腕で両脚(腿と足首)、2本の腕で両腕を固めつつ投げるとか
6本の腕を高速で振り回し、竜巻を起こすとかすれば良いのに


……ちなみに、マッスルバスターは、プロレスで本当に使用された事もあるらしいですよ?



私はシズクさんと組んで、阿修羅A(仮)を相手取ります
前衛はシズクさんに任せて、私はサポート主体です
銃で気を逸らすように牽制攻撃したり(射線注意
HPが危うい味方が出たら回復に行ったり

それと折角の情報なので、相手の後ろを取る事が出来たら炎焼を放ちます
単なる属性ではなく、自然再現の本当の炎
シリンダーの加熱を加速させて、熱暴走を引き起こし易く出来るはず
なお、横や正面からでも十分炙れるなら、後ろに拘る必要はないです

上手く熱暴走したらしめたもの
書かパ盾でアイスウィップ(魔攻)です

上手く行かないか残0になったら、BMに入替えつつ牽制攻撃・回復に専念しましょう
まあ、隙あらばVJでCR差物理攻撃を叩き込みますが

VJ残0で包丁一閃
同様にCR差物理攻撃です
こちらは接近戦で反撃が怖いので、使用時は行動を遅らせましょう
次T先制されたら仕方ありませんが



回復
HP50%

2人以上で癒風(→癒光
1人はLHe(→He

範囲攻/回復
味方/敵巻込みNG


ドS白狐・ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)
大学部8年2組 男 
【心情】
たまには狙撃ってのも悪くないね☆

【準備】
事前に地図やネットを利用して狙撃しやすいポイントを決め、の進入許可を取っておく
場所は複数確認し、狙撃担当で連絡方法と共に共有
公園からターゲットが出ることを想定し、付近の人々は避難してもらう


【行動】
ラファルと組み、狙撃銃で狙撃ポイントから支援をメインに行動
味方が危険な場合は装備をパイオンに切り替え、接敵
【HT】にて動きを止め、安全な位置に下がらせて場を仕切りなおす
その後は防御を行いつつじっくり弱点破壊を行いながら戦う
決して無理せず、場合によっては他メンバーがそのターゲット破壊後に救援に来てくれることを待つ
『ま、必要に応じて前に出ましょ☆』

基本的な攻撃は弱点と思われるシリンダーだが、感覚器を使用して標的を追尾していると思われる場合、シリンダーを狙っていると見せかけて目や耳などを潰す
『自分の一番の弱点は知ってるものだけど、二番目、三番目はおろそかにしがちだよね♪』
前衛が特段問題なくせめていける場合、機略縦横を使用し命中率を上げつつ追い詰めるが、これは終盤になってから
冷却時やターゲットの耐久値がもう少ないと見極めた場合、【R】にて一気に勝負を決める
『純粋だが、雑だね☆』

味方危機時に接近が間に合わない場合、敵の足、または振り下ろす腕、最悪味方をダメージ最小限に狙撃して跳ね飛ばし、致命傷を避けさせる
『間に合わないか…』
『防御して、吹っ飛んで♪』

天に代わってお仕置きよ!・ミハイル・エッカート(jb0544)
大学部5年9組 男 
阿修羅が敵?
学園生の誰かが妙なことでもしたのかと思ったぜ
昔の漫画に出てきた悪魔超人の名前だろ、俺だってそれくらい知ってるさ
同僚に漫画借りて読んだぜ!

・・え?
仏教の神様の名前!?
八部衆!!なんだそれ、ヤバイな
俺また一つ格好いい知識が増えた気がするぞ

・方針
2人1組
A班 雫・レフニー
B班 チルル・ミハイル
C班 ラファル・ジェラルド
それぞれ1体ずつ受け持ち、引き離しを図る

・行動
攻撃はすべて魔攻

阿修羅は顔3つのはずだが3体に分かれているということは視界を補い合っているのか?
3体の阿修羅の視界が届かない場所、遊具か公衆トイレなどの遮蔽物に身を潜めてハイドアンドシーク
破魔の射手で敵の背後を狙撃
回転台の付け根を狙い、脆くさせることで負荷をかかりやすくする
射線を気取られないように、一発撃ったら場所移動
敵の目線がどう動くかも観察
他の2体が俺の行動を目で追っていたら、視界を補い合っていることを仲間に周知

敵が熱暴走を起こしたら背後に近づき、氷の夜想曲発動
ついでに寝てくれたらラッキー
敵の攻撃はフィーバービートで避ける
常に敵の背後を位置取る
他の2体の間合いに入らないように気をつける

・依頼後
ディアボロを倒してもまた不良のたまり場になるのはつまらんな
公園は良い子の皆が楽しく遊ぶものだ
落書きを徹底的に消し、ゴミや雑草は綺麗に!・・と市役所に投書しよう

ペンギン帽子の・ラファル A ユーティライネン(jb4620)
大学部2年5組 女 
「字句通りの三面六臂のディアボロなんて戦闘で役に立つわけないだろ、ボケェ」
みっつの顔に6本の腕があったところで体は一つ。つまりゲーム的に見ても1ラウンドに1回しか行動できねーだろって詳しいな北欧人。
などとしょっぱなから怒りモード全力全開でマックスなラファルである。
だが、所詮はディァボロ退治どんだけ間違ってようがコテンパンにぶっち目ちまわなければならない訳でそこに対する迷いは一切ないのであった。
おまけに今回は三界依頼よりあぶれ出た競合共がわんさかいるのだ。おちおちしていたら自分の取り分が無くなってしまうとすら危惧せざるを得ない塩梅である。

ペアはこれまであんまなじみが薄いジェラルドとではあるが事前に連携は入念にチェックして隙はない。
今回は久しぶりの単体決戦モード(忍軍)で機械化しつつ攻撃開始。
と、ここに来たところで勘違い修正。腕6本の奴が3体だとふざけやがってぶち壊してやる(あ、これはもう止まらない。

ラファル&ジェラルドで1体受け持ち。
掌底による蹴りからの吹き飛ばし攻撃で1体を別方向に飛ばして3体の連携を阻止。単独決戦に持ち込む。
初手から奥義全開。「六神分離合体〜」で6人に分離。影分身の死山血河を築きながらも体の数と腕の数で相手の六回攻撃を圧倒。援護を受けつつ合間に「魔刃〜」やら「万華鏡」やらをぶち込んで一呼吸で倒しきる。

ち、もう終わりかと早々に片付けたら残2体相手の援護に入る。



リプレイ本文


「身体は一つ、しかし、腕は六本か。奇異な敵もいたものだね」
 そうこぼしたジェラルド&ブラックパレード(ja9284)は嘆息一つで今回の標的が集合する公園を見やった。
 射程に入らなければ動きはない。公園から外に出る可能性も鑑みて監視は怠れないが。
「腕が六本なんて生意気ね! あたいが全部叩き斬ってやるわ!」
 雪室 チルル(ja0220)の戦意にジェラルドはふぅむ、と顎に手を添える。
「六本腕、そんなに腕があってどうするつもりなんだろうね。ボクだったら、逆に困っちゃうかな」
「あたいは困らないわ! でも腕が六本もあるなんて気味が悪いわね!」
 チルルならば腕が六本もあればその分、相手に攻撃を仕掛けられる数が増えそうだと思いそうである。ジェラルドは今回の敵の造形センスを疑った。
「シリンダー、ってのは随分とまぁ、現実寄りなんだか、そうじゃないのか。回転軸を予め想定することによって安定した命中率と攻撃性能を誇る、か。ちょっと前衛は怖いかもしれないね」
「何で? あたい、むしろ六本も落とす腕があるなんてやり甲斐を感じるわ!」
 チルルは前向きである。比してジェラルドは狙撃に当たる、と告げていた。
「六本腕の相手と真正面から打ち合うのは怖そうだ。ボクはちょっとばかしチクチクと攻めさせてもらう」
「俄然、相手と打ち合うわ! あたいの剣が勝てば、通るだけの話だもの!」
「いいね☆ そういう風に戦う前には相手との戦力差なんて考えない、いや、考えても勝つことしか思い浮かばないほうがいい。六本腕の阿修羅が三体。彼らが地獄を見るか、あるいはボクらが阿修羅の地獄を見せられるか」
 勝負だ、とジェラルドは笑みを浮かべた。

 六本腕の阿修羅型の報告を改めて受け取ったラファル A ユーティライネン(jb4620)はまず、馬鹿だなと結論付けた。
「腕が六本あったところでお前、身体は一個だろ? じゃあ、一回に攻撃できる回数なんて限られてるじゃねぇか。んなもん、脅威にも上がらねぇな。腕がたくさんあればヒット数が増えると思った天魔の勘違いだな。いいか? 格ゲーでも、六本も腕がある奴なんて逆に器用じゃなくって使いようのない性能に落ち着くんだよ。六本腕があってもゲームじゃ一回の攻撃にしかならねぇし、どうせスティックとボタンは限られているから限界性能までの攻撃なんて出せやしないんだ」
「……案外、リアリストですね、ラファルさん」
 その言葉を受け取ったのは雫(ja1894)であった。今回の敵を見誤らないように、雫は厳戒態勢で応じている。
 阿修羅道に続くかもしれない天魔との戦いの連鎖。此度の敵は、ともすれば終わりのない無間地獄を形作ったものなのではないか、と。
 しかし、そのような殊勝な態度はラファルの肌には合わないらしい。
「シリンダー式の腕なんて微妙にロマンがあるんだかないんだか分からない形に落ち着きやがって。腕が六本あっても手数じゃこのラファルさんを上回ることなんてできないんだってこと、刻み込んでやるっきゃねぇな」
 ペンギン帽を弾いたラファルの瞳には既に戦意がみなぎっている。雫は阿修羅型との戦闘姿勢をそらんじた。
「三班に分かれ、それぞれ狙撃役と前衛で交戦。熱暴走を狙い、その期に乗じて一気に畳み掛ける。問題なのは前衛役が相手の拳の応酬をさばき切れるかどうか、ですね」
 一撃でももらえば、そのまま拳の巻き起こす突風のような連続攻撃にさらされるであろう。気は抜けないな、と雫は感じ取ったが、ラファルはけっと毒づく。
「拳が足りないから六本つけました、みたいなディアボロで俺を超えられるとは、随分と吹かすじゃねぇの。だったら、俺はそいつをぶっ飛ばす。瞬き一つの間に、阿修羅型って奴は倒れ伏しているぜ。よく見ておけ」
 ラファルならばそれくらいはやってのけそうだ。しかし、雫には懸念があった。
「三体……本来は阿修羅とは三面六臂の仏像なのであると聞いています。三体がそれぞれ、視界を補い合っている可能性もあるので……」
「分かってんよ。後方から不意打ち、ってのが通用しないかもしれないんだろ。ま、俺は前から行くけれどよ、その辺の判断は狙撃連中に任せればいいんじゃねぇのか? だって真正面から行く前衛に、いちいち考える時間があるとも思えないからな。考えている間に、拳は来る。だったら、紙一重で避けてこっちの一撃を叩き込む。そいつだけを考えておくべきだ。シリンダーの熱暴走なんて待たずしてカタはつける」
 前から六つの拳をいなす自分たちには恐らく熟考の時間は与えられないだろう。
 考えるな。感じろ――それがこれほどまでに当てはまるとは。
「まぁ、てめぇの獲物はてめぇで確保するしかねぇだろ。今回、ゆったり戦っていたら自分の獲物取られちまう。それくらい、全員が手だれだと思ってるからよ」

「阿修羅、って最初聞いた時には、学園の誰かが言い出したデマかと思ったんだが……」
 ミハイル・エッカート(jb0544)が濁したのは双眼鏡から覗ける阿修羅型を実際に目にしたからであった。
「昔の漫画にいましたね。ああいうの」
 首肯するのはRehni Nam(ja5283)である。ミハイルは観察を注ぎつつ、レフニーに尋ねる。
「あれ、六本腕で全開攻撃をすれば突風とか出せるのか? それとも手足を縛って逆さ吊りのまま叩き落すとかも?」
「いえ、今回の敵は、確認されている限りでは拳のみだとも。……まったく、どうしてこうなった、と言いたくなりますね。もっと器用なディアボロを作ればいいのに。ちなみにその昔の漫画の往年の必殺技は実際にプロレスで使われたこともあるらしいですよ」
「詳しいな……。でもまぁ、あんまり器用じゃないほうが戦いやすい。三面六臂、だったか、伝承の阿修羅って奴は。仏教の神様の名前なんだろ? 八部衆って言うネーミングからしてカッコイイ知識だ。俺は今回、そいつを得られただけで得した気分だぜ」
「阿修羅と言っても、所詮はディアボロ。期待しないほうがいいのかもしれません」
 レフニーは先ほどから読んでいる漫画本をパタンと閉じた。ミハイルが双眼鏡から視線を外して問いかける。
「……それは?」
「コンビニで売っていた先ほどの昔の漫画の奴です。参考になるかと思って」
 どれどれ、とミハイルが覗き込む。三つの顔を持つ敵は明らかに強者のオーラを醸し出していた。
「こいつ強そうだな……」
「実際に強い敵で、主人公勢のいいライバルですよ?」
「……詳しいな」
「それほどでも」

 阿修羅型が関知網に捉えたのは初撃。
 打ち下ろされたチルルの剣であった。
「腕、もらったわ!」
 シリンダーを初手から狙い澄ました一閃を阿修羅型が巧みに腕を交差させ受け止める。
 まさかの白刃取りにチルルが呆然とした途端、下方の二本の腕がその身へと襲いかかった。
 シリンダーの回転台の関係上か、チルルを後方に投げ飛ばすのと、二本の腕が叩き込まれようとしたのは同時。
「――おっと、レディを投げ飛ばすとは、なってねぇな」
 背後から咲いたのは青い光の弾丸であった。阿修羅型の腕から力が凪いだのを見計らい、チルルが蹴って離脱する。
 他二体が射線を読もうと視線を動かした。
 狙撃したミハイルは遊具の合間を縫いつつ通信機に吹き込む。
「奴さん、どうやら視界を同期しているみたいだ。一体への攻撃は他二体への経験値になる。あまり同じ手段では補えそうにないな」
 駆け抜けるミハイルを狙って阿修羅型が動き出そうとするのを一発の弾丸が遮った。
 阿修羅型が射線を読んで腕を交差させる。表皮で跳ねた弾丸はしかし、直後にその耳を削ぎ落とす。
 正確無比な狙撃に通信機から口笛が上がった。
『自分の一番の弱点は知っているものだけれど、二番目、三番目はおろそかになりがちだよね♪ 耳を潰した。今ならその個体、攻め放題だよ☆』
「オッケイ、ジェラルド。そいつから速攻で、叩き潰す」
 戦場に舞い降りたのはペンギン帽のラファルだ。応戦の阿修羅型へと掌底が叩き込まれた。
 連携から排除された個体は今、音による関知が潰されている。
 そのせいか、阿修羅の拳は行方を見失ったように彷徨った。
 その期を逃さぬラファルではない。四肢を分離させ、六体の義体の分身が阿修羅型へと怒涛の勢いで襲いかかった。
「まずはシリンダーの腕! そいつをいただくぜ!」
『はいはい。ま、ボクの射線に入った以上、もう魔性の域ってことで』
 照準器を覗き込むジェラルドの狙撃が孤立した阿修羅型のシリンダーを突き刺す。一発一発は大したことがない狙撃ではあるが、その精密さが明暗を分けた。
 シリンダーの回転軸にみしりと嫌な音が混じる。
 弾丸が回転台に滑り込み、動きを阻害しているのだ。それも織り込み済みのジェラルドの銃弾である。
 接近したラファルの回し蹴りが阿修羅型の頭部を打ちのめした。
「いいか? なんちゃって六本腕! これが本当に六体で戦うってことだ!」
 下段から浮き上がった掌底が阿修羅型を浮かせる。後方に回り込んだ分身がその背筋を蹴り上げ、さらに高空に位置するもう一体が拳を固めて頭頂部を打ち砕いた。
 間断のない暴力の応酬に阿修羅型の身体へと亀裂が走る。回転軸の六本腕がその瞬間、突風さえも巻き起こして稼動した。
 咄嗟の防御判断である。
 過負荷を無視してでも今、防御しなければやられるという決死の動作であったのだろう。
 だが、交差された六本腕の防御陣はすぐに解けた。
 腕同士がもつれ合い、紐のように絡まる。
「瞳術をもう食らってんだよ、たわけ阿修羅が。てめぇはもう正常な判断ができねぇ。そんでもって、こいつで――」
 ウロボロスの文様を瞳に浮かび上がらせたラファルが片腕を払う。構築されたナノマシンの刃が阿修羅型の胴体を貫通した。
「とどめって奴だ。一呼吸だったな、なんちゃって阿修羅野郎」
 刃を抜いた途端、内側から阿修羅の身体が膨れ上がった。膨張し切った阿修羅型が破裂し、公園に血の雨を降らせる。
 一体撃破の報が飛ぶ前に、雫がもう一体と応戦の火花を散らせていた。
 チルルが飛びかかったのとほぼ同時の作戦展開であったが、雫は阿修羅の拳を剣でいなし、堅実にその手数をさばいていく。
「私たちは、戦場で時に仏となって仏を斬り、鬼となって鬼を斬ってきました。……この道が阿修羅道に通じるというのならば、その通りなのかもしれませんね。私が阿修羅になる分ならば、まだいいです。でも、関係のない一般人まで、その道に引きずり込むことは許さない。少なくとも、この身は敵を見定めて振るう刃。その刃が敵と判じたのならば……」
 拳が瞬間的に暴風を発生させ、雫へと叩き込まれる。雫は左右にステップを踏み、熱暴走を誘発させるべく均衡を保たせていた。
 回転台へと銃撃が命中する。
 阿修羅が振り向いたのは銃を握るレフニーにであった。
「どうしました? せっかくの阿修羅とは言ってもやっぱり、あの漫画みたいに無敵じゃないですね。いいライバルには、なれそうにありません」
 レフニーの手の中で練られていくのは自然発火の炎であった。小さな種火が瞬間的に膨張し、阿修羅型の背筋を煉獄に落とし込む。
 シリンダーが加熱に耐えかねて熱暴走の煙を棚引かせた。
 その好機を雫は見逃さない。剣術が阿修羅の腕を一本、また一本と切り裂いていく。
「迷いなんてない。たとえ私も阿修羅と呼ばれようとも……。この剣を振るうことを、迷っていてはいけないんです」
 残りの腕は左右一対のみ。阿修羅型が最後の足掻きとでも言うように回転台の熱暴走を起こしつつ雫へと特攻する。しかし、あまりに遅い阿修羅の拳は、雫にとって止まっているに等しかった。
 剣の腹で受け止め、返す刀で袈裟斬りにする。
 よろめく阿修羅に雫は言い置いた。
「人に仇なす仏に、未来は語れないんです」
 倒れ伏した二体目にミハイルが報告の声を飛ばす。
「二体目撃破! ラスト一体に攻撃を集中! ジェラルド!」
『見えているとも。ここに位置取ってよかった。たまには狙撃も悪くないね☆』
 ジェラルドの狙撃待機位置は公園を一望できる近場のマンションである。特別に許可を借り入れ、地上七階建ての屋上でスナイパーの引き金を絞る。
 しかし首裏を完全に掻いたはずの一撃は回転台の放つ怒涛の拳に遮られることになる。
「見えている……? いや、違うね。経験則、か。二体の犠牲を経て、後ろを取られることを極度に恐れている」
 シリンダーが高速回転し、背筋と首裏を守る鉄壁の旋風を生み出す。
「でもそれってさ。前が見えていないんじゃない?」
 その言葉を裏付けるように、真正面から斬りつけたチルルの太刀筋への対応が遅れた。
 阿修羅型が後ずさるも、そのすぐ背後にはラファルがナノマシンの刃を片手に佇んでいる。
「諦めろよ。いくら六本腕の怪力超人って言っても、後はないぜ?」
「どうなさいますか? どちらを相手取っても、そちらには不利益しかありませんが」
 レフニーも常時、炎による攻撃が撃てるように相手を視野に入れている。
 雫が大剣を担ぎ上げた。
 ミハイルが照準する。全包囲を固められた阿修羅はどう動くか――。
 全員が固唾を呑んで見守る中、回転台の動きが止まった。ぴたりと静止した阿修羅が前に位置するチルルへと六本の拳を固める。
 どうやら最後は玉砕覚悟でも正面衝突で、という構えらしい。
 チルルが剣先を沈めた。
「いいわ! あたいが相手になってあげる!」
 阿修羅の拳が一斉にチルルへと襲いかかった。その速度、今までの比ではない。敵を一体に絞ったその膂力は余りある。
 チルルは暴風のように身体を煽りに来る拳を刀身で受け止め、剣先から氷結の一撃を生み出した。
 チルルの身体が浮き上がり、剣を軸としてその身が阿修羅の頭上で反転する。
 背後を取ったチルルの剣と、振り返り様の拳が交錯したのは一瞬。
 永遠にも思える一撃同士のクロスカウンター。
 それを制したのはチルルの剣であった。阿修羅の胸元を貫き、その身体が傾ぐ。
 刹那の決着に、ミハイルが報告を飛ばした。
「情況終了!」

「終わっても不良の溜まり場になるんじゃいただけないな。役所に公園の管理も言付けておくぜ」
 討伐の報告を行ったミハイルにジェラルドが言いやる。
「阿修羅型、思っていたよりもずっとやりやすかったけれど、最後の足掻きは……」
「ああ、こっちも阿修羅なんだって逆に言われているみたいだったな」
 刃を振るう以上、覚悟がいる。その覚悟を問い質すのが、仏であるのならば――。
「鏡、か。ボクにはああいうのは似合わないけれどね」
 刃を振るい続ける阿修羅になるのが撃退士ならば、この勝利でさえ、そのうねりの只中にある。
 せめて、今はうねりを忘れて、日常へと。
 それだけが願いであった。


依頼結果/参加キャラクター

依頼成功度:成功面白かった!:2人
MVP一覧
 ちのうしすうがたかい・雪室 チルル(ja0220)
 ペンギン帽子の・ラファル A ユーティライネン(jb4620)
重体一覧
 −

ちのうしすうがたかい・
雪室 チルル(ja0220)

高等部3年1組 女 ルインズブレイド
歴戦の戦姫・
雫(ja1894)

中等部2年1組 女 バハムートテイマー
護法の銀・
Rehni Nam(ja5283)

大学部1年5組 女 アストラルヴァンガード
ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

大学部8年2組 男 阿修羅
天に代わってお仕置きよ!・
ミハイル・エッカート(jb0544)

大学部5年9組 男 インフィルトレイター
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

大学部2年5組 女 アカシックレコーダー:タイプB


依頼相談掲示板

修羅を切る
Rehni Nam(ja5283)|大学部1年5組|女|アス
最終発言日時:2017年01月25日 23:15
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2017年01月22日 23:40


リプレイ投票

このリプレイが面白かったと感じた人は下のボタンを押してみましょう!
投票1回につき1ポイントを消費しますが、1回投票する毎に1,000久遠プレゼント!
あなたの投票がマスターの活力につながります。

現在のあなたのポイント:0







推奨環境:Internet Explorer7, FireFox3.6以上のブラウザ